1.桜想えど筆は奔らず 2

「なぜ部長は無いのに神は有ると思ったのかとても興味があります」


 興味がありますと言いながら不二はその実あまり関心なさそうに部室を見まわす。目にとまったのは黒板に貼られた一枚のチラシだ。


「よっと…なんですこれ。夏季報掲載作品募集要項…?」


 テーマ、ジャンル、文字数、締め切り…などなど。


「文高連の四季報に載せる作品を募集してるんだそうだよ。昨年もあっただろう?」


 やれやれ忘れたのかい?と口には出さずとも溢れかえるほどニュアンスを含ませて答えた先輩に対して不二はきょとんと首を傾げる。


「初めて聞いたんですけど。そもそも文高連ってなんですか」


「えっ」


「えっ」


 そうでなくとも静かな部室が水を打ったように静まり返った。


「静かな部室に運動部員の走り込みの掛け声だけが遠くに聞こえる。校門付近に植えられた桜は今が満開、ふたりの間にある空気は、まさに春の学校といった風情だった」


「そういうのいいんで文高連の話を」


「つれないなぁ。文高連っていうのはこの辺にある高校の文芸部がやってる連絡会みたいなものだよ」


「高野連みたいなもんなんですね」


「あんなご大層なものではないけどね。文芸部なんてウチに限らずどこも幽霊部員だらけであるんだかないんだかわからないような有様だから、他校と連帯してでもなんとか盛り上げようってことらしい」


 先輩は文高連について説明しながら立ち上がると書棚に目を走らせる。


「作品募集も毎季やっているよ。去年も…貼ってなかったかな。貼ってなかったかも。でも四季報は、と、あったあった。ここに何年分か入っているよ。キミだって見たことあるだろう」


 先輩の手招きにチラシを置いた不二が横から書棚を覗き込むと、確かに年度ごと季節ごとにA3サイズで厚み3~4cmにも及ぶそれらがずらりと並んでいた。


「見たことあるだろう?」


「あー僕これ図鑑かなにかだと思ってました」


「なんてことだ。背表紙のタイトルにも目を通さないなんて文芸部員にあるまじき怠慢だぞ。改めたまえ」


「す、すみません…」


 自分の腰に両手を当ててふくれっ面を作って見せる先輩になにも言い返せず、不二は背を丸めて申し訳なさそうに頭を下げるしかない。

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