第28話 覚醒 挿絵あり
「私のリンを泣かせたな!」
頭の中がクリアーになり、思考が加速する。リンを泣かすクソ野郎を完膚なきまでに叩き伏せろと心が叫ぶ。
激情に渦巻く心と裏腹に、その目は冷徹にゴミを見るような眼差しでカオスドラゴンを見据えていた。
ハルカはただ、カオスドラゴンを倒すためだけに意識を集中する。
異常とも言える過剰な集中……それはハルカを『|ゾーン』と呼ばれる特殊な意識状態へ誘う。加速する思考は、あらゆる情報を読み取り、狂える竜を倒すために策を練る。
「……」
(さあ、どうする? アイツを倒すにしてもどうやって? また弱点である首元の黒球を狙う? だけどそれを破壊してもアイツは復活した。アレは弱点じゃない? ……違う。あれは絶対に急所のはずだわ。アイツを倒した時、経験値が入ってレベルアップした。つまり倒せてはいた)
「ダ、ダメ、はーちゃん! ダメ!」
そんなハルカの変化を、泣いていたリンは感じ取り、止めようとするかが、『ゾーン』に入り込んだハルカの耳には届かない。
「……」
(そういえば、レアクエストの詳細が変わっていた。報酬金額アップとクエスト継続中の表示……そうか、これは継続クエストなんだ。おそらく一回倒してもクエストは終わらず、内容が更新されアイツは復活した。なら倒し続ければ、いつかクエストは終わり、クリアー扱いになる?)
ハルカを止めようと、リンは立ち上がり手を伸ばす。だが、タッチの差で手は届かなかった。ハルカは腰に収めた二丁のデザートイーグルを引き抜き、カオスドラゴンに向かってすでに走り出していた。
「グォー!」
「……」
(やれたとしてもあと一回が限界、これでクエストクリアーになればいいけど……違う、やるんだ。たとえ弾が尽きたとしても、殴ってでもコイツを倒す。リンに涙を流させたこと、絶対に許さない!)
自分に向かい来る敵を見て、カオスドラゴンは体を回転させ、太い尻尾を叩きつける。ハルカはタイミングを計り避けようとした瞬間――尾っぽを覆うウロコが爆発し、尻尾のスピードが上がる。
「……」
(ウロコを爆発させて攻撃スピードを上げた⁈ 爆発の威力も上がってる。でも遅い!)
ハルカは無言で、迫り来る尻尾を背面跳びの要領で軽々と跳び避けてしまう。クリアーになった視界と加速する思考……ふたつが合わさった今のハルカにとって、カオスドラゴンの攻撃など、もはや恐るものではなかった。
尻尾を跳びこえた瞬間、手にする銃から二発の弾丸が撃ち出され、それはコンマ何秒の違いでカオスドラゴンの尻尾に着弾する。
一発目の弾丸がウロコに穴を
「……」
(硬い。最初の時よりも、ウロコの下が硬くなっている。これじゃあ、もう一度、首元の黒球を攻撃しようにも貫けない。じゃあ、どうやってアイツの防御を突破する?)
加速する思考は、カオスドラゴンを倒す手段を模索する。その間にも攻撃は続くが、ハルカはそのすべてを避け続ける。
「……」
(これならやれる? いや、やるんだ。残りの弾を撃ち尽くそうとも構わない。リンを泣かしたコイツを絶対に許さない)
するとハルカは、腰のホルスターに銃をしまい、腰に差していた空の
「……」
(通常弾、地、風、火、氷、水、この順番でうまくいくか? アイツにも属性システムが適用されているならいけるはず。いや、クマ吉のファイヤーボールや属性弾が効いたんだから適用はされている。やれるはずよ)
ハルカは属性弾を詰め終えると、マガジンを腰に差し再び銃を手にする。残る弾丸は、銃のマガジンに装填された
「……」
(さあ、リンに涙を流させたこと後悔させてやる。私のすべてを撃ち尽くす!)
