第6話 ゴウは、学習計画作成を再開した① 過剰貸付の抑制Ⅰ
「ええと、たしかこのあたりに……」
帰宅後、自分の部屋へ戻ったゴウは本棚の前に立ち、頼りない記憶を手がかりに山口真由著『東大首席が教える超速「7回読み」勉強法』(PHP文庫、2017年)を探している。
「おお、あった、あった」
お目当ての本は、すぐに見つかった。
その本は埃をかぶっていた。
ティッシュで埃をきれいに拭き取り、机の上に本を置く。
学習計画を立てるうえで参考にしようと考えたからだ。
いよいよ、この本が彼の役に立つときがきた。
……が、いまはとりあえず、脇に置いておく。
「さて、始めるとするか。ええと、第3章は過剰貸付けの抑制ですか……」
ゴウは、再びテキスト第1巻第3章の内容を確認し始めた。
(貸金業者による金の貸し過ぎを、どう抑制するか……、どんな制度が必要か……)
いいかえれば「顧客等の返済能力に着目した適切な貸付」である。
貸金業法の中心部分といえるだろう。
顧客等の返済能力
適切な貸付け
がキーワードだ。
ここで、ゴウの頭の中にひとつの疑問が浮かんだ。
(貸金業者が適切な貸付けをするには……、顧客等の「返済能力」を知る必要があるよな? どうするんだろう?)
このことを、お金を貸す側に立って考えてみよう。
お金を貸す側としては、できるだけ多くの者にお金を貸したい。
商売でお金を貸しているのだから。
お金を貸さなければ、商売にならない。
けれども、たとえば100万円を貸したのなら、確実に100万円を回収しなければならない。
親子、兄弟姉妹、親戚、友人にお金を貸す場合にまま見られるように、「返ってこない」ことを前提に貸付けをおこなうワケにはいかないのだ。
なぜか?
もう少し掘り下げて、お金を貸す商売ではどのようにして利益をあげているかを考えてみよう。
お金を貸すことを商売とする業種でも、お金を貸付けること以外に様々な収益構造をもつ場合があるが、ここではひとまずおいておく。
まずは、最もシンプルなかたちで考えることにする。
そうしないと、貸金業法が規律しようとしている本題が見えなくなってしまうおそれがあるからだ。
さて、現在の法律(利息制限法)では、100万円を貸付けた場合の年利率の上限は15%。
つまり、100万円を1年貸付けて15万円の儲けである。
15万円である。
これは、新入社員の1月分の給料にも満たない利益だ。
ここで100万円を貸したが、1円も回収できなかった場合を考えてみよう。
つまり、100万円の損失が出たということだ。
この100万円の損失を埋め合わせるのに、必要な金額はいくらだろうか?
100万円ではない。
お金を貸すことを商売にするには、「貸付けるためのお金」(元手、種銭)が必要だ。
どこからか貸付けるためのお金を調達してきて、それを消費者に貸付ける。
たとえば銀行から「貸付けるためのお金」(元手、種銭)を借り入れて、それを消費者に貸付けたりする。
いま、問題にしているのは、その「貸付けるためのお金」(元手、種銭)の金額だ。
すでに、元手としていた100万円は回収できずに消滅した。
商売を続けていくためには、さらに元手となるお金を集めなければならない。
そして商売でお金を貸している人の儲けは、貸付けたお金に対する「利息」である。
だから100万円の損失は、お金を貸付けて得られた利益で埋め合わせをすることになる。
さきほど、100万円を1年貸付けた場合の利息は15%と述べた。
すると1年で15万円の儲けである。
なので100万円の損失を埋めるために必要な金額を求めるには、100万円を15万円で割って出た数字に100をかければよい。
100万円÷15万円=6.6666666……。
これに100をかけると、666.66666……。
そうすると100万円の損失を埋め合わせるためには、その7倍近くのお金が必要になるということだ。
約700万円をどこからか調達してこれを顧客に貸付け、それを利息も含めて全額回収して、ようやく100万円の損失が埋まる計算だ。
ちなみに、700万円を1年貸付けた場合の儲けは105万円。
損失分の100万円を差し引くと、……残りは5万円である。
さらに取引にかかる様々なコストを考慮すれば、「なにがなんでも全額回収」したいところだ。
ここに、貸金業者が必死に、ときに違法行為をしてまで貸付けたお金の全額回収に奔走するワケがある。
血も涙もない取立をしていく理由がある。
さすがに違法行為までは擁護しない。
しかし、貸付けたお金を全額回収できなければ、彼らは商売を続けていくことさえできないのだ。
それだけではない。
今度は、自分が借金に追われかねない。
明日は我が身なのだ。
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