第3話 メロリアム王国

 オレが住む国はメロリアムと言い、ここはガイハの町と言う。


 辺境の地としては住む者の数は多く、三万人はいるだろう。


 このガイハの町はダイゴウ大森林と隣合っており、魔物が多く生息するため軍が置かれているから、兵士とその家族が大半で、元から住んでいる者は千人もいないだろう。


 町と言うより軍事基地に近いかもしれんが、ここを治める伯爵は立派なヤツなので、犯罪も少なく魔物狩りもやっている。国で一番安全なところになっているだろうよ。


 オレが住む家は町中にあり、主要道から外れているので歩いている者は少ない。


「あら、先生。お出かけですか?」


 そんな少ない近所の奥様に声をかけられた。


「ああ。弟子に仕事してこいと追い出されたよ」


「ふふ。ちゃんと仕事してきてくださいよ」


 近所の奥様は、なぜかメビアーヌの味方。世帯主はオレなのに……。


「はいはい、ちゃんと仕事をしてくるよ。弟子がうるさいからな」


 近所の奥様から逃れように主要道に出ると、町の者が往来していた。


 当たり前な光景。だが、昔を知る者としては感慨深いものがある。ここにきたときは廃墟に近く、人々も痩せこけていた。


 それが六年でここまで発展するとは。歳を取ったせいか、ついうるっとしてしまうな……。


「冒険者も増えたな~」


 王が国の再建案として出した冒険者制度。なぜ冒険者なのかはわからないが、王が言うには響きがいいからのことだ。


 一応、なんでも屋的なものだが、ガイハの町では魔物退治が主だ。


 兵士がいるのに? と思われるかもしれないが、大森林と言うだけに広大な領域を数千の兵士で補うことはできないし、産業として冒険者の仕事を奪うこともできない。いろいろ調整しながら兵士と冒険者が活躍できるようにしているのだ。


 大森林側には要塞が建てられ、冒険者は大森林にいくにはそこで受付をしなくてはならない。


 オレも一応、冒険者登録はしているので、要塞で受付を済ませないとならないのだ。まったく、面倒だよ。


 冒険所は一般人扱いなので、要塞内では分けてあり、立ち入り禁止の場所に入ったら即死刑となっている。


 冒険者専用のところから入り、要塞内の冒険所に向かった。


 魔法の光で照らされているので中は明るい。これも雇用対策としてやっており、魔法使いの需要を増やす一因となっているのだ。


 ……あの戦いで魔法使いも多く死んだからな。次世代を増やしておくのも今を生きる魔法使いの役目だ……。


 もう日が高いと言うのに冒険所にはたくさんの冒険者がいた。


 ……新人かな……?


 誰でも冒険者にはなれるが、離職率は高い。どこかからきて、数日でいなくなってしまうのも珍しくもない。一年もいたら古株だろうよ。


 それでも冒険者になろうと言うことは、まだ国が安定してなく、貧困が多いってことだろうな。


「貴族の生まれじゃなくてよかったぜ」


 貴族には義務と責務がある。特権を守るためには身を粉にして働かなくちゃならないんだからご苦労様、だ。


「先生!」


 受付にいこうとしたら誰かに呼ばれた。


 誰だ? と思ったらタジーだった。


 タジーはリオ夫人の息子で、去年一人立ちして冒険者として生きている。 


「おう、タジー。仕事帰りか?」


 冒険者としてはまだ一年目だが、ある意味、オレの弟子でもある。まあ、タジーには魔法の才能はなく、火を出すのが精一杯。だが、体を動かすことには長けており、特に弓は天才的だ。


 五十ケー(大人の足で五十歩くらい離れた感じだな)にいるネズミの頭を撃ち抜けるほど。猪も一発で仕留めることもできたりするのだ。


「はい。嫁たちにウサギを獲ってこいと命令されましてね、日が出る前から大森林に入ってましたよ」


「嫁が三人もいると大変だな」


 十五歳で嫁をもらうのは珍しくないが、一度に三人も娶ったのはタジーが初めて。ガイハの町では勇者として有名になっているよ。


「あはは。まあ、ほどほどには……」


 独身男には羨まれているが、オレからしたら嫁が三人もいるなど悪夢でしかない。


 女は結婚したら変わり、子を産んだらさらに変わる。それが摂理とは言え、それを受け入れられる度量はオレにはない。娼館にいって遊ぶくらいがちょうどいいよ。


 ……弟子にこき使われるのに、嫁ができたら働き蜂にされる自信があるわ……。


「子は順調か?」


 一度に三人の嫁を孕ます。もうご苦労様としか言えないよ。


「はい。リンダ様が順調に育ってると言ってました」


 リンダは薬師でもあるが、産婆として活動しているばあ様だ。


 ……オレをこき使うババアでもある……。


「そうか。産まれそうなときはメビアーヌを呼べよ。ちゃんと回復魔法を教えてあるから」


 メビアーヌは戦う性格じゃないので、回復系や補助系の魔法を主に教えているのだ。


「はい。あ、先生。ちょっと相談してもらいたいことがあるんですが……」


「急ぎなら今聞くが、そうじゃないなら夜に聞くぞ。酒でも飲みながらな」


 飲める口実ができて最高です!


「あはは。メビが怒りますよ」


「弟子が怖くて酒が飲めるか」


 でも、怒ったら味方になってくれよ。頼むからな。


「じゃあ、時間ができたらうちでお願いします」


「あいよ。あ、酒買っといてくれな。昨日飲んでなくなったからよ」


 銀貨一枚渡した。


「……わかりましたよ。でも、メビの怒りは先生が受け持ってくださいよ。あいつ、怒ると棍棒で殴ってくるんですから」


「回復はしてやるから安心しろ」


 グッと親指を立てて力強く請け負ってやった。


「……そう言うところがなければ立派な人なのに……」


「アハハ。オレみたいなダメな大人になるなよ!」


 よし。やる気が出た。さっさと薬草集めを済ませちゃいますかね。

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