第6話 スナイパー訓練 その1



 翌日リンドウが銃ケースを持ってハンター本部地下にある射撃場に顔を出すとそこには迷彩服を着た二人の女性がリンドウを待っていた。ツバキに確認しなかった俺も悪いが2人共女とはな。

 

 そう思って近付くと向こうから

 

「リンドウさん、宜しくお願いします」

 

 そうして自己紹介をする2人、マリーとサクラという名前で迷彩服の左肩には確かに黒地に白でAと書かれたタグが張り付けてある。

 

 サクラと言った女は黒髪を後ろでまとめて止めている。マリーは金髪のショートボブカットだ2人共に汎用品の迷彩服を着ているが服の上からでもスタイルのいいのが分かる。顔も並以上、いや美人と言えるだろう。

 

 そして200メートルあるロングレンジの発射台に既にセットされている2つの狙撃銃を見たリンドウ。

 

「リンドウだ。お互いにAランクだ。気を遣う事はないぞ」

 

 そう言ってから

 

「早速だがスナイプで実際に機械獣を倒した経験はあるのか?」

 

「1500メートルで小型機械獣を」

 

 とサクラが応えると

 

「私は1400メートルで同じく小型機械獣を倒してます」

 

 マリーが応える。

 

 その言葉を聞きながら銃ケースからスナイパー用のロングレンジライフルを取り出して銃身と本体とを接続して銃を作り上げるリンドウ。

 

その銃を見てびっくりする2人

 

「これは…特注品ですか?」

 

マリーが聞いてくるが

 

「いや、売ってるぞ。値は張るけどな」

 

そう言っておいてある2台の銃の横で自分のスナイパー用の銃を組み立ててる。

 

「この銃の正式名称はIMIAR-50。銃の長さは全長で200センチ、最大射程距離は3,300メートルだ」

 

「「凄い…」」

 

 銃身にあるバイポッドを広げて発射台にセットする。隣に並んでいる二人の狙撃銃もなかなかの銃だがリンドウのよりは長さで80センチ程短く、全体の大きさは2周り以上小さい。

 

「そちらの銃も悪くないぞ。女性向きかもしれないな。ただこれからランクAでスナイパー銃を使用するなら2,000メートル先の目標物に当てる技量が求められる」

 

「わ、わかりました」

 

 緊張している二人に

 

「いきなりそんな高いレベルは求めない。技量を上げるには鍛錬も大事だが良い武器を持つのも大事だという話だ」

 

「はい」

 

「だからお互いにAランクだ。そんなに気を使ったり敬語で話す必要はないって言ってるだろう」

 

 リンドウの言葉に顔を見合わせるサクラとマリー。

  

 2人はBランクの時に何度か同じミッションをこなして知り合になった関係だ。その時からAランクのリンドウは既にD地区では有名なハンターだった。ランク以外にランキングが無いハンターの世界でもし順位があればリンドウは誰が選んでもトップ3に入ると言われている。

 

 そんな有名で最強と言われているハンターが目の前にいる。年齢はリンドウと同じ23歳とは言え、つい数か月前にAランクに昇格した2人にとっては雲の上の存在だ。

 

 二人が黙っているのを見て、

 

「まぁ口調はいきなりが無理なら追々でもいい。先ずは自分の銃で標的を撃ってみろ」

 

 そう言ってボタンを押すと200メートル先に円状の標的が現れた。

 

「撃つタイミングは任せるが、構えてから1分以内だ。敵は待ってくれないからな」

 

 そう言うとヘッドホンをつけるリンドウ。


 マリーとサクラは腹這いになってセットしてある狙撃銃のスコープを覗く。射撃姿勢になって20秒後、そしてそのすぐ後に2発銃声が響いた。


 標的のシートを手元に引き寄せると2人とも円の中心に見事に命中させている。


「いい腕だ」


 リンドウの言葉ににっこりする2人。


「オーケー、射撃はひとまずこれで良し。銃をしまってくれ、出かけるぞ」


「「えっ!?」」


 訳が分からないがリンドウの言う通りに1発だけ打った各自の銃をケースにしまうと立ち上がる2人。リンドウは射撃場にいるハンター支部の職員に、


「1時間ほど出かけてくる。俺の銃は置いておくので見張っててくれ」


 そう言うと2人を引き連れて射撃場から地上に出ると、ハンタービルを出て通りを歩き出した。声をかけるのも憚れる雰囲気の中サクラとマリーはリンドウの背中を追って後をついていく。3層の城壁を潜って4層に出るとそのまま通りを歩いて1軒の武器屋に入っていった。そのあとに続いて店に入る2人。親父のサムがリンドウを見て店の奥から顔をだしてきた。


