爺☆転送 〜一つの身体に三つの魂! 美人ドS科学者に改造された爺は失われた老後を取り戻す為に全力で無双する〜

しゃみせん

爺、転送される・上

「てめえら! 俺にこんな事してタダで済むと思うなよっ!」


「ひぃっ、や、やめて下さい! 私はただ穏やかな余生を過ごしたいだけなのにぃぃ」


「……南無三っ!」



 三者三様の声が響き渡るとある研究室。ここでは今、世紀の大実験が行われていた。




 時は西暦22××年。世界は超高齢化社会の波を迎えていた。


 科学と医療が目覚ましい発展を遂げ、人類の平均寿命は遂に3桁まで届く。


 しかしその弊害で70歳を超える人口の割合は世界で70%を超え、働き手である若者には超高額な納税が義務付けられてしまった。


 これに反発する若者達。それを過去の栄光を笠に迎え撃つ老人達。今まさに若者VS老人の大戦争が始まろうとしていた──がっ、そこに一石を投じる科学者がいた。



 彼女の名前は割井黒子わるいくろこ

 齢25歳にて大天才の名を思うままにする超エリート科学者であった。


 彼女はその明晰な頭脳で、今まで誰もなし得なかった超高齢化社会抜本的対策機『三位一体トリニティクロス』を開発したのである。



 ──そして話は冒頭に戻る。



「何をそんなに騒いでいるのかしら。貴方達はこの三位一体トリニティクロスの最初の被験者なのよ? これほど名誉な事はないわ」


「誰がそんな事してくれって言ったんだ! 俺はそんなのは望んでねえ!」


 威勢よく叫ぶのは祝寿一郎いわい じゅいちろう(83歳)



「そんなのに入ったら、ワシらはどうなってしまうんじゃあぁぁ」


 泣き声で話すのは黄門菊二郎こうもん きくじろう(81歳)



「……南無っ!」


 腕を組んで目を閉じている庭野又三郎にわの またさぶろう(82歳)



 被験者である老人達は、特殊強化ガラス製の檻の中で黒子に対して吠え叫ぶ。



「ああもうっ、うるさいわね。この三位一体トリニティクロスは貴方達老いぼれ三人を融合して一人の強靭な若者を造り上げる世界最高の機械なのよ。これが成功すれば貴方達の様な老いぼれを一掃して健全な世界に戻す事が可能なの! そうすれば私も世界最高の科学者として認められるのよ!」


「ふざけるな! こんな爺どもと合体してたまるか! せめて若い女を一人は混ぜてくれ!」


「嫌じゃぁぁ! ワシは、ワシはどの部分になってしまうんじゃぁぁ!」


「……生涯現役!」



 意味をなさない爺たちの悲鳴。

 そして、その声を無視して機械を作動させる黒子。


 ウィィィン……という稼働音と共に、三人の入った檻はゆっくりと移動して、所定の位置にカチッとはまる。


「そうねぇ。三位一体トリニティクロスの中に異性を入れたり、年齢層の違う人間を入れたら面白そうね」


 既に黒子の耳には三人の声は届いていなかった。この実験が成功するのは彼女の中で規定事項で、次はどの様な実験を行うか、その結果がもたらすものに思考をシフトしていたのである。



 三人がいくら叫ぼうが喚こうが機械は止まらない。特殊強化ガラスの檻の中に設置された楕円形の装置が高速で回転を始める。そして次第に熱くなっていく檻の中。


 それと共に徐々に発光していく三人の身体。発光がどんどん強くなり、そして次の瞬間──



「…………えっ?」



 ──檻の中の三人は、忽然と姿を消したのである。








 ◆◆






「ん、うぅん、いてて……。あ、あれ? ここは……」


 深い森の中で、菊二郎が目を覚ます。目覚めた彼が見たものは、辺り一面を包み込む緑。ぐるっと見回せど、緑以外には何もない。


 そして次の瞬間、彼は気付く。


 枯れ枝の様だった自身の右腕が、鮭の腹の様にパンパンに膨れ上がっている事を。

 腕だけではない。生まれたての小鹿の様だった足は競輪選手も真っ青な太さをほこり、胸元を見下ろせばはち切れそうな大胸筋と板チョコの様にパッキリ割れた腹直筋がそこには存在していた。