ハルカは真っ向勝負とカオスドラゴンに真正面から走り寄る。カオスドラゴンはタイミングを計り、爪の届く範囲にハルカが入ると同時に右手を上げ、コタロウを葬った必殺の爪を振るう。
ヒジのウロコが爆発し、破壊力とスピードを増した凶撃がハルカに迫る。
「……」
(それは、もう見た)
ハルカは左手のデザートイーグルをおもむろに上げ、ノールックでカオスドラゴンの体を支える左腕へ、マガジンの中に残る五発の
「グォォ⁈」
左手首に並ぶ五枚のウロコに五弾丸が撃ち込まれ、リアクティブアーマーは爆発する。その瞬間、カオスドラゴンの体は傾き、バランスを崩してしまう。そして右手から繰り出した凶撃の軌道は
「……」
(威力がありすぎるのも考えものよ。リアクティブアーマーの爆発力は上がっても、デメリットが発生してたんじゃ意味がない!)
ハルカの頭上を、カオスドラゴンの爪が通り過ぎていく。ガンナーは撃ち尽くしたデザートイーグルのマガジンキャッチを操作して、空のマガジンを地面に落とす。同時に右手に持つ銃の照準を首元の弱点部分に合わせ、引き金を連続で引いた。
「グギャアァァァァ」
首元のウロコが爆発し、皮膚が露出する。だがハルカの攻撃はウロコを
「……」
(その笑いを……泣き顔に変えてやる)
ハルカは撃ち尽くした右手の銃を投げ捨て、腰に差した最後のマガジンを左手の銃に装填しチェンバーを引く。両手で銃のグリップを握り締め、露出した肌に照準を合わせ、トリガーを迷うことなく引く。
瞬時に撃ち出された六発の弾丸……ハルカは、一呼吸ですべてて撃ち尽くす。
一発目の水属性の弾丸が撃ち込まれると、皮膚に残る熱を奪い、周囲を水で濡らす。
二発目の氷属性の弾丸は濡れた肌を急速に冷やし、瞬時に肌を凍りつかせる。
三発目、火属性の弾丸が凍りついた肌を熱し、一気に氷を溶かしながら砕く。
四発目、風属性の弾丸が風を巻き起こし、火を炎へと変え火力を上げる。冷やされていた皮膚は、急激な温度変化により硬い肌を脆くする。
五発目、最も硬く重い土属性の弾丸が脆くなった肌に、穴を開ける。
六発目、寸分の狂いなく空いた穴に、
六発の弾丸は、一ミリもズレることなく首の付け根に喰らいつき、狂える竜の体に大きな穴を
「グアァァァァ⁈」
「……」
(さあ、泣き叫べ!)
ハルカは露出した黒球に向かって走り跳び、銃のグリップを渾身の力で叩きつけた。その瞬間、
「グギャアァァァァァァァァァッ!」
コアが破壊力されると同時に、カオスドラゴンは天に向かって断末魔を上げ、そのまま横に倒れていく。
カオスドラゴンに巻き込まれないよう、後ろに飛び
混沌の竜によって『ズシン』と揺れる大地……その揺れが治まると同時に目を開いたハルカの前には、親友リンの顔があった。
「……」
(リン……)
「はーちゃ、戻ってきて! もう三分も経っているの、お願い!」
「……」
(三分……ヤバい!)
リンの言葉に、ハルカは頭のスイッチを切る。異常な集中を解き、ゾーンから抜け出る少女……その瞬間、脳は足りない酸素を求め、呼吸を再開する。体は空気を急速に肺へ送ろうとして、ハルカは激しく咳込む。
「ゴホッ! ゴホッ……」
体は酸素を求め続け、ハルカは荒い息を吐きながら苦しみの表情を浮かべる。ゾーンに至った代償なのか、体から力が抜け、まともに動けなくなっていた。
リンは横たわるハルカの頭を抱きかかえ、顔を覗き込むと――
「はーちゃんのばか!」
――真剣な眼差しでリンは怒り、ハルカの心をえぐる。
「ゴホッ、リ、リン……」
「わたしと約束したよね。アレは使わないって⁈」
「リンを泣かしたアイツを見たら、ついカッとなって……ゴホッ」
「……」
ハルカの答えにリンは無言で答える。その瞳に再び涙が浮かんでいた。
「約束を破って、ごめん」
自分を思って怒ってくたことに、ハルカは反省し素直に謝まる。その言葉にリンの目は、いつもの優しげな眼差しへと変わる。
「体は大丈夫なの?」
「力が入らない。VR世界のはずなのになんでかな? いくらリアルが売りだからって、現実世界と体の状態がリンクするなんてありえないわね……」
「はーちゃん、ログアウトして」
リンは顔を青くしながら、ハルカにログアウトを促すのだが……。
「まだ大丈夫よ」
「大丈夫じゃないよ。ゲームの中なのに、体が動かないなんて変だよ。早くログアウトして!」
「ダメ……いま私がログアウトしたら、クエストは強制終了しちゃう。せめてアイツを倒してコタロウの仇を討たなきゃ。クエストはどうなっているの?」
「待って」
ハルカの言葉にイヤな予感を覚えたリンは、急ぎクエストの詳細を表示する。
◆【強制クエスト】継続中……
レベル80
初心者の洞窟に現れた混沌の竜を退治せよ!
