第6話 レアとユニークアイテム

「はーちゃんが無事でよかった〜」


「リン、心配してくれてありがとう♪」


「もう本当に心配したんだからね」


「ごめん、ごめん! リンとゲームできると思ったら嬉しくてさ、早くやりたかったのに、変な奴らがリンに絡んでいたから……ついサクッとね♪」



 広場の中は騒然となっていた。



「オイオイ、マジかよ……容赦ねえな」


「ついサクッとで、アソコを容赦なく撃ち抜きやがった!」


「アソコの痛みは男にしか分からん……」


「アイツら普段から、狩場の横入りやMPKでマナーも悪かったからな……いい気味だ!」


「鬼かあの女……容赦なく破壊しやがった……人間じゃねえ!」


「アイツらいつもナンパして来てウザかったから、スカッとしたわ!」


「ナンパするなら現実でしろっての!」



 リンの耳に周りの野次馬達から、思々おもいおもいに声が上がり続けていた。

 男性陣と女性陣で意見は分かれるが、概ねチャラ男二人を倒した事は問題なさそうだった。

 まあ問題と言えば……男性陣がハルカの股間ショットに、少し恐怖を感じたくらいである。


 広場にいるプレイヤー達は全員ハルカの事で持ちきりとなり、話し声が途絶える気配はなかった。


 チラチラとハルカを見るプレイヤー達……そんな視線にリンが気付き、居心地が悪そうにしているのをハルカは気にした。



「リン、取り敢えず、場所を変えよっか?」


「そうだね……あっ! あの地面のアイテムどうするの?」



 全裸でデット状態のチャラ男の二人……その周りには装備していた武器と防具が強制解除され、地面に転がっていた。


 神器オンラインでは、プレイヤーには、倒した敵が落とすアイテムの取得権が発生する。

 最も倒すのに貢献した者に1分間の優先取得権が発生し、この取得権がある者以外、アイテムを拾うことは出来ない。

 優先取得権が失効すると、どのプレイヤーでも獲得権利が発生し誰でも取得が可能になっていた。



「う〜ん、なんかあの二人のアイテムを装備する気が起きないし……放っておこうかな」


「うん、そうだね。なんかこんなので、アイテムを手に入れても嬉しくないもんね」


「うんうん! サッ、早く遊ぼう! 時間が勿体無いしさ」


「うん! 行こうはーちゃん」



 二人はドロップアイテムを無視して、スタスタと広場を後に歩いて行ってしまった。



「え? ドロップアイテムを放棄するのか?」


「お! じゃあ俺が」


「いや、俺様が!」



 残されたチャラ男達のドロップアイテム……この後、低レベルプレイヤー達の壮絶な取得合戦が起こった事は言うまでもなかった。

 



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ふ〜、はーちゃんそれにしても凄いねこのゲーム! リアル過ぎて、まるで本当に異世界にいるみたいでビックリだよ」


「でしょう! 最近のVRMMOはリアル志向で作り込みが重要だからね。現実世界以上にリアル過ぎて、どっちが本当の世界か分からなくなる人もいるみたいよ」


「うん。広場の噴水も凄かった〜」


「でもこのゲーム、死んじゃうと裸になるのはちょっと……」


「あ〜、あれは特別な場合なだけだから安心してリン。普段はアイテムをドロップしないから裸にはならないよ」


「そっか! よかった〜、男の人に裸を見られるのは抵抗があったから……このゲームをやる女性の人は、裸を見られて平気な人ばかりなのかと心配したよ」


「いや、リン、女性ならみんな抵抗があるからね……私も当然あるからね!」


「え〜、はーちゃん、なんの躊躇もなく、あの人達と戦っていたでしょう? だから他のゲームで負けて、裸になるのに慣れているからかもって思って……」


「いやいやいや! それどんな痴女よ! 酷いリン! 私をそんな風に思っていたなんて、よよよ……」



 ハルカがリンの痴女疑惑に、泣く仕草で戯ける。



「はーちゃんが痴女じゃなくて良かった〜。『お宅の娘さんが、ゲームの中でいかがわしい事をしてますぞ〜!』て、おばさんに言わなきゃいけないかと思ったよ」

 

「まあアイテムドロップで裸にはなるけど、下着だけは脱げない設定だから安心して」


「このゲーム下着まであるの?」


「あるよ〜、可愛い物からカッコいい物までいっぱいね」


「待ってはーちゃん……下着があるという事は?」


「当然、服もたくさんあるからね♪ この神器オンラインに女性プレイヤーが多い理由の一つがこれなのよ」


「ふぁ〜、これだけリアルだと服のデザインも期待出来そう! 楽しみ♪」


「でもリンには、服以上に耳寄りな情報があるわ」


「え! なになに?」


「リアル志向が売りの神器オンラインは、特に味覚と嗅覚に力を入れているから、食べ物の味もバッチリ味わえるんだって!」


「それって……まさか!」



 その言葉に狼狽えるリン。



「フッフッフッ、リン君! 気が付いたようだね」



 某名探偵みたいに得意げなハルカ。



「はい! はーちゃん先生! つまりいくら食べても……」



 ゴクリと唾を飲むリン!

