第37話 必要なことは?


 帰り道……

 隆幸はぼんやりと考えていた。


(魂の継承か……)


 頭の中でグルグル回っていた物の一つが綺麗に収まった感じがする隆幸。


(千年間……色んな危機があったけど伝えてきたんだな……)


 千年後に魂を継承する祭りが続いている。

 それなら、これをやることに意義があるとわかってきたのだ。


(形は色々変わっているようだけど……残るってことは、間違ってないんだな……)

 

 どんなに古臭いと言われても、

 とあるゲーム業界の人は「ゲーム業界の明後日の話しをしてた奴が明日食う米の心配を始めた」と言っていた。

 ゲームに限らず、あらゆる業界で未来について語った奴の大半は来年には消えている。

 『最先端』はあくまでも『その時の最先端』でしかない。

 


 


 そんな中、形が変われども魂を継承する物がどれほどありがたいものだろうか?

 やっていることは馬鹿だが、彼らがやっているのは「」ことに他ならない。


 かつて至高と言われた国が没落することもあり……

 かつて土人と呼ばれた国が世界の最先端になることもある……


 それほどまでに世界は変わっていくのだ。


(意味があるんだ……無駄じゃないんだ……)


 世の中に無駄な物は確かにあるだろう。

 だが、それとて経験になるのなら……それは「糧」である。

 そして何よりも……


(無くなったら大変なんだな……)


 

 鎌倉期の日本刀は未だに作り方がわかっていない。

 今となっては貴重な技術だが、


 


 今売ってるエロ本ですら、百年もすれば『貴重な資料の一つ』になり、千年経てば『重要文化財』である。

 逆に価値が上がると言われていた物が、ゴミくずに変わることもある。

 

 簡単に切り捨てて良い物ではない。


 そこまで気付いた隆幸は自分の気持ちに気が付いた。

 くだらない虚飾を取り払われた奥にある答えが見つかった。


(後は……こっちの問題だけか……)

 

 家に帰る隆幸の目の前に……遥華が現れた。


「……………………」


 遥華は憮然とした表情で隆幸の方を見ている。

 どうやら三味線の練習の帰りらしく、たまたま遭遇した感じではあるが、相手にとっては都合が良かったらしい。


「ちょっとは目が覚めた?」


 仁王立ちする遥華の姿にどうしようか考える隆幸。


「わからん」

「まだわからないの?」


 呆れる遥華の様子に困り顔になる隆幸。


「ただ……」

「ただ?」

「今年の祭りは出ようと思う」

「最初っから、そう言えばいいのよ」


 呆れる遥華だが、隆幸は少しだけ考えて尋ねた。


「遥華はさ……」

「何?」

「俺と祭りに出たい?」


 隆幸が真剣な顔で尋ねると遥華は少しだけ考えて言った。


「……タカと……」

「俺と?」

「タカと一緒に居たい……」


 遥華の顔は何とも言えない顔になっていた。

 好きと嫌いが混ざり合ったような……どう答えていいかわからない顔になっていた。

 隆幸は静かに言った。


「わかった」

 

 それだけを言う隆幸の顔もまた……どうしていいのかわからない顔になる。


「「……………………」」


 しばらくの間、黙り込む二人。


 やがて、遥華の方から静かに去って行った。


 それを見て頭をかく隆幸。


「どうすりゃ良いんだろう?」


 そうぼやいて隆幸もまた家へと帰り始める。

 すると……


「おー♪ タカ君ではありませんか♪ 何をやっているのでふか?」


 楢樫団長の陽気な声が隆幸の耳に届いた。

 思わず辺りを見渡す隆幸だが、暗闇でもぞもぞと動く影が見えたのでそこへ行ってみると……


「何をやってるんですか?」


 楢樫団長が酔っぱらって倒れていた。



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