第4話 ゴウは、学習計画を立てた④ 貸金業とは

 テキスト第1巻第2章は「貸金業の適正化」となっている。


 ここでは、貸金業登録に関する内容、貸金業務取扱主任者に関する内容、貸金業者に課せられる各種行為規制、書面等の交付義務、帳簿の備え付けと閲覧、取立行為に関する規制等が学習内容となる。


「まずは、貸金業者の『登録』についての話か……」


 頬杖をつきながら、ゴウは呟いた。


 時折、ページをぱらりぱらりと捲りながらテキストの内容をさらっと眺めている。


 この章の内容は、試験との関係では出題頻度も高くとても重要な部分だ。

 合格を目指すなら、しっかりとおさえておきたい。


「『貸金業』ねぇ。……はぁ」


 冒頭の「貸金業の定義」に関する記述を見て、ゴウはひとつため息をついた。

 まだ、学習計画を立てている段階ではあるものの、覚えるべきコトが多いと感じていた。


 最近制定される法律には、条文の最初の方に「定義規定」がおかれていることがある。

 たとえば、会社法がそうだ。

 貸金業法も第2条において、同法のなかで用いられる用語の意味を規定する。


 こんなカンジで……


【貸金業法第2条】 

 第1項 この法律において「貸金業」とは、金銭の貸付け又は金銭の貸借たいしゃく媒介ばいかい(手形の割引わりびき売渡担保うりわたしたんぽその他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は当該方法によつてする金銭の授受じゅじゅ媒介ばいかいを含む。以下これらを総称して単に「貸付け」という。)で業として行うものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。

 一 国又は地方公共団体が行うもの

 二 貸付けを業として行うにつき他の法律に特別の規定のある者が行うもの

 三 物品の売買、運送、保管又は売買の媒介ばいかいを業とする者がその取引に付随して行うもの

 四 事業者がその従業者に対して行うもの

 五 前各号に掲げるもののほか、資金需要者等しきんじゅようしゃとうの利益を損なうおそれがないと認められる貸付けを行う者で政令で定めるものが行うもの


 長っ!


 貸金業法2条は全部で23項にわたる量の多い条文で、ここに示しているのは第1項だけである。

 

 さて、この条文によれば、


「貸金業」とは、金銭の貸付けまたは金銭の貸借たいしゃく媒介ばいかいで業としておこなうもの。


 ということになる。

 カッコ書きにいろいろ書かれているが、いまは省略しておく。


 ①金銭の貸付け

 ②金銭の貸借たいしゃく媒介ばいかい


 がキーワードだ。


 つまり「貸金業」といえるためには、①②のどちらかにあたるといえなければならないということだ。

 

「貸金業」にあたるかどうかは、おおざっぱにいえば貸金業法の規制対象になるかどうか、具体的にいえば「貸金業登録」が必要かどうか、貸付のさいに悪名高い「総量規制」(年収の3分の1を超える貸付けを原則禁止する規制)を受けるかどうかなどに関わる。


「そういえば、少し前に新聞で『給料ファクタリング』?が貸金業かどうかって記事があったな」


 ふと、思い出した。

 ゴウの家では、日本経済新聞と地元誌である中日新聞をとっている。

 リビングにいるとき、なんとなく新聞を手に取って読んでいた記事だった。


 それは、つぎの中日新聞の記事である。


「将来分の給料を債権として買い取る形で金銭を渡す『給料ファクタリング』は貸金業法違反で契約は無効だとして、東京都や神奈川県の会社員ら男女九人が十三日、『七福神』の名前で営業する会社(東京都新宿区)を相手取り、計約四百三十六万円の返還を求めて東京地裁に提訴した。…(中略)給料ファクタリングは『給料を受け取る権利』を業者が買い取り、手数料を引いた現金を渡す仕組み。給料日に債権を買い戻してもらうことで、業者には手数料分の利益が発生する」(中日新聞2020年5月14日27面)


