揺らぐ雨音、響くポニテ。

真瀬つきみ

第一章 気付きによる趣味、趣味による気付き

プロローグ

ひとり雨きくの卒業の夜すがら

『雨音が響いているね』

 馴染なじみにLINEでその一言送る。その為にどれほどの時間を要したか、今の私はもうはっきりと覚えていない。覚えてるのは、その晩の寝た時刻が丑三つ時を軽く超えていたこと。独りで泣いていたこと。そして、その時のぐちゃぐちゃな感情。

 今となっては馬鹿なことだと思う。私が独りで勝手に胸を躍らせ、破れ、塞いだだけの話でしかない。そもそも、当時の彼女にこの言葉の意味は伝わってすらいない。あまりにも酷い独りよがりで、思い出すだけで羞恥しゅうちで死にそうになる。そんな想い出。

 私はその想いを中学に捨て、高校へと向かった。


      *


 中学の卒業式の晩、親友から来たLINEをいまだに覚えている。その日は一日中雨だった。折角の卒業式なのに桜の花びらの多くは地面に落ちていて、どことなくしんみりとした空気の卒業式だった。どうにも中学に足を引っ張られているような感覚で、数日ほどすっきりしなかった。

 このすっきりしなかった原因には親友からのLINEも関わっている。雨音が響いているという一言だけではあったが、それが私の中にどことなく引っかかった感触を置いて行った。あの時、その本当の意味に気付いていたら今頃どうなっていたのか。そんなことを考えても仕方ないけど、気付いていたら彼女の苦労をもっと減らせたのではないかと思う。

 そんなこともつゆ知らず、私は高校に入学した。



三月十三日 響く雨音のエピソード

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