第21話 怪人の正体は怪人

「傷痍軍人ってわかるかな? 戦争で怪我した軍人さんなんだけど、中には怪我しても軍属で居たいって人が居て、そういう人が無くした腕や足の代わりに遺伝子強化された手足を付けるんだ」

「……なんだと?」


 もっと不穏当な言葉に顔を顰める久世父。


「そういう人たちが敵国に侵入して工作を行うことが多くて、その怪人に似てはいるんだけど……」

「だけど?」

「もっと未来の技術のはずなんだけどなぁ……」

「……もっと未来の技術?」

「うん……例えばだけど、アウルってわかる?」

「……なにそれ?」


 不思議そうな顔で答える隆幸。


「ブランディールとかバルドーとかクルムは?」

「全くわからん」


 久世父も不思議そうに答える。


「この怪人って兵種はブランディールの軍が地球の歴史に出てこないと現れない存在なんだ。だからもっと未来で無いと怪人ってものは出てこないはずなんだけど……何で居るんだろ?」


 不思議そうに首を傾げるツギオ。

 話を聞いていて隆幸が尋ねる。


「それで、この怪人ってのはお前に関係があるのか?」

「全く関係ないはずだけど……」

「……だけど?」


 言葉を濁すツギオだが、少しだけ考えて答えた。


「うん。やっぱり関係ないね」

「……本当に関係ないのか?」


 じろりと睨む隆幸だが、困り顔に答えるツギオ。


「怪人はそう簡単に扱えない者だから、余程の標的でない限り出てこないよ。僕の知らない所で僕が国家レベルの作戦のターゲットになってるなら話は別だけど、その可能性は低いなぁ……」


 苦笑いで答えるツギオ。


「だって、僕は未来だとただの一般人だよ? 軍が出てくるほどの……それもテロリストが関与するほどの大事件に巻き込まれてる可能性は低いかなぁ……」

「……そういやそうだな」


 言われて納得する隆幸。

 当り前だが、余程の事が無い限り国家レベルの敵になることは無い。

 歌では「世界を敵に回しても僕だけは君の味方で居る」と言うが、味方になるよりも世界中を敵に回す方が難しいのである。


「そりゃ、僕が軍の重要機密パクったとか、国の命運を握る要人なら話しは別だけど、そんなに偉くないし、ここに来たのも大昔の祭り見に来ただけだし……」

「改めて聞くとすげぇ軽い理由で時を超えて来てるな」

「いやぁそれほどでも……」

「褒めてねぇよ」


 照れるツギオに容赦なく突っ込む隆幸。

 久世父は思案して言った。


「つまりは無関係か……」

「そうだね」


 久世父の困り顔に素直に答えるツギオ。

 隆幸が不思議そうに尋ねる。


「そんで、何で未来に居るはずの怪人がここに現れたんだ?」

「そこは何とも……あ、でもそう考えると関係あるかも……」

「……どういうことだ?」

「だって、タイムマシンを開発したんだよ? これが商品化されたら作り方を高額で売るとか特許取るとかするだろうし、そうなるとそれを利用する者が現れるから……」

「……つまり、つまり未来でうちの庭に鎮座した金〇擬きを買った奴が、何がしか悪事を考えているってことだな?」

「多分……何の悪事かまではわからないけど……あと、〇玉呼ばわりは流石に止めてよ」


 苦笑いをするツギオに少しだけ頭を押さえる隆幸。

 久世父はと言えば冷静な顔で言った。


「ちなみにこの怪人ってのを倒すにはどうすれば良い?」

「うーん……怪人はバディルを着けた精鋭兵士と同等って言われてるからねぇ……」


 今度はツギオの方が思案顔になる。

 隆幸が不思議そうに尋ねる。


「なんだそのバドワイザーってのは?」

「バディルだよ。えーと……何て言うのかな? 兵士たちが身に着ける補助鎧? どう言えば良いんだろ?」


 さらに困り顔になるツギオだが、隆幸には心当たりがあった。


「ひょっとしてあのパワードスーツみたいなものか?」

「パワードスーツって何?」

「ほら、お前が車持ち上げた時に使ったあのスーツみたいなやつ」

「そうそう! あれのこと! あれは車修理用の簡易タイプだけど、あれに装甲着けたのがバディル」

「……マジか」


 久世父は冷や汗をたらりと流す。


「じゃあ、普通の銃弾じゃ効かないってことか?」

「そうだね……ってそうか! 今の時代じゃ倒すのも難しいんだ!」

「今頃気付いたのかよ!」


 ツギオの態度に呆れる隆幸。


「何か倒す方法は無いのかよ?」

「バルドー……未来のバディルを着けた兵隊と互角だから……えーと……戦車倒すほどの攻撃?」

「そんなもん町中で撃てるか!」


 当り前だが、日本の町中で対戦車ランチャーは例え政府と言えど、おいそれと撃てるものではない。

 流石の久世父も息を飲む。


「……これは困ったな……警察で対応できるレベルでは無いな……

「皮膚の下に鋼鉄を仕込んでいるから銃弾はまず効かないよ」

「ありがたい情報をありがとう」


 久世父が仏頂面でツギオの言葉に答える。

 このレベルの案件は自衛隊の管轄になるだろう。

 なるのだが……


「だが、自衛隊でも対応できるか? 倒す方法はあるが……」


 久世父が困り顔で唸る。

 自衛隊には倒す方法がいくらでもあるが、何かと厳しい視線に晒されている。

 それでなくても厳しい立場なのに町中でロケットランチャーなど撃てるはずもない。

 そんな困り顔の二人にツギオは言った。


「ま、まあ、僕らには関係ないことだし、誰かがなんとかしてくれるんじゃない? それにテロリストなら事が済めば素直に帰ってくれると思うし」

「そうだと良いけど……いや良くないけど……どうしようもないか……」


 隆幸は何となく、嫌な予感がした。


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