第20話 12月17日 金曜日 夜

 白雪さんは、会社の仲間と忘年会の場にいた。久し振りのお酒に頬を赤らめながら。上司の歌や踊りに手拍子を打つ。唱三さんの謡やマッチさんのモノマネを思い出しながら。

 腕時計を見て、そろそろお開きの時間が近付いて来たと悟った白雪さんは、自らもっと呑める人を募った。ビール瓶を空にするためである。思えばこれが後悔の元ともなるが…。

 一人注ぎ、二人注ぎ、三人目に手を上げたのは先輩にいじめを持ちかけられたあの男性だった。白雪さんは彼のところへ行き、ビールを注ぎ始めた。両手がふさがっている。

 彼は、思い切って片手を白雪さんの胸に置いた。本当は、やりたくなかった。でも、何もしなければ、頼んだ側に何を言われるかされるか分からない。白雪さんが反応しないのも怖かった。

 白雪さんは驚いた。怖くも悔しくもあった。でも、手には液体。このままこぼしてしまっては汚す。来年からはこの会場は使えなくなるだろう。来年は居ない自分が、関係ない人の楽しみを奪ってしまっては申し訳ない。先輩の楽しそうな顔を見て、耐えた。

 その後も白雪さんは何事も無かったように振る舞った。誰にも気付かれなければ良いと、閉会後も率先して片付けを手伝った。

 部屋から出ると、意地悪な男性社員に

「なぁ、さっき胸を触られていたろ。手を払いもしないんだもんな。呆れらぁ。本当は、そういうの好きなのか?」

と、いやらしい目つきで言われた。腕が伸びてくる。今度は何も持っていないので、防御できる。思い切って両腕を組んだ瞬間、怖かったのだろうか目をつぶってしまった。勇気を出して目を開けたら、からかった男性は床に転がっていた。

「畜生、転ばしやがって!」

とわめいていたが、誰も相手にしなかった。


 白雪さんはその晩、中々寝付けなかった。

 

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