新たな恋心と軍と
第28話 フレイアの心境
「ありがとうございました!」
「お疲れ様でした。一段と腕を上げましたね、ランベルト様」
ランベルトがエーミールとの騒動を起こしてから、数か月後。
あれからさしたる邪魔も受けずに、ひたすらヴォルゼフォリンやマリアンネ、フレイアと共に、戦いの技量を磨き続けていた。日増しに操縦技術を成長させたランベルトは、既にヴォルゼフォリンをほぼ自由自在に使いこなせていたのである。
(ふふっ、わずか数か月でこんなにも変わるものなのですね)
そんなランベルトを見たフレイアは、いつの間にかランベルトに対し、弟に近しい感覚を抱いていた。フレイア自身は一人娘なのだが、ランベルトの可愛らしい外見や性格を見続けているうちに、愛情めいたものを向けるようになったのである。
格納庫に戻ったランベルトとヴォルゼフォリンを見て、フレイアは複雑な気分になる。
ディナミアから降りるとすぐにマリアンネを呼び止めて、胸中を吐露した。
「マリアンネ。ちょっとよろしいでしょうか」
「はい、会長。どうしました?」
「少し、聞いていただきたいことが。どうしてか、ランベルト様とヴォルゼフォリン様が一緒にいるのを見ると……モヤモヤするのです」
マリアンネには、フレイアの気持ちがある程度理解できていた。何を隠そう、マリアンネにはランベルトとヴォルゼフォリンが一緒にいるところを見て気分が良くなかった時期があったのだ。
今でこそ当然のものと納得しているとはいえ、似たような気持ちを経験した身としては、フレイアの悩みが分かったというものである。
「会長。もしかしたら、分かるかもしれません」
「マリアンネ……そうでしたね。貴女はあのお二方を見て、思うところがありましたから」
「はい。今でこそ穏やかな気持ちでいられますけど、当時はおかしくなってました」
「気持ちはわかります。ただ、私はランベルト様と何の接点も無かったのに、どうしても気になるのです」
「それでしたら、一度思い切ってランベルトと話してみてはどうでしょうか? ヴォルゼフォリンもいるでしょうから、二人きりとはいかないでしょうが」
「そう、ですね……」
フレイアはしばし、悩んでいた。
それなりに交友はあるとはいえ、“部外者”という感覚はぬぐえていないのだ。
しかし、煮え切らないフレイアを見たマリアンネは、強引に後押しする。
「一度、思い切って話してみては? あまり
「やはり、そうなりますわね。……ありがとうございます、マリアンネ。近々機会を見つけて、話すとしましょう」
フレイアは曇った表情のまま、格納庫を後にしたのであった。
***
「どうしたものでしょうか……。ランベルト様を、強く意識してしまいます」
寮の自室に戻ってからも、フレイアは悩んでいた。
「『好き』という気持ちなのかもしれない、それは分かっています。ですが、誰に対して向ける好きなのか。父親や兄弟などの家族なのか、あるいは友人か、はたまた……。それがどうしても、私にはハッキリと分からないのです」
自問自答をするように、自らの心情を呟くフレイア。これまで“恋”を経験してこなかった彼女にとって、心をここまでざわつかせる出来事は初めてだったのだ。
「ああ、このままでは、眠れません……」
「それじゃ、またね。ランベルト、ヴォルゼフォリン」
部屋の外から聞こえたマリアンネの声に、フレイアはハッとした。
「ランベルト……様?」
「さて、そろそろ寝……わっ、会長! 失礼しました!」
「いえ、私こそ失礼いたしましたわ。ボーッとしていて」
ドアを開けたマリアンネと、正面から激突しそうになるギリギリでお互いに気づく。
しばしお互いに凍り付いていたが、マリアンネが我に返った。
「か、会長。お先にどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
マリアンネにうながされ、フレイアは廊下へ出る。
「フ、フレイアさん? びっくりしました」
「驚かせてしまいましたわね。ところで、ランベルト様。ちょっとだけ、お時間よろしいでしょうか」
「えっ? い、いいですけど……どうして急に?」
「少し……お話ししたいことが、ありまして」
今までに見たことのないフレイアの様子に、ランベルトは戸惑っていた。
「と、とにかく入ってください。何があったか分かりませんけど、話を聞くことはできますから」
「ありがとうございます、ランベルト様。やっぱり、お優しいのですね」
「?」
「いえ、お気になさらず。では、お邪魔します」
フレイアの言葉に引っかかりを覚えたランベルト。だが、構わず部屋に招き入れた。
「本当にどうしたんですか、フレイアさん? 明らかに、いつもと様子が違いますよ?」
「そうですね。自分でも、はっきりと分かっております」
フレイアは荒くなりつつある呼吸を、ゆっくりと落ち着かせていく。
幾分か冷静さを取り戻すと、ランベルトに向き直った。
「ランベルト様。私はあなたを見ていると、心が揺らぐのです」
「は、はぁ」
いきなりこんなことを言われたランベルトは、戸惑う他無かった。
「最近のあなたを見ていると、弟のように思えてくるのです。実際に弟はいませんが」
「何が言いたい? フレイア」
割って入ったのは、ヴォルゼフォリンだ。
今ひとつ要領を得ない言葉に、ランベルトだけでなく彼女も戸惑っていた。
「そうですわね。……ランベルト様」
「はい」
「本当に、可愛いですね」
「「へ?」」
ランベルトとヴォルゼフォリンは、まったく同じタイミングで意味が分からないという感じの声を漏らす。
「ふふっ。両親以外で誰かを好きになったのは、ランベルト様が初めてです」
「そ、それはありがとうございます……」
「ほぉ。ランベルトを好き、とな」
「はい、好きになってしまいました。どういった意味での『好き』かは、まだ分かりかねているのですが……」
悩みだすフレイアの肩を、ヴォルゼフォリンがポンと叩く。
「安心しろ。どんな意味の『好き』でも、私は受け止められる。もちろん、ランベルトも、だ。そうだろう?」
「うん。僕もフレイアさんのことは、生徒会長として好きだよ」
「だそうだ。ちなみに……ちょっと耳を貸せ」
「はい」
ヴォルゼフォリンはフレイアの耳に自らの口を近づけると、小さい声で告げた。
「私はランベルトが重婚しても構わないと考えているぞ。もちろん、フレイアとも……な」
「まぁ!」
ヴォルゼフォリンの一言を聞いたフレイアは、目を丸くして口元に手を当てる。
「それはそれは……うふふ」
そして、嬉しそうにほほ笑んだ。
「でしたら、考えさせていただきますわね」
「ああ。いつでも歓迎だ」
ヴォルゼフォリンとフレイアの様子を見て、ランベルトはきょとんと首をかしげる。
「二人とも……何を話したの?」
「ああ、ちょっとな」
「こちらの話ですわ」
気になって質問してみるが、あっさりとはぐらかされてしまった。
「うふふ、私の悩みはこれで晴れました。相談に乗ってくださりありがとうございます、ヴォルゼフォリン様」
「なに、構わんさ。今までお世話になったんだ、少しでも恩返しになったのなら幸いだ」
「ふふっ、ではまた。そして、ランベルト様。今後とも、よろしくお願いしますわね」
「は、はい」
心のつかえが取れて満足したフレイアは、一礼してランベルトたちの部屋を後にした。
「ふふ……あんな事を言われては、燃え上がってしまいます。ランベルト様ぁ」
笑顔を浮かべ、頬に右手を添えながら、フレイアは自室へと戻ったのであった。
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