「な、な、な、なんじゃこりゃぁぁ!」


『んー、うっせぇな。静かにしろよ、菊。俺は頭が痛えんだよ』


 その時、菊二郎の頭の中に声が響いた。脳内に直接届くような、初めての体験だった。


「え、え? 寿一郎さんの声がする……。でも、どこだい?」


『どこも何も、俺はここにいるぜ? お前こそどこにいるんだよ』


 そう言われて再び辺りを見回すが、やはりそこには誰もいない。少し離れた所にいるのかと身体を起こそうとした時、その異変に気が付いた。



 ……体が、動かない。いや違う、正確には思った通りに動かない。右手を動かすと右手は動くのだが、何故か左手も動いている。


『あれ、なんだこりゃ。なんで右手が動くんだ?』



 またしても頭の中に響く寿一郎の声。ここにきて菊二郎は確信した。


「……寿一郎さんや。これ多分、ワシ等みんな一緒になってるんじゃないかのう」


『……本当かよ。あの機械が正常に作動して、俺ら合体しちまったって言うのか。そういえば、又はどこ行った?』


『……いる』



 短い一言と共に、下半身がピクリと動く。


『なんだなんだ、本当にみんな一緒になっちまったのかよ。どうすんだ、これ』


「どうするって言ったって……。ワシ等じゃどうにもならないから、あの科学者に元に戻してくれと言うしかないかのう……」


『……それがいい。それしかない。早く、行く』




 三人の意見が一致し、とりあえず森から出て科学者割井黒子の元へ向かう事にする。



 その為にはまずはここがどこだか把握しないとならないのだが、これが上手くいかなかった。


 三人が三人共自分の意思で身体を動かそうとする為、右手と右足が一緒に出たり進む方向が上半身と下半身で反対を向いたりしてしまう。


『おう、菊。お前なんでそっち行くんだよ! 俺に従えよ!』


「で、でも寿一郎さん、あんたがどっちに行くかなんてワシには分からないんじゃ」


『……分かるんじゃない、感じるんだ』




 そんな事を延々と繰り返して、辿り着いた結果がカニ歩きだった。

 端から見ると、屈強な若者が一人全裸で森の中をカニ歩きしている。それも凄まじいまでの速さでだ。

 小さな子供が見ればトラウマ間違いなしの姿で、三人はカニ歩きを続けた。




 そのカニ歩きが功を奏し、三人はなんとか無事市街地に辿り着く。


「さて、ここは一体どこなんじゃろうなぁ……」


『菊よ、あそこのチャンネー達に聞いてみろよ』


『……胸の大きい方に聞くべきだ』


 どうやらこの体の発声器官は菊二郎の管理下にある様で、寿一郎も又三郎も声を出す事は出来なかった。二人に促され嫌々近くにいた女性に声をかける菊二郎。



「もし、そこのお嬢さん。ちと訪ねたい事があるんじゃが……」


