第3話 エリンとルリ


 リンドウは3層との城壁に近い場所にある4層内の高級マンションを出ると通りを歩いていく。4層はハンター達の街だ。武器を携帯しているハンター達がそこらじゅうを歩いている。ちなみに4層と3層は弾倉を外していれば武器を携帯していても咎められない。


 通りを歩いて1軒の武器屋に入ったリンドウ。中に入ると奥から顔見知りの親父が出てきて


「今日は何だい?」


「狙撃銃とロングレンジライフルのカートリッジを買いに来た」


「また外に行くのかい」


「仕方ないだろう?上の命令だよ」


 リンドウはここの店をもう何年も使っていて親父のサムとは十分顔馴染みの関係だ。サムは何も言わずに奥から彼が持っている狙撃銃とライフルの弾丸を持ってくる。


「銃の調子はどうだい?不具合はないか?」


「今のところはどちらも問題ないな。親父さんが推薦してくれた銃だ。信用してるよ」


「こんなでかい銃を軽々と持って撃てるのはお前さんくらいだ」


 M56A7タイプの狙撃銃は全長が125センチありフルオート/セミオートがスイッチで切り替えることができる。最大射程距離は1,500メートル。実戦レベルでは1,200ー1,300メートルといわれているがリンドウは1,400メートルあればほぼ命中させる腕を持っている。セミオートでは1発、フルオートでは3点バーストになるこの銃をリンドウは重宝していた。弾丸を撒き散らして敵を倒すのは彼の戦闘スタイルではない。


 そしてロングレンジライフルのIMIAR-50 銃の長さ200センチ 最大射程距離3,300メートル。最強のスナイパー銃だ。リンドウ以外に使っている現役のハンターはいないらしい。3,000メートルを超えるスナイプをするために弾丸も特殊なものを使用し、その弾丸代は1発で10万ギール近くする。


 リンドウは予備の弾丸が入っている弾倉を背中のリュックやベルトに収納すると金を払って店を出た。そうして自宅に戻るとミッションに備えて銃の整備や食料、弾丸をリュックに詰め込んでいく。


 翌日の朝リンドウが集合時間の15分前にD門に行くとそこには既にチームを組むエリンとルリが来ていた。普段から人が多い門の付近でも2人は周囲から目立っている。

 

 2人が周囲の注目を集めているのは美貌とその恰好だ。いつも通りと言えばいつも通りなのだがエリンは濃い茶色の皮のボディスーツ、ルリは同じデザインで黒色の皮のボディスーツ。身体にぴったりとフィットしているので2人の見事な肢体のラインが浮かび上がっていてチラチラと2人を見ている男達にその服の中の全裸の姿を想像させる。


 エリンは肩までの金髪のボブカット、ルリは黒髪のショートボブ。2人とも超がつくほどの美人だ。下手なモデルよりもずっと綺麗で抜群のスタイルをしている。共に25歳という話しだが出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる見事なプロポーションだ。そして2人共皮のスーツの下にはリンドウと同じ様な高価な身体保護スーツを着ている。しかしながらリンドウのは黒の普通の全身を隠すタイプであるのに対して2人の身体保護スーツは黒のメッシュタイプだ。

 

 そしてファスナーを胸まで下げているのでメッシュの網目から大きな胸の谷間のみならず膨らみも半分以近くがメッシュ越しに透けて見えている。

 

 ただそんな目立った恰好をしていても周囲の男は誰も声を掛けない。2人の皮のボディスーツの左肩の部分にあるパッチが2人に近づくのを拒絶する様に目立っている。その黒い生地のパッチには白字で大きくAとだけ書いてある。Aランクハンターの証だ。


 リンドウの緑色を基調にしている迷彩服の左肩の部分にも同じ様なパッチが貼り付けてある。ハンターの中でも1%しかいないランクA。ランクA以外の男がふざけてちょっかいを出してもまず勝てる相手ではない。その場でぶちのめされるのがオチだ。

 

 リンドウを見つけた2人が手を挙げる。そこに近づきながら彼女らの装備を見るリンドウ。エリンもルリも手に持っているのはマシンガンタイプの銃。彼女らの戦闘スタイルは弾丸を雨の様に巻き散らかせて敵を殲滅する乱射スタイルだ。弾丸代は半端なく高いだろうが多数の敵を相手にするには適している。そして撒き散らす弾丸以上の報酬を得ているのをリンドウは知ってる。しかも彼女らのマシンガンは通常よりも銃身が少し長い。弾丸は同じだが最大射程距離が800メートルまで伸びている。武器や弾丸に惜しげもなく金をかけられる財力があるということだ。


 この世界ではハンターが持つ銃は大きく3種類に分かれている。

ロングレンジライフル(ライフルと短く言う事が多い)は射程距離が2,000メートル以上の銃で単発だ。


 そして狙撃銃。これは射程距離1,000~2,000メートルの間の銃の総称で単発のみの銃と3点バーストのセミオートができる銃の2種類ある。


 スナイプをメインとするハンターは上の2つの銃のいずれかもしくは両方を持っている。


 そして射程距離1,000メートル以下で連射する銃をマシンガンという。

これは3点バーストとフルオートでの連射の切り替えが可能で連射タイプのハンターはマシンガンをメイン武器としている。

 

