第42話 謎の失伝

「……変なのですか?」

「ああ」


 そう言って副団長は太刀を地面に置いた。

 そして、拳を握って構える。


「二人棒に得物を捨てるところあるやろ?」

「ああ、ありますね」


 二人棒とは二人でやる演武である。

 薙刀と両太刀(二刀流)でやる演武ではあるが、持っている武器を互いに取り合って、捨て、拳で演武するシーンがある。

 副団長は拳を構えた状態で得物に向かって……


くるりん!


 でんぐり返しをした!

 すると……


「オリャァ!」


 そのまま立ち上がり、太刀を手に構えて見せる。


「こんな感じで得物を拾う技もあるんだ」

「へぇ~……えっ?」


 そこでキョトンとする隆幸。


「拾ってからどうするんですか?」

「そのまま演武してヨイヤに入る」

「はぁ……」


 不思議そうに首をかしげる隆幸。

 別におかしなことではないが、古屋形流棒振りの流れを知っている者なら「何で?」とおもうような不思議な技である。

 副団長も不思議そうに言った。


「うちらの所だと二人棒以上は、素手でヨイヤするようになったから廃れたんだが、他の所はそもそも得物捨てんからな。得物持ってそのままヨイヤだし、そっちと一緒になるだけやから間違いではないんだが……」

「はい……何か変ですね?」


 不思議そうな隆幸だが、副団長は首を傾げながら続ける。


「何がおかしいかと言えば、わ」

「……セットですか?」


 きょとんとする隆幸。

 

「実際にやって見せるか」


 そう言って副団長は太刀を持って兜抜きをやって見せる。


「オリャァ!」


 足元を薙払ってからの脳天割りをして突く副団長だが……


ポイ


 


「「「……ええっ?」」」


 見ていた人間が一様に困惑する。


「おりゃぁ!」


 困惑する一同をよそに副団長が素手で構えた後……


くるりん!


 


「「「……………………何で?」」」


 全員がきょとんとしていると副団長は言った。


「わしもよくわからんのやけど、本来の兜抜きはこれがセットらしいんや。見ての通り、どう頑張っても捨てるところがみっともないし、意味がわからんからやらなくなって、兜抜きだけが残ってん……」

「……まあ、そうなりますよねぇ……」


 いくら何でも捨てた太刀を拾うのはおかしいだろう。

 副団長は困り顔で言った。


「未だにこれだけはわっからん。何でこんな型があるのかも……」

「そうっすねぇ……」


 不思議そうな隆幸だが、同じく不思議そうなツギオがぼやく。


「でも、已己巳己流に元々あった型なら、実際に実戦に使われたってことですよね?」

「そうらしい。細かいことは親父さんにも聞いてみたらどうだ?」

「はい……」


 そう答える隆幸。

 すると、羅護から声がかかる。


「おーい! 団長が早く法被取りに来いって!」

「わかった!」


 慌てて隆幸が団長の所へ向かう。

 団長の所では法被を配っていた。

 一人ずつ順番に法被を貰い、一言ずつ貰う。


「今年も頼んだぞ!」

「はい!」


 順番に法被を貰う男たち。


(普段はかっこいいんだけどなぁ……)

 

 この前の酔っぱらった醜態を見て思わず吹き出す隆幸。

 隆幸の番が来ると団長は法被を渡そうとして……


 ひゅんっ♪


 その手を引っ込める。


「約束は忘れ取らんやろうな?」

「約束と団長の土下座は忘れてないっす!」

「そっちは忘れんかい!」


 笑いながら法被を隆幸に渡す団長。


「がんばれよ」

「はい!」


 団長の笑顔に笑顔で答える隆幸だった。


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