 菊二郎が二人組の女性に声を掛ける。振り向いた女性達は目を丸くして、一人はアイスを取り落とし、一人は両手で顔を覆った。


「きゃーーー!」


 菊二郎達は失念していた。今の自分はイケメン(?)マッチョ。そして合体の影響で衣服を着ていない。


 しゃがみ込んだ女性達は手で顔を隠しながらも菊二郎の股間をチラッ、チラッと見続けていた。



 やがて女性の悲鳴を聞きつけて、高さが2m程もある街の警邏ロボット達が集まってきた。



『やばい、あいつらは問答無用で捕まえにくるぞ! こっちの話なんて一切聞かないからな、とにかく逃げろ!』


 寿一郎の言葉に菊と又は頷き、急いでその場を立ち去ろうとする。


 しかし慌てたのがいけなかった。カニ歩きでは上手く歩けていたが、慌てて普通に走ろうとしてしまった為、一歩目で躓き前方に三回転する程激しく転んでしまった。


 全裸で大の字に寝転がる菊二郎達。その解放感で新たな目覚めをする前に、警邏ロボットたちに取り囲まれてしまった。


『くそっ、このままじゃ捕まっちまう!』


「寿一郎さん、なんとかならないのかのう……!」


『無理だな。こいつらは人間の力じゃどうにもならねえ。昔思いっきりぶん殴って、その重さと硬さに右腕がイカレちまったからな』



 警告音を発しながら近づいてくる警邏ロボット。突然の事態に恐慌に陥った菊二郎は、もうどうにでもなれと無我夢中でロボットたちの隙間に飛び込んだ。



 ──その時、寿一郎と又三郎は何もしていなかった。事態に諦め思考すら止めていた。だからこそ菊二郎の行動を邪魔する者はない。



 この体になってから初めての全力の行動。その力は想像を絶した。



 菊二郎はロボット達の隙間を目指し肩から飛び込む。2m程の警邏ロボットは重さ500kgにも達し、人間が思い切りぶつかったところでビクともしない。


 だが、跳んだのだ。そして更に、電撃が放たれた。


 重さ500kgの警邏ロボットは菊二郎にぶつかった瞬間、紙くずの様に跳ばされ、10m先の地面に轟音を立てて倒れこんだ。


 普通なら起き上がってくるのだが、その気配もない。菊二郎がぶつかった瞬間、青白く放電現象が起き、ロボットの回路をショートさせていた様だ。



「『『…………えっ?』』」



 これに驚いたのは菊二郎達も同じだ。何が起こったか理解できない。だが菊二郎は一度止めた足を再び踏み込み、再度警邏ロボットに体当たりをする。




 ──ドシーン、バリリ、ドシーン、バリバリ、ドシーン……



 気が付けば全ての警邏ロボットは地面に倒れ行動不能になっていた。それをやったのはもちろん菊二郎だ。どういう理屈か知らないが、彼が体当たりをすると2mのコンニャクの様なロボットは軽々と跳んでいき、そして二度と立ち上がる事はなかったのだ。



