第15話 祭りのイメージ


「久世殿。あれは無いでござるよ?」

「俺も反省してるよ」


 眼鏡を着けた太り気味の男が隆幸と共に弁当を食べながら言った。

 一緒に居る痩せた出っ歯の男がぼやく。


「久世君。君があんなこと言うなんてらしくない。何かあったのか?」

「色々とあったんだよ……」


 ぼやきながら弁当のから揚げを頬張る隆幸。

 昼休みになったので隆幸は友達と教室でご飯を頂いているところである。

 ちなみに太っている眼鏡が佐藤で痩せてる出っ歯が鈴木だ。

 隆幸が食べ終わったので一息つける。


「なんか今年も祭り出ることになりそうだからさぁ……ちょっと憂鬱なんだよなぁ……」


 はぁっとため息を吐く隆幸。

 すると、二人ともうんうんうなずいた。


「わかる。わかるでござるよ久世殿」

「あのリア充というかヤンキーのたまり場的世界が性に合わないんでしょう?」

「いや、そっちは別に問題ないんだが……」


 隆幸が少しだけ佐藤の言い分を否定する。

 すると今度は鈴木の方が言った。


「大体、あんなことやるのに何の意義があるのやら……あれはただ地元のヤンキーが暴れたいだけですからね」


 鈴木がそう呟くのだが、隆幸はその辺で違和感を感じた。


(うーん……二人の言いたいことも分かるんだが……)


 まあ、はっきり言えば「祭りが合わない」のだろう。

 ああいったはっちゃけた内容の遊びは人によっては苦手である。

 苦手ではあるが……


(……なんか変だな……)


 二人の言葉に妙な違和感を感じる隆幸。


(そう考えるのはダメなんじゃないけど……)


 ダメではない。ダメなことではない。


(ダメじゃないのに間違ってると感じるのは何故だろう?)


 奇妙な感覚に捕らわれる隆幸。

 二人はテンションが上がったのか更に言い募る。


「おっさんが酒を飲む口実が欲しいだけでござるよ」

「バカな真似やってはっちゃけて何が楽しいのやら」


 散々、祭りの悪口を言う。

 すると、流石に隆幸も言い返した。


「いやぁ、あれはあれで楽しいもんだよ? いっぺんやってみんか?」

「「絶対いやだ」」


 口を揃えて答える二人。


「久世殿の町は金剣町でしょう? あそこの祭りは激しいし大きいから嫌でござる」

「あそこの祭りは色々下品だからなおのことだよ」


 そうぼやく二人。


(いや、まあ確かに下品なのは認めるけど……)


 昔ながらの春歌を歌うことも多いのが祭りである。

 ちなみに春歌とは「エロ歌」の事で、昔から歌われているのだ。


(まあ、エロ歌ばっかりだし、あの馬鹿馬鹿しさが良いんだけど……)


 どうやら二人ともお好きでは無いようだ。

 二人は首を横に振りながらぼやく。


「祭りなんて無駄に時間を取られるからいらないものだよ」

「あんなのはお金と労力の無駄だよ。何のために神輿担いだり山車引っ張るのやら……」


 当り前のようにそうぼやく二人。


チクリ


 隆幸の心に小さなトゲが刺さるような音を感じた。


(……………………)


 言いようのないモヤモヤに襲われる隆幸。


(……相談しない方が良かったかな?)


 かえってモヤモヤが増えてしまい、気晴らしにケータイを広げる隆幸。

 そしてワンセグテレビを開いてみて……その顔が凍り付く。


「……なんだ?」


 変なニュースが流れてきたのだ。

 渋谷ハロウィンでの殺人事件に凍り付く三人。

 それを見せると鈴木が言った。


「そういや、テレビで流れていたな。ロードローラーで人が轢き殺されたらしいよ」

「まじか……」

「こわいでござる」


 そう言って体を震わせる佐藤。

 まあ、太ってるので脂肪が震えただけなのだが……

 鈴木はと言えば流石に遠くの話なので大して気にしていないようだ。


「そういう危険な奴が現れたから向こうじゃ集団登校が始まったみたいやね」

「怖いことが起きるなぁ……」


 そう言って何度もニュースを見直す隆幸。


(……なんか起きてるのかな?)


 そんなことを考えながら隆幸は何度もそのニュースを見直した。


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