第25話 祖父の思い


 その夜、隆幸は夢を見た。


「じいちゃん大丈夫か?」

「おー。隆幸。よく来てくれた」


 そう言って笑顔で迎える祖父は病院のベッドで寝ていた。

 

「具合はどう?」

「最近は調子が良くてな」


 そう言って力こぶを作って見せる祖父だが、昔と違って細い腕が曲がっているだけだった。

 祖父に入院用の着替えを渡して隆幸が聞いた。


「そうそう。親父が変な刀があるって見せてくれたけど、あれは何?」

「変な刀?」

「えーと……これこれ」


 そう言って祖父にスマホで刀を見せる隆幸。

 『伝統』と銘打たれた刀を見て祖父はくすりと笑う


「あーこれか……」

「なんか刀にしちゃ新しい気がするけど、これって何なん?」


 隆幸が不思議そうにすると祖父は笑って言った。


「ダイヤモンド、超硬度鋼、サーメット、高速度工具鋼など入念に折り返し鍛錬して、ウルツァイト窒化ホウ素を焼結した刃を持ち、柄の部分は強化プラスチック。現時点で作れる最高の刀じゃ」

「……そんなこと言われてもよーわからんのだけど?」

「まあ、現代の技術を集めて作った刀じゃ」


 そう言って祖父は笑うのだが、隆幸は困り顔である。


「親父が捨てても良いか聞いて来いって」

「だ~っ! あれは絶対捨てるなよ! すげぇ高かったんじゃからな!」

「高かったって……なんでそんな変な物にお金かけんだよ!」

「男の浪漫じゃ!」

「やかましい!」


 そう言って祖父の頭をはたく隆幸。


「おとんとばあちゃんを苦労させてまで一体何やってんだよ……」

「そんなに迷惑かけてないけどなぁ……」


 困り顔で人差し指をちょんちょんする祖父。


「そんな刀をいつ使うつもりで用意したんだよ?」

「だって、晴幸も居合やるし、使うことあるかと思って」

「親父は重すぎて振れんと言っとったぞ?」

「あちゃぁ……重量ミスったな……」

「結局使えねーじゃん」


 祖父の言葉にあきれ顔の隆幸。

 祖父がベッドの上で懐かしそうに言った。

 

「うちの親父も居合切り上手かったからなぁ……戦争で危うく戦犯になりかけてたし」

「親子三代でやってたのかよ……」


 少々呆れる隆幸。

 ちなみに曽祖父は戦争に行ってたらしい。

 呆れ気味の隆幸に疑問に思ったのか、祖父が不思議そうに尋ねる。


「隆幸はせんのか?」

「この科学の時代に居合切りなんて役に立たないし」


 あっさりと答える隆幸を見て祖父の目が鋭くなった。


「科学と何の関係がある?」

「……そりゃ、どんだけ頑張っても銃には勝てないだろ?」

「……そりゃ、銃には勝てんだろうが……」


 そう言って祖父は何やら深く考え込み始めた。

 その様子を訝し気に見やる隆幸。


「どしたん?」

「ちょっと気になってな……ふむ……」


 祖父はしばらく考えたのだが……不意に声を上げた。


「あの刀に『伝統』と名付けた意味はわかるか?」

「……全然わかんない」


 隆幸がそう言うと祖父はからからと笑う。


「じゃあ、ヒントをやろう」

「いや、答えを言ってくれ」

「あの刀は最新の技術で作っておる」

「聞けよ人の話」


 隆幸の鋭いツッコミを無視する祖父。


「では聞く。あれは『日本刀』か?」

「……ええっ?」


 言われて思案する隆幸だが……


(……あれ? どうなるんだろ?)


 隆幸が知っている日本刀とはおおよそ違う物である。

 と言うよりも何から何まで、材料すら日本由来とは言えない。

 

(……あれは一体何なんだ?)


 困り果てる隆幸にカラカラと笑う祖父。


「どうじゃ?」

「日本刀……じゃない? ただの刀かな?」

「ほほう……何故そう思った?」

「何故って……伝統的な造りじゃないし、何もかもが違うし……」


 隆幸がそう言うと祖父はさらに笑った。


「では聞く。仮にだが、タイムトラベルして、あの刀を宮本武蔵に渡したとしよう」

「……うん?」

「宮本武蔵はどう答えると思う?」

「……ええっ?」


 さらに困惑する隆幸だが、その答えはすぐに出た。


「多分……日本刀って言うと思う」

「そうじゃろうなぁ……そして思う存分使用して宮本武蔵の刀として歴史に名を残すじゃろう。『日本刀』としてな」

「まあ……そうなるだろうけど……」


 困り顔の隆幸に、にこやかに笑う祖父。


「そういうことじゃ。現代に刀を作ろうとするとこうなる。伝統はそういうもんじゃよ」


 祖父がにっこり笑顔になると同時に隆幸は目を覚ました。


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