第8話 本当に未来人?

「粋に感じたぞ小僧ぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 豪快に男泣きをする久世父に隆幸は、あちゃぁっと顔を覆う。


(また始まった……)


 久世父は祭り馬鹿の一人で毎年祭りに出ている男である。

 そのお祭り男に『祭りがなくなったので復活させたい』という少年が来たのだ。

 しかも千年後の未来からである。


「昨今! 祭りに出てくれと言うと『めんどくさい』とか『必要ない』とか言い出すクソガキが多い中、千年後の未来から学びに来るだと! 少年よ! 名前は何と言う?」

「ええっと……ツギオです……」


 あまりにも激しく男泣きをする久世父にドン引きする少年。

 久世父がガシィっと少年の肩を掴む!


「好きなだけ居なさい! おじさんが面倒見てあげよう! 丁度祭りの準備をしている時だ! 隆幸と一緒に今すぐにでも青年団に……」

「落ち着け親父」


ゴスッ!


 シャツに入れておいた『TENGOKU』と言う風俗雑誌を手に親父の頭を殴る隆幸。


「な、なにをする隆幸!」

「そもそもこのツギオが本当に千年後の未来から来たかどうかも怪しいだろ!」


 そう言ってとツギオと名乗った少年を指さす隆幸。


「大体、こんなアニメTシャツ着てる時点でおかしいだろうが! お前は何でこんなアニメTシャツ着てんだよ!」


 そう言って突っ込む隆幸。

 それを見てぼそりと呟く久世母。


「あたしが気になるのはこの風俗雑誌をどこから持ってきたのかってことなんだけど? あんたこんな店に出入りしてるの?」

「親父の部屋にあったよ?」

「あなた……これが終わったらちょっと話があるわ」


 問い詰め顔の隆幸と久世母に対して困り顔になるツギオと久世父。

ツギオは困りながらも、ぼそりと答える。


「そのぅ……よくわからないですけど、このTシャツを着ていると『ヲタク』と思われるらしくって、多少変な真似をしても疑われないって思ったからです。この時代のこのTシャツ着てる人は変な真似とかしてるんでしょ?」

「……えーと……」


 ツギオに言われて考える隆幸。

 言われてみれば各地の『聖地巡礼』でコスプレしたりしてるので、未来から見たら色々おかしいと言える。


「そもそも逆に未来人らしい恰好で行くと速攻で警察呼ばれて拘束されますから。歴史が変わるとか色んな恐れもあるから、未来にある資料で一番入り込みやすい時代がここかなと考えてきたんです」


 そう言ってツギオは携帯電話のような物を取りだす。


ブォン!


 携帯電話からホログラフィーが出て、画像が浮き出る。

 ホログラフィーのような透けたモノではなく、後ろが見えなくなるようなくっきりとした映像だ。


「こういった物を見せつけるように持っていても、警察呼ばれるだけだし、それだったら、現地に溶け込めるような服の方が良いなって……」

「…………………………………………」


 一応、筋の通った話しに隆幸は黙り込む。

 確かにこういった機械は今の時代には存在しない。

 

(でも俺が知らないだけでこういった機械がある可能性もあるし、手品の可能性もある)


 そんな風に見せるだけなら、できなくも無いのだ。

 どうしようかと困り顔になっている隆幸だが、ツギオは財布らしきものを取りだして紙幣を見せる。


「確か、この人ってこの時代の有名な人でしょ? これ見たら信じてくれる?」

「どれどれ……っておい!」


 紙幣には平成で一番偉大なコメディアンが描かれていた。

 コメディアンの殿様メイクが描かれた紙幣を見て疑わしくなる隆幸。


「信じられるか! 何でこの人が紙幣になってんだよ!」

「それは僕に言われても政府が決めたことだから……なんでも過去の偉大な政治家を選ぶと他国の人がいちゃもんつけるから、誰が見ても不快感を感じない偉人って理由で選ばれたらしいけど……」

「うっ……」


 ツギオに言われて鼻白む隆幸。

 ごく最近に行われた紙幣の肖像画の選定理由が全く同じだったからだ。

 政治的偉人は何かしら他国に影響を与えているので、他国の人間が不快に感じない人物となると、大分限られてくる。

 ツギオは自分のTシャツを見せながら言った。


「僕はよくわかんないけど、文化人を選ぶことが多いんだって。この時代の人だと、漫画家の人とか、アニメ関係の人とか……一応、このアニメ作った人も紙幣になったよ?」

「……まあ、そう言われると確かに選ばれやすいか……それだけじゃなぁ……」


 まことにややこしきは人の世で、こんな事情があると千年後に紙幣にえらばれる可能性もあるのだ。

 二千円札に選ばれた紫式部もある種の官能小説家とも言えるので、あながち間違ってはいない。


 難色を示す隆幸だが、ツギオはぽんっと手を打った。


「そうだいい方法がある!」


 そう言ってリビングからそのまま庭へ戻るツギオは自分が出てきた球体の中へと入り、何やら探し始めた。


「えーと確かここに……あった!」


 ツギオは中から出てくると変な黒い球のようなものを持ち出し、球体を指さす。


「この車はどこに置けば良いですか?」

「どうしたんだ急に? と言うか、それ車だったのか?」

「良いから良いから♪」


 不思議そうな父親に促すツギオ。

 父親は「じゃあ、そこの邪魔にならない所で」とお願いする。

 するとツギオは持っていた黒い球を掲げて言った。


「装着!」


カシャンカシャンカシャン……


 黒い球が突然弾け、ツギオの体に纏わりつき始めた!

 それを見た瞬間、隆幸は呟いた。


「あ、アイアンパンチのパワードスーツか?」


 驚く隆幸を尻目に、ツギオの体はあっという間に黒いパワードスーツに覆いつくされる。

 そして、装着されると同時にツギオは球体の下部に触って……


「よっと」


 

 唖然とする家族三人を尻目にツギオは言われたところに球体を置く。

 そして笑顔で三人に向かって言った。


「信じてもらえましたか?」

「信じるよ」


 ようやく隆幸も納得した、

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