第17話 マリアンネの学園案内
「さ、入るわよ。ついてらっしゃい」
マリアンネに言われるがまま、ランベルトとヴォルゼフォリンはついていく。
「お帰りなさい、マリアンネさん。随分早いですね?」
「はい、シンシアさん。今は新入生の二人を案内しているところです」
シンシアさんと呼ばれる女性と、親しげに話すマリアンネ。と、話を区切ってランベルトたちへと向き直った。
「紹介します。私の幼馴染のランベルトと、彼の付き添いであるヴォルゼフォリンさんです」
「ランベルトです。よろしくお願いします」
「ヴォルゼフォリンだ。これからしばらく世話になる」
ランベルトとヴォルゼフォリンが挨拶を終えると、シンシアさんがほほ笑む。
「まぁ、律儀にありがとうございます。私はシンシア。この央龍寮の寮母を務めさせていただいております。どうぞ、よろしくお願いします」
「そういうことです。あと、この二人は今日から、C1202号室へ入寮することになりました。そのことも伝えたく」
「そうなんですね、マリアンネさん。うふふ、新しい方々がいらしてくれるのは嬉しいことです」
シンシアさんは笑顔で、嬉しそうに話す。
「さて、マリアンネさんをこれ以上引き留めるのはよろしくありませんね。生徒会役員のお仕事、頑張ってください」
「ありがとうございます。それでは」
やり取りを終えてから、マリアンネは再びランベルトとヴォルゼフォリンを案内した。
***
「開けてみて。まずは貴方たちの部屋を、見てもらわないとね」
マリアンネに促され、ランベルトはC1202号室の鍵を開ける。ガチャリと音がして、部屋が開いた。
「わぁ……」
「どれどれ……ほほう、やけに整った内装だな」
ランベルトたちが昨日泊まっていたゲストルームに負けず劣らず、整えられている内装だ。設備も充実しており、学園生として暮らしていくには問題なかった。
「大きいな。マリアンネの言っていた通り、4人で過ごすには問題ないだろう。もっともベッドは、やはり2人用みたいだが。しかし、気にくわんことがある」
「何でしょう?」
「そらっ!」
ヴォルゼフォリンは離れていたベッドを、くっつける。ピタリとくっつき、遠目には1つの大きなベッドに見えるようになった。
「これで良し」
「な、何をしたのですか?」
恐る恐る尋ねるマリアンネに、ヴォルゼフォリンはとろけるような笑顔を浮かべて答える。
「ふふん。これで、ランベルトのすぐ隣で添い寝できる。我ながら名案だろう?」
「な、な、な……」
マリアンネは体をプルプルと震わせ、ランベルトにいたっては恥ずかしさで顔を覆ってしまっている。
「なんて
「そうか? べつに良かろう。昨夜も添い寝したのだから。その様子だと、どうやらランベルトは覚えていないようだがな」
「ああ、あああああ……」
いまだ恥ずかしがっているランベルトは、到底話せた様子ではない。
代わりにマリアンネが、ヴォルゼフォリンに詰め寄った。
「なんてことをしてくれたの! あんなにウブなランベルトに……」
「ウブだから良いんじゃあないか。それにそんなことを言っているお前も、実は楽しんでいるだろ? あの反応」
「うっ……」
マリアンネは、即座に否定できなかった。ランベルトの幼馴染であり、また幼馴染に向ける以上に強い気持ちを持っている彼女は、ヴォルゼフォリンの言う通りにランベルトの恥ずかしがるさまを見て楽しんでいたのだ。
「まぁ、咎めるつもりは
「そ、そうなのですか?」
「そうだとも。お前も私も、『ランベルトが可愛い』と思っているのだ。違うか?」
「いえ、違いません……」
「ならば同じ考えの者同士、存分にランベルトの反応を楽しもうではないか」
ヴォルゼフォリンは、意地の悪い笑みを浮かべた。
「そ、そうですわね。楽しまなくては」
「その意気だ」
マリアンネもまた、ヴォルゼフォリンにならって意地の悪い笑みを浮かべたのであった。
「はわわ、はわわわわ……」
そんな二人に気づかないまま、ランベルトはしばし、恥ずかしがっていたのである。
***
「ランベルトー、おーい」