報酬 50万ゴル
必要討伐数 1匹
期限 あり
発生条件
【機獣召喚】スキル所持者がパーティー内にいること
発生条件を満たすと、強制的にクエストは開始される
プレイヤーはクエスト中、以下の制限を受けます
・ショックアブソーバーの強制オフ
・クエストのキャンセルは不可
・プレイヤーによる任意のログアウトは不可
・ゲームを強制終了した場合、クエストは失敗と判定される
・このクエストで召喚獣のHPがゼロになる。もしくはクエストに失敗した場合、召喚中の召喚獣データは消去され、以後は召喚できなくなる
「はーちゃん、クエストが……」
「グゥゥゥッ」
リンの言葉を裏付けるかのように、ピクリともしなかったカオスドラゴンは唸り声を上げる。ハルカによって破壊された黒球は、まるでTVレコーダーの録画番組を早戻しするかのように再生し、傷口を瞬く間に塞いでいく。
そして何事もなかったかのように、カオスはノソリと立ち上がり――
「グォォォォ!」
――雄叫びを上げた。
「どうして⁈」
「や、やっぱりクエストが終わらない限り、アイツは何度でも蘇るのかも……倒した回数? それとも倒し方なの? イッタァ……」
ハルカは必死にクエストクリアーの方法を考えようとすると、頭の中に痛みが走る。脳がオーバーヒート起こし、耐え難い苦痛がハルカを襲う。
「クッ、ダメだ。頭の中をハンマーで殴られてるみたい、うまく集中できない」
「どうすればいいの⁈」
まともに動けないハルカと、打開策のないリンに、無情にもカオスドラゴンは気づき動き出した。
「グゥゥゥ」
低い唸り声を上げ体内の息を一気に吐き出すと、大きく息を吸い込みだした。胸を膨らませ、体を覆うウロコの輪郭が一斉に赤く光り出す。
「まずい、ブレスがくる」
ハルカの声と同時に、口から炎が噴き出しリンとハルカに向かって解き放たれる。リンはとっさにハルカの頭を胸に抱き、ブレスから守ろうとするが――
「クマー!」
――突如、倒れ伏していたクマ吉が立ち上がった。
「クマ吉⁈」
クマ吉は変形スキルを使い一瞬で冷蔵庫モードになると、お腹の扉を開け、抱き合う二人に覆いかぶさる。ひんやりとした空気をリンが感じると、強火のバーナーで何かを熱するような嫌な音がリンの耳に聞こえた。
「だめ! クマ吉逃げて、HPがもうないんだよ」
「くま〜」
リンの叫び……だが、クマ吉は心配を掛けまいと、いつも通りの声で、『大丈夫〜』と返事をする。リンとハルカの視界に映るパーティークマ吉のHPが少しずつ減っていく。
カオスドラゴンと同じ火属性のため、クマ吉の装甲は灼熱のブレスにかろうじて耐えていた。しかしいくら同属性だとしても、完全にはダメージを無効化できず、HPはジリジリと下がっていく。
ハルカ HP 270/270
リン HP 125/125
クマ吉 HP 980/30
三秒ごとに一ダメージを受け、このままでは一分と持たない。しかし体がマトモに動かないハルカと、仲間のサポートなしで戦えないリンには、もうどうすることもできない。
「くっ、ブレスの切れるのが先か、クマ吉のHPが0になるのが先か……クマ吉、なんとか耐えて」
「そんな、クマ吉……絶対に死んじゃダメだよ!」
「クマ!」
下がり続けるHP、そして残りHPが十を切った時、死のカウントダウンがはじまった。
このままブレスを受け続ければ、遠からずコタロウと同じように、クマ吉は光の粒子に姿を変え死んでしまう。その上、盾となるクマ吉がいなくなれば、リンとハルカはブレスに焼かれ死んでしまうのは明白だった。
なにか手を打ちたくても、リンには何もできない。ただ待つことしかできない自分に、リンは憤りを感じた。