 戦闘以外でもたっぷりと稼いでいる2人。噂によると2人ともそれぞれ、一晩自分のものにできる金額は最低でも100万ギールらしい。2層あたりに住んでいる金持ちを何人もそのテクニックと見事なスタイルの身体で骨抜きにさせて金蔓にさせているという話だ。ちなみにリンドウはこの2人から金をもらったことはあっても金を払ったことは一度も無い。

 

 遠目からチラチラと2人を見ていた他のハンターや職員が彼女らが手を振った先に顔を向ける。そしてリンドウが近づいて来るのを見ると無意識に2,3歩後ろに下がる。

 

 リンドウを見る周囲の目は畏怖の目だ。23歳の若さながらAランク、しかも離れていても半端ない存在感を示している長身でがっちりとした体躯の男。無意識のうちに身を引いてしまうのだ。

 

「私達の指名を受けて頂いてありがと」

 

ルリが近づいてくるリンドウに声を掛ける

 

「やっと休みが取れたと思ったらこれだ」

 

「私達のご指名なのにご機嫌斜めなのね。普通の男なら泣いて喜ぶのに」

 

エリンが胸のファスナーを少し下げながら近づいてくる。

 

「ねぇ、久しぶりに2人相手でどう?たっぷりサービスしてあげる」

 

「あいにく今のところそっちは不自由してないんでね」

 

 エリンの言葉は周囲にも聞こえているがリンドウはつっけんどんに言うと2人の背後にある車を見て

 

「ハンター支部にしちゃあいい車を用意してくれてるじゃないか」

 

エリンとルリはお互いに顔を見合わせて相変わらずねと言いながら彼が見ている車に視線を注ぎ、

 

「D4地区まで行くから悪路仕様になってるらしいわ」

 

車の周囲をグルっと見てその仕様に満足する。

 

「なるほど。悪くないな」

 

 リンドウが軽く手で車体を叩いているとエリンがボンネットの上に地図を広げた、その地図を指さして

 

「蜘蛛型機械獣の集団はこのルートで真っすぐにこちらに向かって来てる。今から出て予定遭遇地点はここね。このランデブーポイントの近くに車と身を隠せる建物の残骸がある場所があるの、ここよ。ここで迎え撃つわ」

 

エリンの指の動きを追って

 

「わかった。大型と小型は何体いるんだ?」

 

「報告では大型が3体、小型は確認したところで12体」

 

「じゃあ実際小型は15から20体程か」

 

「そうなるわね」

 

 蜘蛛型の大型機械獣は蜘蛛型と言いながら背中は丸まっていなくて平面だ。そしてその平面の背中に取り巻きの小型の蜘蛛型獣を乗せていることが多く、探知では背中に乗っている取り巻きまで識別できない。この3人は経験からそれを知っているからそんな会話になる。ちなみに蜘蛛型と言われるのは脚が左右に4本ずつ合計8本あるからだ。以前誰かがそう言ってそれ以来そう呼ばれている。

 

「今回の周波数は?」

 

「217.5MHz」

 

 3人は皆ゴーグルを装着した。これは通信機能も備えている。ハンターはミッションごとにハンター本部からそのミッションに於ける通信用の周波数を割り当てられる。これはミッションが終了するまで有効で離れていても与えられている周波数を使ってチーム同士の会話が可能だ。


 このゴーグルは支給品ではなく店での購入となるがAランクのハンターは皆持ってる。ゴーグルは通信機能のみならず簡易のレーダーも装備された優れものだ。戦闘の手助けになるものは高額でも購入して装備するのが生き残るための鉄則だというのは高ランクになればなるほど身をもって知ることになる。


 リンドウはゴーグルについている受信機の周波数を217.5MHzにセットしてからゴーグルを装着する。

 

 ちなみにゴーグルを買うことができないハンターは端末に周波数を登録してそれを使って通話している。これでも会話はできるが端末を持つために通話中はそれを持っている片手が使えなくなるというハンデを背負わなければならない。

 

「本体は俺、取り巻きはそっち。その分担でいいのか」

 

「それでお願い。雑魚はいくらでも任せて」


 雑魚の数が多いが彼女らは全く気にしていない。

 

「一応俺も狙撃銃を持ってはきているが雑魚はそっちに任せるよ、それにしても高い弾丸を雨あられの様にぶちまけられる財力が羨ましいぜ」

 

「リンドウは無駄撃ちしない人よね、戦場でもベッドの上でも」

 

「銭がないだけさ」


 そう言うと屋根のない四輪駆動車の後部座席に乗る。運転席にエリンが座り助手席にルリが座ったそして空いているD門から外に出ると一気にスピードを上げて荒野に飛び出した。

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