 


「その通りだよ! リン君! いくら美味しい物を食べても太らないのだよ!」

 

「やったー! 塩分を気にせず好きなだけタクアンが食べられる!」


「そう! 好きなだけタクアンがって……リ、リン、本当にタクアン好きだね……」



 ハルカは忘れていた。自分が甘い物に目がないのと同じくらい、リンがタクアンに目がない事を……。



「うん!大好き! 最近はお母さんに塩分の取り過ぎだって控えられちゃって……タクアンって甘いのにね。この前なんて、お父さんのお酒のおつまみをコッソリ食べたら怒られたよ」



 子供の頃からお婆ちゃん子だったリンは、オヤツにいつも出されていたタクアンを、毎日ポリポリ食べていた。


 ポリポリポリポリ食べ続ける内に、ハルカも食べ過ぎと突っ込みを入れ、止めなければならないぐらいタクアン好きな女の子になっていた。


 今では自宅のベランダで、自家製タクアンを干して食べる程のレベルである。


 糖分を摂り過ぎて体重にを悩む女子高生と、塩分を摂りすぎて高血圧に悩む女子高生、どちらがいいのか……ハルカには答えを出せなかった。



「リン、ゲームの中に、タクアンがあるといいね……」


「うん! あとで探して見るよ」



 キラキラしたリンの目を見たハルカは、ゲームの中くらい、タクアンを満足するまで食べさせてあげようと誓うのだった。



「それにしても、はーちゃんの武器凄かったね?」


「でしょう? チュートリアルで出現するマッドラビットッてイベントモンスターを、初見で倒すと激レアなアイテムを落とすかもって情報をネットでゲットして、頑張ってみました」



 するとハルカが腰のホルダーからデザートイーグルを抜きリンに見せる。



「ふあ〜、本当に銃なんだね」


「いや〜、私も色んなゲームしてるけど、ここまでリアルな銃は見た事ないかな〜、重さもリアルだから私でも扱える様に、STRにステータスポイントを振っちゃった」



 リンにとても扱えそうにない銃を、片手でクルクル回してホルスターに戻すハルカ。



「ランダムセレクトでガンナーッてレアな職業が当たってね。多分マッドラビットッてチュートリアルのイベントモンスターを倒すと、職業に沿ったユニークアイテムが貰えるみたいなの」


「へ〜、凄いな〜、流石はーちゃん! よっ! このゲーマー女子高生!」


「リンよ、もっと褒めるが良い♪」


「でもいいな〜、私もチュートリアルでモンスターを倒したけどアイテム貰えなかったよ〜」



 その言葉にハルカがリンに詰め寄る!



「え? リ、リン? 倒したのマッドラビットを⁈」


「え? ん〜、名前は分からないけど、ウサギ擬きなら倒したよ? お腹が口になってる可愛くない子」


「リン、そ、それマッドラビットだよ! アイテムBOXを開いて見て」


「う、うん。メニューにあるアイテムを押せばいいの?」


「そう。マッドラビットはドロップじゃなくて、アイテム欄に直接配布されるの。私もいつの間にかアイテム欄に入っていたから」


「あっ、本当だ。何か入ってる!」



 リンが謎のアイテムをクリックすると、リンの手の中に

アイテムが一つ出現した、



「指輪かな? ん〜、デザインはカッコイイ系? 可愛いのが良かったな〜」



 従魔の指輪

 召喚士専用ユニークアイテム (譲渡不可)

 召喚獣とステータスの共有が可能になる。

 共有するステータスは、召喚獣の中で最も高いステータス値が1つだけ共有される。

 効果は召喚獣が召喚されている間のみ。

 召喚獣にステータス補正効果有り。ステータスALL1.2倍 攻撃補正1.5倍 



「専用ユニークアイテム? 召喚獣のステータスが共有出来るみたい。はーちゃん見たいな武器じゃなかったよ〜、残念……」


「いやいや、リン……ユニークアイテムッて、強力な激レアアイテムだからね! 他のプレイヤーなら、喉から手が出るほど欲しがる物だから、残念がらないでよ」


「そうなの? む〜、譲渡不可って事は、人に渡せないって事だよね? どうしよう……」


「ん? リン、どう言う事?」


「それがね、私……最初のステータス振りで誤って、LUKに全部振っちゃったの。流石にマズイよね? せっかく手に入れたレアなアイテムだけど、諦めてやり直した方が良いかな?」



 ションボリするリンを見てハルカが思案する。



「LUKか〜、さっき召喚獣って言ってたけど、リンは召喚士なの?」


「うん! 職業が多過ぎてどれにして良いか分からなかったから、ランダムセレクトで選んだの」


「確かに沢山あったからね。召喚士はプレイヤーが直接戦わない後衛職だから、STRやDEXは最悪無くても大丈夫かな? INTやVITがないからHPとMPの伸びは悪いけど、レベルUPで最大値が増えない訳じゃないし……しばらく様子見して、ダメそうなら作り直すのがオススメかな?」


「分かった?じゃあ、しばらくこのままで様子見するね」


「うむ、ちゃんと私がサポートするから。大船に乗った気持ちでいるが良い!」


「はは〜っ! はーちゃん様〜!」


「ふっふっふっ! 良きかな良きかな♪」



 リンに頼られてご満悦のハルカ。



「とりあえず、レベル上げの前に冒険者ギルドでクエストを受けよっか? 先立つ物はまずはお金だからね。装備を揃えるにしても、先ずはクエストを受注してレベル上げをしよ〜!」


「おう〜♪」



 意気揚々とギルドに向かって歩き出す二人……だが彼女達はその先に、絵に描いたようなテンプレ展開が待っているとは、思いもしないのであった。

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