第13話 先達者として
メビアーヌの体力が段々となくなり、攻撃が守りへとなっていく。
「呼吸が乱れて集中力が落ちてるぞ」
「はい!」
根性だけは立派だが、実力が伴わなければ意味はない。強い一撃で杖を吹き飛ばしてやった。
「休憩と瞑想だ」
自身が持つ治癒力も鍛える。魔法使いは戦いの最後まで立っていなければならない。戦士より先に倒れたら恥と思え、だ。
魔力と体力が回復したらまた打ち合いをする。
それを八回もやるとメビアーヌは地に崩れ、呼吸困難一歩手前に陥ってしまう。
オレも昔のように動けなくなっている。少し息切れしてしまった。
……酒の飲みすぎかな……?
まあ、だからって酒を止めるつもりはないがな!
「よし。今日はここまで。汗を流してこい」
訓練場には風呂も完備している。まあ、水と火は自前だかな。
「お疲れさま。よく冷えた水をどうぞ」
ハウシーさんの奥さんが水を持ってきてくれた。
「よく冷えたエールが飲みたいです」
「それは家うちに帰ってから飲みなさい」
どこの奥さんも酒のみには厳しいです。ただ、喉を潤したいだけなのに……。
「なにか食べるかい?」
「いえ、家に帰ってから食べますよ。リオ夫人が作ってくれてますから」
晩酌しながらリオ夫人の料理を食べる。至福である。
「ミドさんもいい歳なんだから嫁をもらいなさい。リオさんなんてちょうどいいじゃないか」
またか。くる度に嫁を勧めるんだからたまらんよ。
「この歳だからこそ嫁なんてもらえませんよ。リオ夫人も再婚するつもりはないって言ってますしね」
いつもの答えを返して断った。
「まったく、困った男だよ」
「ハイハイ、オレは困った男だよ」
今さら家庭を築くなどオレにはできないし、今の暮らしに満足している。また新たな関係を築くなんて億劫でしかないよ。
メビアーヌが汗を流してきたので、オレも汗を流しに向かった。
さっぱりして戻ると、タルマルじいさんところの弟子がいた。訓練は明日じゃなかったか?
「どうした、ミグジ?」
同じ町にいるので顔は知っいるし、古株の弟子とはこの町にくる前から知っている。ミグジも古株の弟子の一人で、確か二十四か二十五歳だったと思う。
「ミドロックさんが訓練してると聞いたので見学させてもらおうと思ったんですが、もう終わりですか?」
「そうだな。メビアーヌが限界近いしな」
修行はメビアーヌの魔力と体力次第。オレはタルマルじいさんほど根性論信奉者ではない。日々の訓練の積み重ねが物を言うと信じている。
「よかったら、わたしたちも見てもらえませんでしょうか? ミドロック先生は魔法剣にも精通していると聞いたので」
「魔法剣か。随分前に使ったが、そんなに精通はしてないぞ」
持っていた魔剣が折れてしまい、咄嗟に魔法剣──正解に言うなら魔力剣を展開させたのだ。
「時間があれば教えていただけませんでしょうか? 師匠は魔法剣は苦手なので」
まあ、タルマルじいさんなら剣より拳に魔力を籠めて殴る人種だな。
「魔法剣は咄嗟に使うのはいいが、長時間維持するのは困難で、使える機会はそうはないぞ」
そもそも剣を持つ魔法使いなんてそうはいない。風の魔法を覚えたほうが効率的だからな。
「その咄嗟のときに使いたいんです。ご教示、お願いします」
「まあ、そんなに言うなら教えてやるよ」
魔法使いにも向き不向きがあり、得意なことを教え合うこともある。そのうちメビアーヌも他の魔法使いがどんなものか教える日がくる。そのときのために実績作りしておくか。
「メビアーヌも見ておけ。使いどころがあるかわからんけどな」
できるできないはともかく、そう言うことができると知っおくことは大切だからな。
訓練場に入り、ミグジたちに魔法剣を展開してみせる。
「この状態で百数えられてたら技として使い道はあるだろうな」
魔力を物体化させるには凄まじいまでの魔力を消費する。まあ、しない方法もあるが、それはまた高度な技だ。今はまだ知る必要もないさ。
「まず魔法剣を展開するには手に魔力を集中することが重要だ。それはタルマルじいさんが得意とすることだな」
あっちは魔法剣ならぬ魔法拳の使い手。貫手と言う技で岩を貫いていたっけ。
「魔法剣はざっくり言ってしまえば魔力操作の極致だ。魔法剣の使いどころは少ないが、魔力操作は上手くなる。上手くなれば鎧を纏うようなこともできる」
ミグジと握手するように手を繋ぎ、無理矢理ミグジから魔力を吸い出した。
「今のが魔法剣を展開したときの魔力量だ」
魔法使いとしては一人前なミグジだが、魔法剣を展開するにはまだまだ魔力量は少ない。もっと消費と瞑想を訓練しないとあと十年は無理だろうな。
「どうする? まだ覚えたいと思うか?」
オレとしては攻撃魔法を極めたほうが戦闘の幅は広がるだろうよ。
「覚えたいです。ご教示、お願いします」
さすがタルマルじいさんの弟子。根性だけは筋金入りだよ。
「わかった。先達者として教えてやるよ」
魔法に真摯に向き合えるヤツをほっとけないのが魔法使いの性だからな。
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