やがて……HPが残り三を切ったとき、不意にバーナーで熱するような音が聞こえなくなり、残りHP二で止まる。
「はーちゃん、ブレスが止まった⁈」
「ギリギリだわ」
ハルカ HP 270/270
リン HP 125/125
クマ吉 HP 980/2
辛くも最悪な窮地を脱したリンたち……状況は悪いが、生き残ったことに安堵した次の瞬間だった。
『ガン!』という大きな音が鳴り、横から大きな力が加わる。
「きゃあぁぁぁ」
リンたちは不意に襲った衝撃にあらがえず、壁に体を打ちつけながらゴロゴロと転がり、二人はクマ吉の中から放り出された。
「はーちゃん!」
体の動かせないハルカを、リンは力いっぱい抱きしめながら、地面に激突する。体中に痛みを走らせながら大地を転がる。少女は顔を苦痛で歪ませながらも、ハルカを抱く手は決して離さない。
やがて転がる勢いは衰え、ハルカに覆いかぶさる格好で、ふたりは動きを止める。二人の全身は傷だらけで、VRゲームだというのに、所々で血がにじみ、青いアザができていた。
「い、痛い……あ、はーちゃん、クマ吉、大丈夫⁈」
何度も体を打ちつけ、体中から発せられるリアルな痛み……だが、リンは自分の痛みより、ハルカとクマ吉を心配する。
「グマ〜」
冷蔵庫モードから、元のクマモードに戻ったクマ吉は、目を回しながらなんとか無事だと声を出す。
「私も、なんとか……クマ吉も生きているみたいね」
ハルカ HP 270/185
リン HP 125/100
クマ吉 HP 980/1
ハルカは視界の端に映るパーティーステータスに目をやると、クマ吉はギリギリの所で生き延びていた。
「それにしても、この痛み……ショックアブソーバーはどうなっているの⁈」
「たしかそれ、強制オフになるって、クエスト条件に……」
その言葉を聞いたハルカの顔は険しくなる。
「ショックアブソーバーが強制オフ⁈ そんなのあり得ない! それにどんなゲームだろうと、ゲーム機『ウィッド』の仕様では、痛みは平手で叩かれた程度までしか再現されないはずなのに」
ハルカは明らかに、平手打ち以上の痛みに訝しむと、『ズシン』となにか重いものが歩く振動を感じる。
振動の発信源へ顔を向けたリンたちの目に、ゆっくりと歩くカオスドラゴン姿が映り、その顔は勝ち誇ったかのように下卑た笑みを浮かべていた。
ゆっくりとリンたちに見せつけるかのように、動けないクマ吉の前にまで歩くと……地に伏したクマ吉を踏み殺そうと、右の前足をゆっくりとあげる。
「く、ま〜」
「クマ吉、逃げなさい!」
リンとハルカの耳に、クマ吉の弱々しい声が届く。動けないハルカは、ただ『逃げろ』と声を上げることしかできなかった。その声を聞いてカオスドラゴンは愉快そうに笑う……それはとても悪辣な笑みだった。
「ギャッ♪ ギャッ♪ ギャッ♪」
他の命をなんとも思わない、人が苦しむ姿を楽しむ邪悪な笑い声が広間に響き渡る。
「ダメ……」
リンの声に狂竜はニタリと笑い、ゆっくりと右足を上げ、死への恐怖を
「く、ま〜」
クマ吉は、目のカメラを青白く点滅させていた。それは『助けて』と弱々しく訴えているようだった。
「やめ……くぅっ、体が動かない」
ハルカは必死に起き上がろうとするが、体はいうことを聞かない。まだ回復しきっていないのか立ち上がれない。
そしてカオスドラゴンは、クマ吉にトドメを刺そうと、勢いよく足を踏み下ろした。
「クマー」
「やめてー!」
リンが涙を流しながら叫ぶと、カオスドラゴンの足はクマ吉を踏み殺さず、何もない横の地面に踏み下ろされていた。
「グォォォォ♪」
リンの悲痛な声と涙を見て、混沌の竜は愉悦に満ちた声を上げる。
「こいつ、AIのクセに、私たちの反応を楽しんでいる⁈」
