未来のために努力を重ねるけど早速問題発生!?思い描く未来。私自身の夢。自分自身の答えを探していきます。

第十八話

私が生まれてから早2年以上の時が経った。

あんなことやこんなことがあったなぁと思い返すことは多いけれど、色々な意味で記憶に刻まれているのはやっぱり粗相をしたとき!あれはもう、ね…自由にならない体が憎い…!と何回思ったことか。本当に、あれが唯一の嫌なことだった…でもそんな時期を乗り越え、漸く自分で自分の体をコントロールするために頑張れるようになり――最初は力量を見誤って色々失敗もしたけど――自分の足で立って少しずつ話せるようにもなってきました!!舌っ足らずだけど話せるようになったのは本当に嬉しい。でも、わーい、わーい!と喜んでばかりもいられない。成長するのは身体的なことだけじゃないから。


体から仄かな光りが溢れ出し、周囲に広がっていく。光りの広がりと比例して風の力が少しずつ強くなり、精霊達の声がそこかしこから聞こえてくる。四方八方で飛び交う喜びと楽しさでいっぱいの声に耳を傾けそうになる気持ちをぐっと堪え、自分の内でまだ眠っている力を外に向けて解放していく。その力が広がるほどに徐々に声が聞こえなくなり、遂には誰の声も聞こえなくなった。そこかしこにあった気配を自分の力で覆っていることを確認し、ゆっくり目を開いた。傍らで見守ってくれていたお兄ちゃんが一つ頷いたのを見て、体から力を抜く。

途端に光りと風の力が霧散し、精霊達の声が先程よりは少ないけど耳に飛び込んでくる。どっと押し寄せてきた疲労感にふらつく体をお兄ちゃんが支えてくれた。そのままゆっくりと私を芝生の上に下ろし、労るように優しく頭を撫でてくれる。


「お疲れ、明藍。よく頑張ったな」


「ありがとう。じょうずにできていた?」


「ああ、できていたよ。このブレスレットを外す日もきっと近いな」


お兄ちゃんの褒め言葉が嬉しくて自然と頬が緩み、動いた拍子に手首のブレスレットがシャランと音を立てた。成長した私が最近取り組んでいることが力の制御だ。


私達が守護精霊を介して精霊達の力に干渉できるように精霊達も守護精霊を介して私達に干渉できる。そして守護精霊の力が大きければ大きいほど与え、与えられる影響は大きい。特に神の祝福を一身に受ける神子の私は赤ちゃんの時に無意識でゲイルの領域に干渉できたように守護精霊を介さなくても直接精霊に干渉できるから力の制御を誤るととんでもないこと――人間と精霊の境界に影響を及ぼし、世界のバランスを崩す――になる。だから状況に見合った力を使えるように普段からしっかりと制御する必要がある。


この話を聞いて自分の持つ力の大きさに足が竦まなかったと言えば嘘になるけど、でも怖がって引くよりもできることがやっと見つかったって安堵する気持ちの方が大きかった。何もできず、もがいていた自分がやっと誰かの、何かのために動ける。それが堪らなく嬉しかったから。

こうして力を制御するべく日々特訓に取り組む時にサポートしてくれるのがお兄ちゃんとの話に出てきた、このブレスレット。全体に不思議な文様が施された黄緑色のブレスレットはお父さんが私のために調達し、力を込めてくれた特別製。さっきみたいに力を解放していく時は感覚的、体力的にも私を助けてくるから負担が軽くなって幼い今でも特訓ができる。

そして普段の生活では気づかない内に漏れ出した力が周囲に与える影響を抑えてくれるから、過干渉になってひっきりなしに聞こえすぎていた精霊達の声を聞こえたり聞こえなくしたりこちらから干渉できるようにもなりつつある。

できることは徐々に増えてきたけれど、今はまだブレスレットに頼りっぱなしの毎日だから、過信したり油断したりはしちゃいけない。だからさっきお兄ちゃんが褒めてくれたようにブレスレットなしで自分の力を制御できる日が一日でも早く訪れるように頑張る!

スティーブが淹れてくれた紅茶を飲みながら決意を新たにしていると、お兄ちゃんに名前を呼ばれた。お兄ちゃんの顔を見上げるとお兄ちゃんは困ったような嬉しいような、複雑な表情を浮かべていた。


「頑張ることは良いことだけど、頑張りすぎないようにな。明藍は努力家で頑張り屋さんだから、無理しないか心配なんだ」


「だいじょうぶだよ、おにいちゃん。わたしがやろうとしていることはいまのわたしにできることだから。できないことはおにいちゃんたちのまえでしかやらないから」


取り組んでいる特訓は今の自分に無理のない範囲でできることばかりだし、特訓時は必ずお兄ちゃんかお父さんに見守られている状況でしかしていない。無理をすることがどんなことに繋がるのかわからないからということもあり、無理は絶対にしないと決めている。

だからお兄ちゃんの心配は杞憂に終わるよ!安心してね。の意味を込めて明るく言ったら、お兄ちゃんは両目を数回瞬かせ、そのまま小さく笑って私の頭を撫でてくれた。


「…」


「おにいちゃん?」


「変なこと言ってごめん。…少し風が出てきたな。天気が変わるかもしれないから、後もう一度やったら帰ろう」


「うん!わかった!」


「よし、じゃあもう一踏ん張りしような」


晴れ渡っているけれど、確かにお兄ちゃんの言うように湿り気を帯びた風が混じり始めている。風に関する少しの異変は感覚的に感じ取れるようになってきているけれど、お兄ちゃんみたいにその風が何をもたらすかは私にはまだわからない。やっぱりお兄ちゃんはすごいな。私も早くできるように、もっともっと頑張らないと!

できないことをできるように、未来のために。私の名前を呼びながらお兄ちゃんが差し出してくれた手を取り、私は訓練に戻った。

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