「……ぐすん」
さんざんからかわれたランベルトは、スネていた。先ほどから、ヴォルゼフォリンの呼びかけをガン無視しているのである。
「そのー、何だ、さっきは悪かったな」
「……むぅ」
謝罪の言葉を聞いて、ようやく少しだけヴォルゼフォリンを見るランベルト。その目は、涙目であった。
「やり過ぎたのは認める。だから何だ、ここは許してくれ」
「……嫌だ」
「そうか。許してくれたら、お詫びの印に私の装備について語り尽くそうと思ったのだが」
「……本当?」
「本当だ。英雄機と呼ばれた私に二言は無い」
「なら、許そうかな」
再び笑顔を浮かべたランベルト。だが、怒りの矛先はマリアンネにも向いた。
「マリアンネ、君も君だよ。ヴォルゼフォリンを止めてよ」
「うう、申し訳ありませんわランベルト……」
「しょうがない、残りの施設の案内で許すよ」
「ありがとう、うふふ」
なんだかんだ言って、ランベルトは打ち解けた相手に対しては、たいていのことを割とあっさり許す性格なのである。ヴォルゼフォリンとマリアンネにとっては、ちょろいもんだった。
かくして、ランベルトたちは別の施設への案内を受ける。
すぐ隣のC1201号室――フレイアとマリアンネの部屋――、図書館、運動場、大食堂、そして昨日ランベルトが入学試験を受けた巨大スタジアムだ。
広大な学園の敷地を、丸一日かけて案内する。思いがけず長い仕事になったが、ランベルトたちは満足そうであった。
***
「今日はありがとう、マリアンネ」
それから、夕方になって。
マリアンネの案内を受けたランベルトは、生徒会室前にいた。
「どういたしまして。これからも分からないことがあったら、遠慮なく聞いてね」
「もちろん。そうなったら、頼むね」
「ええ。そして」
マリアンネは、ヴォルゼフォリンを見る。
「ありがとう」
「何のことだ?」
「私と……ランベルトを守ってくれたこと」
「礼には及ばんさ。あの男の態度には、鼻持ちならなかったからな。まったく、今でも許せん。私のランベルトを傷つけるなど……」
正確には、ランベルトを傷つけたのはエーミールではなく取り巻きなのだが、その程度の区別などヴォルゼフォリンには意味が無かった。
「私はきつく言ったものの、それでもしばらく気を付けておかないとな。三人とも、だ」
「そうね。幸いあいつの寮は
「西か。心しておこう」
「気を付けてね。それじゃ、二人ともまた明日」
「また明日ね、マリアンネ!」
「ああ!」
こうして、マリアンネの仕事は無事に終わったのである。
ランベルトとヴォルゼフォリンはレオニーおばさんのいる食堂――大食堂とは別の場所――までの道すがら、話をしつつ戻っていた。
「広かったね、ヴォルゼフォリン」
「この学園か?」
「うん」
「そうだな、確かに広い。私が散歩するにはうってつけだ。本来の姿で、な」
「ちょ、それはダメだよ! 誰か歩いてたら、どうすんのさ!」
「冗談だ。まったく、すぐ真に受けるんだなランベルト。可愛らしいぞ」
またもランベルトが顔を真っ赤にして、照れだす。
「か、かか、可愛らしいって……。うぅ……」
「恥ずかしがるな。これでも褒めているつもりなんだぞ」
「そっか……。けど、ちょっと屈辱感あるかな……」
ランベルトは自身の幼い見た目を自覚しているものの、男としてはやはり“可愛らしい”という評価は受け入れられるものではなかった。
「ならば、まず自分自身への呼び方を変えればいいのではないか?」
「呼び方?」
「ああ。“俺”と呼んでみることから始める。どうだ?」
「……うーん、すぐには受け入れられないかも」
難色を示すランベルト。
「なら、少しずつ慣らしていけばいいさ」
「そうだね。やってみるよ。俺は……うーん、やっぱり慣れない」
「その意気だ。急がずゆっくりやれ」
話しているうち、ランベルトとヴォルゼフォリンは食堂に着く。そして、夕食を取ったのであった。
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