貸金業務取扱主任者試験に合格するぞ📕あるフリーターの独学ダイアリー

わら けんたろう

プロローグ1――主人公視点

 ん?

 ああ、オレ?


 オレはゴウ。


 樫近業(カシチカ ゴウ)。


 名古屋市内在住の新卒フリーターだ。


 愛知県内にある木偶根大学でくねだいがく法学部を卒業した。


 木偶根大学でくねだいがくは、創立100年を超える大学だ。


 なかなかどうして、居心地の悪くない大学だったと思う。


 ネットじゃ、酷く叩かれることもあるけどな。

 たとえば、偏差値とか、偏差値とか、偏差値とか……。


 受験偏差値なんて気にしてないし、悪口も言いたくない。

 今では、オレの出身大学だからな。


 けれども高校生だった頃のオレは、どちらかと言えば「叩く」側の人間だった。

 高校生の基準て、結局「受験偏差値」なんだよ……。


 世間一般の基準もか?


 だって、木偶根大学でくねだいがくの受験偏差値は、残念すぎた。


 だから、


『オレは大学受験に失敗して、偏差値DQN大にしか合格できなかった』


 これが大学受験終了時のオレの意識だ。


 高校の友人達は、愛知県内の国公立大学や東京、京都、大阪などの難関大学に合格した。


 悔しかった。


 悔しくて、大学1年生のうちは仮面浪人していた(はずだった)。


 けれども、結局、周りの雰囲気に流され堕落した。

 授業には、ほとんど出席せず、飲み会、カラオケ、ネットカフェ、ゲームにバイト……。


 今思えば、よく、留年しなかったな。


 そして、人生最大イベントのひとつである就職活動。


 ……全敗だった。


 折からの不況のせいで……という言い訳はしたくない。

 けど、もう、なんか、すっかり負けグセがついてしまったカンジだ。


 そんなこんなで、卒業を迎えた。


 で、今に至るというワケだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇


「ゴウ、キミにはここを辞めてもらう。この書類にサインして持って来い」


「……」


 黒歴史を回想してたら、なんか追放キタ。

 ……って、お前は、風◯教官かよ!


 わりと真面目に働いていたつもりだったが、何故かバイトをクビになった。

 地下鉄東山線ひがしやません池下駅いけしたえきで降り、背中をまるめて、とぼとぼと家まで歩いた。


(バイト探さなきゃな……)


 突然クビを言い渡されたショックもあって、それ以上なにも考えられない。


 家に着いた。

 玄関の扉を開けて、無言のまま靴を脱いだ。


 リビングに入ると、オレの姿を見るなり親父が口を開いた。


「ゴウ、お前を追放する」


「……」


 オレ、追放されすぎ。

 ラノベの主人公だって、こんなに追放されないぞ。


「というのは冗談だが、イヤ、わりと本気だが……」


(どっちだよ?)


「定職にも就かず、いつまでブラブラするつもりだ?」


「……」


(ごめんな……。定職どころか、バイトもクビになったよ)


 心配もするだろう。

 親父にしては、珍しくテンプレの説教だ。

 いつもなら、もっとウィットに富んだ話をしてくれるのに。


 だが、親父はすぐに気持ちを切り替えたようだ。


「なぁ、ゴウ。今のお前には、自分に投資できる時間が潤沢にある。その時間を、……バイト以外のことに使ってみてはどうだろう?」


 正直、バイト以外に思い付かない。

 イヤ、そのバイトすら無いのだけど。


「たとえば?」


「月並みだが、資格取得とか?」


 ありがちだが、それは思い付かなかった。

 つーか、疑問形?


「……考えとく」


 自分の部屋へ入ると、パソコンに向かい『役立つ資格』でネット検索してみた。


「法学部出身だしな。法律系資格がいいよな」


 すると司法試験、司法書士試験、税理士試験、弁理士試験という文字が目に入る。

 しかし、流石に簡単に取れるもんじゃないな。

 司法試験にいたっては、そもそも法科大学院を修了するか司法試験予備試験に合格しなければ受験できない。


 オレの仲間内が勉強していた法律系資格で定番だったのが、宅建士たっけんし(宅地建物取引士)とか行政書士だった。


 宅建士は、オレも学生時代に少し勉強してみたことがある。

 しかし、民法・借地借家法しゃくちしゃっかほうを中心とする「権利関係」の問題に手こずり、匙を投げた。

 行政書士は試験範囲とされる法令が多過ぎて、やる気が出ない。


 そして、ふと目についた資格。


「……貸金業務取扱主任者試験かしきんぎょうむとりあつかいしゅにんしゃしけん?」



 これは、

 大学受験に失敗し、

 就職活動に全敗し、

 バイトすらクビになり、

 いよいよ実家からも追放されそうな青年が、

 ちっぽけなヤル気ひとつを友にして、

 国家資格取得に向かって駆け抜けた日々を描いた物語である。

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