 たとえば、みなさんが会社から毎月「給料」が支払われるのは、みなさんが会社に対して「給料をもらう権利」(賃金債権ちんぎんさいけんという)を持つからだ。

 ここでAさんという人が、給料日はまだ先なのに、いまお金に困っているとしよう。

 そのさいAさんは、どこからか「お金を借りる」ことも考えられる。

 しかし、そのほかの方法もある。

 Aさんが会社に対して持つ「給料をもらう権利」を買取業者に買い取ってもらい、資金を得るというやり方だ。

 このとき買取業者は「手数料」を差し引いた現金をAさんに渡す。


 これが「給料ファクタリング」と呼ばれる仕組みだ。


 ここで「給料ファクタリング」が「貸金業」にあたるかが問題になった。


 買取業者は、権利の「買取」行為であって「貸金業」ではないから、貸金業法の適用はないと主張した。

 貸金業法の適用がないのであれば、たとえば「貸金業の登録」などなくても営業できる。


 じつは、この記事に先立って、以下のような裁判所の判断があった。

 

 給料ファクタリングの仕組みは、経済的には貸し付けによる金銭の交付と同様の機能を有し「手形の割引わりびき売渡担保うりわたしたんぽその他これらに類する方法」による金銭の交付であって貸金業法の「貸付け」にあたる(東京地判令和2年3月24日)。


 そして、金融庁も同様の見解を採用した。


「『給与ファクタリング』などと称して、業として、個人(労働者)が使用者に対して有する賃金債権を買い取って金銭を交付し、当該個人を通じて当該債権に係る資金の回収を行うことは、貸金業に該当します。貸金業登録を受けていないヤミ金融業者により、年率換算すると数百~千数百%になる手数料を支払わされたり、大声での恫喝や勤務先への連絡といった私生活の平穏を害するような悪質な取立ての被害を受けたりする危険性があります。また、高額な手数料を支払ってしまうと、本来受け取る賃金よりも少ない金額の金銭しか受け取れなくなるため、経済的生活がかえって悪化し、生活が破綻するおそれがあります。ヤミ金融業者を絶対に利用しないでください」(「金融庁ホームページ」https://www.fsa.go.jp/user/factoring.html#02)


 ハナから「給料ファクタリング」を闇金業者による脱法行為とみているフシもあるが、金融庁も「貸金業」にあたると考えていることが解る筈だ。


 貸金業法2条1項かっこ書きの「手形の割引わりびき売渡担保うりわたしたんぽその他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は当該方法によつてする金銭の授受じゅじゅ媒介ばいかい」に含まれるという解釈だ。


 ゴウは、いま、すごーく面倒くさそうな顔をしている。

 それでも、テキストのつるつるした紙の感触を楽しむように内容を指で追っていた。


「つまり試験との関係では、まず貸金業にあたる業務とあたらない業務をおさえなきゃならんのか」


 そして、「貸金業」にあたらない場合の記述をみて「うーん」と唸った。


 さきにみた貸金業法2条1項は、「ただし、次に掲げるものを除く。」として、1号~5号で「貸金業」にあたらない業務を列記する。


 たとえば銀行が貸金業法の適用を受けないのは、このうち第2号の


 二 貸付けを業として行うにつき他の法律に特別の規定のある者が行うもの


 にあたるからだ。

 銀行の場合「銀行業法」という法律などに特別の規定があるため、貸金業法の適用外になっている。


 ちなみに、貸金業法2条に出てくる漢数字の一~五は、「号」(ごう)と呼ばれる。

 法律では、いくつかの事項を列記する必要がある場合に、漢数字で「一、二、三……」といった具合に並べる。


 なので、たとえば第2条第1項にある漢数字の一は「1号」、漢数字の二は「2号」…というふうに読む。


「なかなか、ややこしいヤツもあるな。ってことで、つぎいってみよー」


 と、早々に切り替えたゴウ。

 思考放棄ともいう。

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