気の利いたプレゼント

 永石ミヨコの眼前に薔薇の大輪が咲く。

「やめてください」

 ミヨコは鬱陶しげに花束を払いのけた。

「そう邪険にしないでくれ、マイスイート」

 小黒ユウヤはそういうとさっさと花束を花瓶に生けた。

 永石ミヨコは元アイドル。グループメンバーの1人に先立たれ、あとの1人もそれに関連して芸能活動ができなくなり、ミヨコ自身のソロ活動も長続きしなかった。現在はほとんど無いような貯えを崩しながら療養生活――世間から引きこもってボロアパートで暮らしている。

 どこからともなく取り出した細身の花瓶に薔薇の花束を生けている青年は小黒ユウヤ。ミヨコのファン。どうやって生計を立てているか、ミヨコもよくは知らない。ファン歴は長くないのだが、ミヨコの引きこもった草庵を突き止めて押しかけてきた。

「いったいいくらしたんですか、この薔薇。本当にお金持ちですね」

「それなりに余裕のある暮らしをしているのは否定しないよ。ミヨコを養うことぐらいできる。ただ、この薔薇に関しては七竈本町の薔薇屋敷でいただいたものなんだよ。君が気に入ると思ってね」

 嫌な予感がした。

 ミヨコはユウヤが帰ってすぐ、七竈本町の薔薇屋敷をスマホで検索した。七竈本町の薔薇屋敷当主、殺害される。現場の薔薇、切り取られて持ち去られる……。

 花瓶を調べる。中にUSB。中身は薔薇屋敷殺人事件の資料。現場は密室だったらしい。

 Howがわからない。しかしミヨコにはWhoとWhyは既に分かっていた。

 犯人は小黒ユウヤ、動機は自分の気を引くため。……あるいは彼が惚れ込んだミヨコの姿をもう一度見るため?

 ミヨコは自身の嫌悪感とは裏腹に、推理が止められなかった。メンバーが殺されることを止められなかったのに、もう1人のメンバーをその殺人犯だと指摘することも止められなかった自身の頭脳。だが、天才犯罪者のユウヤはそれが良いというのだろう。


《お題:情熱的な悪人 必須要素:800字以内 制限時間:1時間》

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