第29話 過去にきた理由

「本当は何しにここに来た?」


 隆幸はジト目で睨みながら尋ねると、ツギオは困り顔で答える。


「……遊びに来ただけです」

「……遊びに?」


 コクンとうなずくツギオ。


「博士がタイムマシンの試運転を何回か終わらせたあと、行きたい時代と場所は無いかと聞かれたから、ぱっと思いついたのがこの時代だったから。その話を祭り仲間に話したら、『ついでに昔の祭りどんなんだったか見てきてくれ』ってなって、それで貸してもらってこの時代に……」

「本当にただのノリで来たのか?」

「うん」


 あっさりうなずくツギオ。

 そして口を尖らせて言った。


「だって、いまのおっさん達は『昔はもっと厳しかったんだぞ!』『俺達はもっとすごかったぞ』ってえらそーに色々言ってくるから、もっと昔の様子を撮ったのを見せたら黙ると思ったから」

「ただの世代喧嘩かよ!」


 あんまりな理由に呆れる隆幸。

 とは言え、この手の問題は人類の歴史が続く限り常に起きるのだろう。

 おっさんと反抗する若い世代はもはや様式美ですらある。

 だが、すぐに隆幸は気付いた。


「それだったら、その世代のおっさんたちを見てきた方が良いんじゃないか? 千年前なんて意味無いだろ?」

「あ~……実はこの時代には我が町の唯一の英雄が居るんだ。だからその時代にしたんだ」

「……英雄? 誰だそれ?」

「……って言うんだ」

「……………………えっ?」


 意外な人物の名前にきょとんとする隆幸。


「タカはね。

「……………………俺がぁ!?」

「そうだよ」


 そう言ってにやにや笑うツギオ。


「歴史が変わるかもしれないから言えないけど、タカはその戦いで英雄として歴史に名を残すんだ。他に歴史に名を残す有名人なんて町に居ないし……」

「まあ、歴史に名を残すほどの有名人なんて、そうそうは現れんだろうけど……」


 それを聞いて、わかったよーなわからんよーな顔になる隆幸。


「でも大戦ってのは嫌な話だな。これから第三次世界大戦が起きるなんて……」

「あ~……そんな名前じゃなかったけどねぇ……」


 困り顔で答えるツギオに不思議そうにする隆幸。


「もっと局地的な戦争か? 大体戦争ってどこと戦うんだよ?」

「あ~……ブランディールって国なんだけど……」

「……ブランディール? そんな国あったか?」

「えーと……まあ、まだ歴史の表舞台に出てきてないから知らないと思うよ……」


 ツギオはあはははと誤魔化すように笑う。

 それを聞いて胡散臭そうにツギオを見る隆幸。


「大体、歴史が変わるのが怖いなら俺と接触するのはまずいだろ?」

「そこは、差し迫った理由がありまして……」

「何だ?」

「記録に残ってて確実に正しいとわかってるのは隆幸の家だけだったから……」

「……何で?」

「だって、千年後に町が原型とどめてる訳ないでしょ? こっちには400年の歴史があるお店もあるけど、それだって今から600年後に開店するんだよ? 高層ビルだって多いし……?」

「……そういうことか」


 発展したおかげで町の原型がとどめていないのだ。

 そしてうっかり建物の中に転移すると壁の中に埋まるのだ。


「タカの生家はキチンと模型でも建物でも再現されてるし、確実に『歴史上、空中に何もない』とわかってるから、もし、時代がずれて転移しても

「まあ確かに……」

「それに家の庭に現れたら確実に関係者になれるから色々助けてもらえるかもしれないし」

「巻き込む気満々じゃねーか! さっきの歴史が変わる云々を全然気にしてねーだろ?」

「そこはそれ。これはこれ」

「そう言えば何でも許されると思うなよ?」


 そう返す隆幸だが、ツギオは笑って言った。


「でも来て良かったよ。お陰で昔の棒振りを勉強できたし……」

「……そんなの未来でも変わらねーだろ?」


 あきれ顔の隆幸にツギオは真剣な表情で言った。


「とんでもない! 全然違うよ!」

「……えっ?」


 意外な言葉にきょとんとする隆幸。


「見たことない技も多いし、振り方とかも違うし、カッコいいの基準も違うし……」

「……それはもう全然別の流派の棒振りじゃねーか?」

「そう言われるとそうなるけど……」


 隆幸のツッコミに困り顔のツギオ。


「古屋形流の棒振りは…………」

「……どういう意味だ?」


 怪訝そうな顔の隆幸にツギオは悲しそうにこたえる。


「後継者問題だよ。参加する人が少なくなると、祭りは出来なくなる。古屋形流の棒振りも途中で何度も合併分離を他の町と繰り返してるから、

「……いつの時代も一緒か」


 悲しいことに日本全国……下手すると

 田舎の過疎化が進むにつれて、その土地の文化が消えるのだ。

 そして


「でも高層マンションとかあるんだろ? そんだけの人口があれば、無くなる方が難しいだろ?」

「他の土地から来た人も大半が『住んでるだけ』の人だから。町がどうなろうと一切気にしないよ。むしろ祭りは無くなれと思ってる人も居るぐらいだし」

「……………………」


 何となく、何でそうなっているのかを察して黙り込む隆幸。


「久世将軍は戦争が終わってからは祭りが残るように尽力してくれた人でもあるんだ。色んな形で残そうとしてくれた人で、その人のお陰で祭りが残ったんだ」


 それを聞いてムッとする隆幸。

 ツギオは何かに期待するように言った。


「だからさ。タカももっと祭りに「俺はそんなことしねーよ」……えっ?」


 隆幸の怒気の籠った声に少しだけ怯えるツギオ。


「俺は祭りを残さねーよ! こんな祭りは無くなれば良い!」

「……………………」


 それを聞いて悲しそうな顔になるツギオ。


「わかったら、早く出ていけ」

「……………………わかったよ」


 そう言ってツギオはトボトと部屋を出る。

 ツギオが居なくなり、静かになった部屋で……………………


「くそっ!」


 隆幸はベッドにパンチを入れた。


くにゃり……


 その衝撃で窓際の薔薇が萎れて項垂れた。


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