第44話 約束


 一方、隆幸の方ではピンチが訪れていた!


「早く声かけろよ」

「ちょっ、ちょっと待って……」


 羅護に背中押されながらも逃げ腰の隆幸。

 実は様子を見に来た遥華が京堂さんと話し込んでいるのだ。

 それを見つけた瞬間、羅護達が隆幸の背中を遥華の方へと押し込んでいる。


「ほら、祭り終わったら呼び出しせんならんやろ? 早よ伝えとけって」

「待って、俺のタイミングで行くから! 絶対に押すなよ!」

「わかった。自分のタイミングで行くんだな?」

「行くから! 絶対に行くから! だから絶対に押すなよ!」

「わかった」


 隆幸の懇願を聞いて、全員が一度背中から手を放す。

 隆幸が深呼吸をした。


「よし、じゃあ……」

「ドーン!!!!」


ドン!


 問答無用で背中を思いっきり押すツギオ。


「どわぁ!」


 たたらを踏みながら遥華の前まで来てしまう隆幸。


「ハルカちゃーん! タカが何か話あるんだって!」


 後ろからトドメとばかりに大声で叫ぶツギオ。

 後ろを恨めしそうに睨む隆幸に、不思議そうに首をかしげるツギオ。


「あれ? 押せって意味じゃないの?」

「そうだ。間違ってないぞ!」


 ツギオの言葉にうんうんうなずく羅護。

 

(あの野郎……)


 本気で言っていたのだが、どうやら前振りと思われたようだ。

 そのことに気付いて後悔する隆幸だが、そんなことを気にしている時間は無かった。


「何か用?」


 物凄く冷たい目で見る遥華に気圧される隆幸。


(これって絶対失敗するコースじゃないか?)


 思い切り怖気づく隆幸だが、遥華の後ろからニコニコ笑顔でゴーサインを出す京堂さんを見て、覚悟を決めた。


「あ、あのさ……祭り終わったら用事があるんだけど……」

「……用事?」

「うん……」


 思いっきり声が小さくなっていく隆幸。

 後ろの方から「声ちっさ」とか言う言葉が聞こえてくるが、そんなことを気にしている余裕は彼には無い。

 震えながら小さな声で言った。


「その……終わったら公民館の裏に来てくれない?」

「公民館裏?」


 冷たい目をしたまま、静かに答える遥華。

 少しだけ目を細めて、周りを見渡した彼女の目に映ったのは……


「さ、明日の準備をするか」「忙しくなるね」「おっとアレを準備しないと」


 わざとらしく準備に戻る町の仲間達。

 完全にこっちを気にしているのでバレバレなんだが、その様子を見て軽くため息を吐いた遥華はこう言った。


「行けば良いのね?」

「は、はい……」


 蚊の鳴くような小さな声で答える隆幸。

 遥華は静かに聞いた。


「話はそれだけ?」

「それだけです……」

「わかった」


 それだけ言って去って行く遥華。

 少々どころでなく、怒っているように見える。

 遥華が完全に行ってしまってから、全員が集まった。


「やったなおい」

「あと少しだ」

「がんばれ」

「いや、どう見ても失敗するでしょ!」


 そう言って突っ込む隆幸だが、全員ニヤニヤ笑うだけだった。

 羅護はぽんっと隆幸の肩を叩く。


「ま、約束は約束だ。頑張れよ!」

「くそぉ……」


 悔しそうに呟く隆幸だが、突然携帯が鳴った。


「ああ、ごめん。ちょっと電話出るわ」


 そう言って電話に出る隆幸と散っていく面々。

 

『隆幸か! そっちにツギオはいるか?』

「居るけど、何やったん?」

『ちょっと代わってくれ!』


 父親の慌てた剣幕に訝しみつつ、ツギオに代わる隆幸。

 すると、ツギオは歩きながら隆幸に手招きして小声で尋ねる。


「どこか人通りの少ない所はない?」

「それなら、山裏の空き地があるけど?」

「ちょっと行こう」


そのまま少しだけ歩いて山裏の空き地に入る二人。

歩いて一分の場所だが、小さな掘っ立て小屋があるだけの場所だ。

電灯も道路側の一個しかなく、道路を挟んだ家も空き家で寂しい場所である。

そこでツギオは電話で話し込んでいた。


「うん……メジャーって言えばメジャーだね……うん……多分、その人が好きなだけだと思う……」

(何の話だ?)


 話の内容が気になりつつも、話終わるのを待つ隆幸。

 やがて、話しが終わったので電話を切るツギオ。


「何やったん?」

「例の渋谷の怪人の事件。どうも僕のタイムマシンと同じスタジオシャブリのポスターが貼ってあったみたい」

「……お前のタイムマシンと同じポスター?」

 

 不可解な偶然に眉を顰める隆幸。


「それで、あの作品は未来でもメジャーなのか?って聞かれたから、普通にメジャーだって答えたよ」

「未来でもメジャーなんだ? すげぇな」

「多分、タイムマシン買った人の趣味だと思う。ただの偶然だね」


 思わず感心する隆幸と平然と答えるツギオ。。

 時を超えて愛されるというのは中々に無いので、それだけで偉業と言えよう。

 ツギオは嬉しそうに笑う。


「この時代の漫画とかアニメはになるけど、それだけに色々と出てるよ。前の新世紀イェヴァン・ポルカとかもそうだし、ドラゴンパワードとかもそうだよ?」

「時を超えて愛されるなんてすげぇな!」


 そう言って笑う隆幸にツギオは言った。

 だが、不意に隆幸が優しい顔になった。


「あ~……そのなんだ……お前に言っておきたいことがあるんだけど……」

「なに?」


 不思議そうにするツギオに隆幸が恥ずかしそうに言った。


「ありがとう」

「うん?」


 さらに不思議そうにするツギオだが、隆幸は横向きながら言った。


「その……お前のおかげでさ。祭りに出ることも出来るようになって、遥華とも何か決着がつきそうだしさ。今の内に言っとこうと思ってさ……」

「ふふふ……」


 ニヤニヤ笑うツギオに少しだけむっとする隆幸。


「あ~、やっぱ無しだ! 帰るぞ!」

「ええ~?」


 大股で帰る隆幸に苦笑しながらもついて行くツギオだった。


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