第6話 魔法

 初めて見た者は巨大な蟻にビビるだろうが、生態を知っていれば四匹くらい現れても恐れる必要はない。一匹なら見習い兵士でも倒せるだろうよ。


「蟻は酸を吐くんだぞ、前に立つな!」


 さすがリオタ。ちゃんと勉強してるか。


 それだけではなく、指示を出しながら年下の子を手助けし、経験を積ませているとか、どこまで逸材なんだよ。うちにきて欲しいくらいだ。


 ……あ、メビアーヌが嫌だってわけじゃないから勘違いしないでよね。自慢の弟子なんだからね……。


 リオタの指示で怪我一つなく蟻四匹をボッコ死させた。


「じゃあ、解体」


「はい。ドリとシャーリンは見張りだ」


 おーおーちゃんとわかっている。ミレアナ、いつの間にか下を教えるのが上手くなって。昔は孤高の女だったのに。


 蟻の解体に手間取りはしたが、使える素材は綺麗に解体できた。仕事が丁寧でよろしいことだ。


「紐は持ってるか?」


「はい。ちゃんと持っていけとミレンティさんに言われたので」


 やはりオレは嵌められたのか。クソ!


 メビアーヌめ。あいつは魔法使いより策士か政治家になったほうが大成するんじゃないか?


「ミドロックさん。これ、本当にぶら下げてて大丈夫なんですか?」


 十歳くらいの少女が解体した蟻を木にぶら下げているのを不思議そうに見上げながらオレに訊いてきた。


「よほどのバカじゃなければ奪ったりはしないよ。もしやってバレたら冒険者登録は抹消され、悪質だったら鉱山送りになるからな。お前たちも欲にくらんで盗ったりするなよ。子供でも許されないからな」


 冒険者の決まりは厳しい。母親の薬代が欲しくて盗った子供も鉱山送りにされた。酷いとは思うが、冒険者の決まりや倫理を守るためにはそこまでしないとならないのだ。


「は、はい。わかりました……」


「理解が早くてなによりだ。立派な大人に育てよ」


 少女の頭を撫で回してやった。


 蟻を吊るし終わり、薬草採取へと向かった。


 薬草が生育する地は歩いて大人の足で半日のところにある。子供を連れているので今日は野宿になる。


 現地についたらまずは野宿の準備だ。


 この辺はまだ人がよく入る場所なので凶悪な魔物はいないが、猪や鹿はよく現れ、それを狙って狼の群れもやってくる。


「んじゃお前ら、まずは枯れ枝を集めてこい。一晩燃やせるくらいだぞ」


「ドリ、シャーリン、遠くにいかないよう見張るんだぞ」


 さっきもこの二人の名前を呼んでたな。副隊長的立場なのかな?


「リオタ。子供らは二人に任せて夕食の獲物を捕まえにいくぞ」


 保存食は持ってきているだろうが、わざわざそんな質素な夕食などゴメンだ。


「わ、わかりました! ドリ、シャーリン、頼むぞ」


 二人が返事をするのを聞き、リオタを連れて奥へと入っていった。


「ミドロックさん、なにを狩るんですか?」


「そうだな。鹿が近くにいるからそれにしようか」


 あちらは隠れているようだが、オレからは丸見え。石を投げても仕留められる距離だ。


「リオタはミレアナから魔法は教わったか?」


「火の魔法を習いましたが、上手くは出せません」


「まあ、ミレアナは氷が得意だからな。火を教えるのは不向きか」


 オレは火水風土は等しく使えるが、ミレアナは水──氷に特化している。概念的なことは教えられても実技を教えるのは大変だろうな。


「指先に火を灯してみ」


 これくらいなら魔法の才能がなくてもやっていればできる域だ。


「こうですか?」


 すぐに行えるか。日頃からやってる感じだな。


 リオタが出した火をオレの魔力で包み込む。


「魔力を火にすることを頭の中で思い描いて実行しろ」


 指先の火がどんどん激しくなってくる。


「そうだ。もっとだ。もっと出して火を炎としろ」


 素質を示すかのように火は強くなり、どんどん炎へと育っていく。


 普通の火なら空気も必要だが、魔法は魔力が必要だ。魔力が高ければ高いほど効果は高くなる。極めれば五本の指に出せるようにもなるのだ。


 ……王にせがまれて習得したけど、未だに有用性がわからないよ……。


「その状態から炎を丸めるように圧縮しろ。昔、泥団子を作ったことがあるだろう。その要領で炎を小さく、爪先くらいまで圧縮するんだ」


 さすがにいきなりは無理なので、オレが補助して手順を見せる。


「気を抜くな。魔力を止めるな。意識を集中しろ。そうだ、その調子だ」


 炎が爪先くらいまで圧縮させれる。


「指をあちらに向けろ。ゆっくりでいいから」


 鹿が隠れている方向に向けさせる。


「これからやるのは圧縮弾と言うものだ。小さな穴を一ヶ所開けると物凄い速度で射出される」


 本来はもっと工程はあるが、これを覚えれば三ケーは火を飛ばせるようになるのだ。メビアーヌは三十ケー先の鉄鍋を撃ち抜けるくらいは出せるな。


「最後まで集中を止めるな。三つ数える。三、二、一──」


 針先くらいの穴を開けると、蜜柑色の線が空中を駆け抜け、隠れている鹿の首を撃ち抜いた。


「──っくあっ!」


 今ので魔力を持っていかれたようで、膝から崩れてしまった。


「まあまあだな。少し休んでいろ」


 リオタをその場に残し、絶命した鹿の元へと向かった。

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