ハルカが信じられないとばかりに驚きの声をあげる。
「ギャッ♪ ギャッ♪ ギャッ♪」
カオスドラゴンは、リンとハルカの反応を楽しみ、満遍の笑みを浮かべていた。
「なにが……」
不意にハルカの耳に、今まで聞いたことのない、荒々しいリンの声が届く。
「なにが……そんなに楽しいの⁈」
カオスドラゴンの醜悪な姿を見たリンの心で、なにかが弾けた。
「リン?」
今まで感じたことのない感情が、リンの心の中で吹き荒れる。目を吊り上げた少女は、素早く立ち上がりクマ吉の元へ駆け出していた。
普段の少女からは、想像もできないスピードで立ち上がり走る姿を見たハルカは――
「ダメ、スピードを落として!」
――叫ぶように声を荒げるが、リンの耳には入らない。腰に差した短剣をスラリと抜き、クマ吉の前に辿り着いた少女は、『アッ!』と声を出し……盛大にコケた!
リンは顔から大地にダイブし、痛みが鼻の中を抜けていく。
「あいたた……」
「ギャッ♪」
鼻をさすりながらリンはゆっくりと立ち上がると、クマ吉の前に壁となって立ち塞がった。
手にした短剣を自分に向けヘッピリ越しで構える少女を見て、カオスドラゴンは再び笑みをこぼす。なにもできやしないのに、ただ殺されるために、その身を投げ出す馬鹿がいると笑っていた。
「なにがそんなに楽しいの?」
「グギャ♪」
構えも何もあったものじゃない。ただ短剣を持って、前に突きだしているだけの少女の口から、凛とした声がカオスドラゴンに語りかける。
カオスドラゴンはヘッピリ腰のリンを見て、ニタニタと笑っていた。
「なにがそんなに、おもしろいの?」
「グギャッ♪」
カオスドラゴンは、ただ目の前も立つ少女の行動が、滑稽で仕方なかった。
「なにがそんなに、
「グォォ♪」
弱者を虐げる快感に酔いしれ、強者であるカオスドラゴンは邪悪な笑みを浮かべていた。
「答えて!」
「グォォォ!」
カオスドラゴンはリンの言葉に『わからないなら教えてやる!』と、再び雄叫びを上げる。だが、リンは怯まない。いや……止めどもなく湧き上がる怒りが恐怖をふき飛ばし、怯む時間を与えない。心の中に、行き場のない怒りが渦巻きはじめる。
「あなたのやっていることは最低だよ!」
「グルゥ」
「あなたは、ただ弱い者いじめをしているだけじゃない。それのどこがおもしろいの⁈」
「グァァ!」
リンが強い口調で問い詰めると、苛立ったカオスドラゴンは腕を振り上げ、リンを殺そうと殴り掛かる。だが……。
「答えなさい!」
その瞬間、リンの心の中で渦巻く膨大な怒りが連鎖反応を起こし、感情を爆発させる。身体の中から噴き上がる怒りを、リンはカオスドラゴンに叩きつけた。
「グァァァァァッ⁈」
しかし、狂竜の振り下ろした腕はリンに当たらず、その横のなにもない地面を叩きつけてしまう。
先ほどのクマ吉とは違い、今度は本気で当てようとしていた。にもかかわらず、攻撃は逸れてしまったのだ。
「グア⁈」
あり得ない現象に、混沌の竜は首をかしげながらリンを見た瞬間ーー身体が無意識のうちに
「グオォォォォォ!」
強者である自分が、弱者に対して感じることなどない感情……すなわち恐怖がカオスドラゴンの中で芽生えていた。
心に沸き上がる恐怖を振り払うかのごとく、虚勢の声を上げるがリンは怯まない。それどころか、強い意志を宿した瞳で睨み返す。
その姿を見たカオスドラゴンの足は、恐怖でさらに
https://kakuyomu.jp/users/mazohiro/news/16817139558210941069
……To be continued『ライドオン! 前編』
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