「どうした?リンドウ」


「親父、悪いがこいつらにお勧めのロングレンジライフルを見せてくれ」


 リンドウの後から入ってきた迷彩服の2人を見て


「ほぅ、Aランクか。わかった」


 そう言うと武器屋の親父のサムがこっちだと3人を案内する。店の奥のガラスケースの中に何種類かのスナイパー用のライフルが並んでいる。そこに連れてくるとリンドウは背後の2人を振り返り、


「お前さん達、金は持ってるか?」


 リンドウに聞かれて


「えぇ、Bランクの時にあまり散財しなかったのでそれなりには」


 サクラが答えると私もそれなりにありますとマリーが続く。


「じゃあ、あれかな」


 サムが呟くと


「ああ、それしかないだろう」


 とその言葉に同意するリンドウ。そしてサムがケースから1丁のロングレンジライフルを取り出した。リンドウが使っている程大きくて長くはないが彼女らの今の銃よりはずっと大きくて銃身も長い。銃の全長は170センチ弱だ。


「これの射程距離は?」


「カタログ上では2,400メートルだな。Aランクのスナイパーは大抵これを持ってる。リンドウは別格だよ」


 武器屋のサムがこれはコストパフォーマンスが高い。売れてるぞと言う。

 

「なるほど。じゃあそれを2丁だ」


 とサクラとマリーの同意を得ずに即決する。そして2人を見て、


「ゴーグルは持ってるのか?」


 首を振る2人。


「じゃあついでにゴーグル2つと弾丸と模擬弾をそれぞれ100発づつ」


 言われた品物を持ってきたサム。ゴーグルはリンドウと同じものだ。

テーブルの上に狙撃銃と弾丸を2セット並べると、


「〆て1,800万ギール、一人当たり900万ギールだな」


 その金額を聞いてびっくりする2人。リンドウは2人が持っている銃のケースを見せて


「これを下取りに出すから1人800万にしてやってくれよ」


 2人からケースを受け取って中の銃の状態をチェックする親父のサム。


「せいぜい50万ってとこだがリンドウの頼みだ、今回は泣いて1丁100万で下取りしよう」


「ありがとな」


 商談が成立すると、


「詳しい話は後でする。端末からこの店に800万づつ払ってやってくれ」


「は、はい」


 サクラもマリーも貯金はせいぜい1,000万ギールだったがそのほとんどがあっという間に消えていった。


 決済が終わるとリンドウが2人の方を向いて


「びっくりしていると思うが、これがAランクだ。いいな、安全を金で買う癖を身につけるんだ。それが死なない秘訣だ」


 リンドウの言葉に頷く2人、


「まずこの銃だが、今のより数段性能が上だ。射程距離も伸びている。射程距離が伸びれば遠くの敵を倒せるから自分が攻撃されるリスクが減る。それはチームの安全度をあげることにもなり、引いてはハンター支部から声が掛かることが大きくなって自分自身の評価があがる。その結果がっつりと稼げる様になる」


 リンドウの言葉はAランクで修羅場を潜ってきて生き延びているハンターの言葉だ。2人は真剣な表情でじっと話を聞いている。


「まずこの銃を完全に自分のものにするんだ。そしてこのゴーグル。俺が使っているのと同じタイプだが通話機能も付いている。そして簡易レーダーもある。スナイパー時だけじゃなくて普段の活動時にも力を発揮する優れものだ。Aランクのハンターは皆持ってるぞ」


「「はい」」


リンドウは続けて


「そしてこのゴーグルの最大のメリットは端末情報をレンズを通して見られることだ。リンクできるんだ。団体行動の際に偵察隊が送ってくる情報をいちいち端末を覗かなくてもこのゴーグルのレンズに表示される。そしてゴーグルのデータを銃のスコープに自動転送することもできる。つまりじっと構えているだけでリアルタイムの情報が目に入ってくるということだ。口で言っても分からないかも知れないが実際の戦闘になるとこの有り難みがよくわかる。俺はもうこれは外せない」


 リンドウが今購入した銃とゴーグルの説明を終えると、それを聞いていた武器屋の親父のサムも


「リンドウの物を見る目は一流だ。こいつは武器や装備をケチらない。それが生きるために必要だと知っているからさ。金をケチって死んでいくやつは多い。あんた達もそんなハンターにはなって欲しくない。頑張れよ」


「「はい!!」」


 元気よく返事をする2人。


「お前さん達の所持金の関係で今回はこれくらいだ。次に金を貯めて買うのはこれだな」


 そう言ってリンドウは自分の迷彩服のボタンを外して中に来ている身体保護スーツを見せる。


「知ってるだろうがこれも必須のアイテムだ。1着で400万ギールはするが命には変えられないからな」


「それってあのルリさん達が着ているのと同じですか?」


 マリーの質問に頷くリンドウ。


「彼女らのも同じものだ。あっちはメッシュでこっちはシャツタイプ。性能は同じさ」



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