「と、とにかくここら逃げようぞ!」


『応っ! 体の操作は菊に任せる。又、いいな?』


『……無論』



 初めて三人の意思が統一され、菊二郎は無我夢中で走り出す。


 それはまるで風の様だった。肩で、顔で、股間で風を切り、そして風と同化する。




 あっという間に商店街のアーケードを駆け抜け、今まさにゴールしようとした瞬間、心臓が止まるくらいの大声で呼び止められる。


「ちょっと待つのじゃっ!!」


 驚いてすっころび、商店街のゴミ箱に突っ込む。ようやく起き上がってその声の方へ顔を向けると、そこには金髪で白衣を着た幼女が立っていた。


「いっ、今の声は君かい?」


 全身に残る痺れを堪えながらようやく声を振り絞ると、その幼女は腕を組みながらこちらに近づいてくる。


「無論あたしじゃ! なんじゃ貴様は、そんな破廉恥な格好をしおって! 警邏ロボットをぶっ飛ばした事といい、お主には一般常識というものが欠如している様じゃな」



 そう言いながら幼女は全裸の菊二郎をマジマジと見つめてくる。それはもう余すことなく、ほくろの数から皺の数まで把握された頃、その視線はやっと菊二郎の目に向いた。


「あ、あのう。ワシに何か用かのう? 何もなければもう行きたいんだが……」


「何もなければわざわざ呼び止めはせん。ふむ、こうして会話が出来るという事は精神的異常者でもないようじゃな。何故お主は全裸でこんな所におるのじゃ?」


 幼女の問いにどう答えようか逡巡していると、周りから奇異の視線が集まってくる事に気付く。それは幼女も望むことではなかったようで、再び口を開き一つの提案をしてきた。


「ちょっとばかしお主に聞きたい事がある。この場所では色々上手くなかろう。あたしについてきてくれるか?」


 本当ならば今すぐにでもここを離れたい。こんな訳の分からない幼女とはおさらばして、早くあの科学者の元へ向かわねば。


 だが警邏ロボットや人々の好奇の視線から逃れるにはちょうどいい。とりあえず幼女に従い、人目のない所まで行こう。



「して、どこまで行くのかのう?」


「ん? ここで構わんよ。人目に触れない様にする」



 そう言うと、幼女は白衣のポケットから小さなカプセルを出し、無造作に投げる。


 ポンッという軽い音がしてカプセルが消えるが、周囲には特に変化は見当たらない。


 呆けている菊二郎の手を幼女が引くと、そのまま引きずり始めた。


「こっちじゃ」


 幼女に言われるままに歩くが目の前には何もない。だが突然、菊二郎の手を引いている幼女の姿が消えた。


 前から順に、引いている左腕まで。そして自身の右腕も徐々に消えていく。あわあわと慌てふためくが、そのままゆっくりと全身が透明になる頃、気付いたら菊二郎は小さな部屋の中にいた。



「何が起きてるんじゃぁ……」


「あー、すまんすまん、説明を忘れとった。ここはあたしが開発したあたし専用の部屋じゃ。外からは見えない様になっているし、この鍵を持っている人間以外は触れない。一種の隠れ家じゃな」


 そういうと、幼女は手の中の幾何学模様が刻まれた鍵を見せてくる。そして慣れた手つきでお茶を入れ、菊二郎をソファーに座る様促した。


 自分と菊二郎の二つ分のお茶をテーブルに出すとその対面に腰を掛ける。




「ふむ、自己紹介がまだじゃったな。あたしは白井良子しらいよしこ。これでも一応科学者じゃ。お主は何者じゃ?」



 目の前の幼女に科学者だと言われ、菊二郎は混乱する。主に残りの二人のせいだが。


『けっ。こんなガキが科学者な訳がねえ。おままごとしてたら現実と区別がつかなくなったんだろうさ』


『……幼女属性は評価できる。ツインテールならなお良し』


 どうやら二人は信じていない様だ。この件については菊二郎も半信半疑。だが良子の問いには答えねばなるまい。果たして私はだれだ?


 じっと見つめてくる幼女の視線に耐えかねて、菊二郎は口走る。


「ひ、一二三ひふみ。わ、ワシは一二三というものじゃ。ただの爺さんじゃ……」


「……爺さん?」



 爺さんという言葉に首を傾げる幼女。今の菊二郎たちは三人合わさってマッチョの若者に変貌している。良子が訝しがるのも仕方ない。


「じ、実はの──」


 その事に思い当たった菊二郎は、ここまで起こった事を正直に良子に伝えた。自称かも知れないが、良子は科学者だそうだ。もしかしたら今三人に起きているこの事態をなんとか出来るかも知れない。


「ふむふむ、なるほど。おぬし等はあの実験の最初の被験者という訳か。まさかあのトンデモ発明がこう上手くいくとはな……」



 そう言いながら再び菊二郎たちの体をジロジロ見る良子。生憎ここには成人男性用の服がなかったので、大事なところは飲み干したティーカップで隠している。


「そ、それで、ワシ等は元に戻れるんじゃろうか……」


「んー、わからん! この機械を開発したのは黒子じゃろ? 全く仕組みが公表されておらんから、何故おぬし等が融合したのかあたしにはわからんのじゃ」


「じゃ、じゃあわしらはこれからどうすれば……」


「わからんなら本人に聞いてみればよい。可塑性のものなのか、そうでないのか。科学者は実験の結果について責任を持たねばならぬ。ならば黒子もこの実験結果に対する回答を持ち合わせておるじゃろう」


 その言葉に一筋の光をみた三人は、良子と共に黒子の研究所へと向かうのであった。

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