第3話 生徒会長の告白

「生徒会室」

 扉には、そう書かれたプレートが、飾ってあった。

 活舌の悪い担任教師を、顎で使い(パシリ扱い)、成績や内申書を『人質』にする様、圧力をかけたのは、間違いない。この部屋の主--生徒会長--だ。

 そこまで出来る、やる人物に、何故ここまでするのかその動機に、些少ながら興味が沸いた。

 さて、『好奇心猫を』と出るか、『退屈は猫を』と出るか、だな。

「どっちにしろ猫は死んでるだろぉっ!」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

「と言う事は、猫を殺すのは、毒ガスではなく、生徒会長か。」

 などと言うブラックJな指摘をする者などこの世界にいない。ブラックジャックに非ず。

「1年B組、多賀宗竜です。」

「入りなさい。」

「失礼します。」

 鍵の掛かっていない扉を開け、入室した。

 室内には、生徒会長1人だ。僕が入室しても2人きり。

「掛けなさい。」

「失礼。」

 僕が、着席した所で、生徒会長は、口を開いた。

「生徒会長、姉小路です。多賀宗竜君、時間を割いてくれて、ありがとうございます。」

 着席したまま、礼をする生徒会長だった。

「実は、今日は折り入って、君にお願いがあります。」

 ここで、生徒会長は「にこり」と微笑む。

「私と交際して下さい。勿論、恋人同士としてですよ。」

 生徒会長は、アーリア人との混血らしい小顔の八頭身人形、と言う愛らしい貌で微笑んだ。

「でも、周囲に誤解されかもしれないわ。それでは、あなたに迷惑がかかるでしょう。そこで、大義名分と仕事を与えるわ。あなたは、新設部署の室長になるのよ。」

 ここで、生徒会長は、iPadを取り出した。そこには……

 『イジメ対策室』

 と表示されていた。

「これからは、隠蔽体質の学校や、教師に代わって、生徒がイジメを取り締まるのよ。あなたは、『イジメ対策室』の初代室長として、私の下で働くのよ。いい考えでしょう。」

 ここで、生徒会長は、iPadを操作する。

「当面、『イジメ対策室』は、生徒会準備室を間借りする形で、運営します。室長の仕事は、校内に仕掛けた監視カメラの映像チェックと、私への結果報告です。」

 iPadには、以下の様に表示されていた。

 <<監視体制>>

 『イジメ発生』→『校内各地に設置した防犯カメラ』→『イジメ対策室』→『生徒会長』

「後は、然るべき筋への報告と、対処請求ね。まずは、学校。それでも学校が、動かなければ、教育委員会への情報提供となるわ。ここまでで何か、質問あるかしら。」

「生徒会長、1つ確認したい。ここでの会話は、記録されていないし、漏洩する事も無い。」

「…………ええ。」

 生徒会長は、小首を傾げながら、肯定した。

「ですが、何故その様な事を尋ねるのです?」

 生徒会長が、その質問をする前に、先んじて発言する。

「それは、盗聴・盗撮であり、犯罪です。もし、明らかになれば、通報します。では、僕は帰ります。今日の話は、『全て聞かなかった』事にします。失礼。」

「お待ちなさい!?」

 立ち上がりかけた僕に、慌てて言葉を投げかける生徒会長。

「生徒会長、返事なら終わりました。ですから、帰ります。失礼。」

 既に立ち上がった僕は、生徒会長を見下ろす格好だった。

「何故です!?」

「何故? 理由なら、生徒会長が、ご存じです。僕は、それを察したに過ぎない。だから、敢えて説明する必要無し。失礼。」

「何ですか、あからさまに、嫌そうな態度は。言いたい事があるならはっきり言いなさい! いいえ、はっきり言葉を尽くしなさい! それが、コミュニケーションのルールでしょう!」

 僕は、わざとらしくならない様、ため息をついた。

「では、1つ。これ以上、嘘つきと会話するのは、『百害あって一利なし』です。失礼。」

「私の発言の何処に、嘘があったと言うのです!?」

「同じ質問を何度もしないで下さい。同じ答えを返します。それなら、生徒会長が、ご存じです。僕は、それを察したに過ぎない。だから、敢えて説明する必要無し。失礼。」

 ここで、机を叩く生徒会長。

「待ちなさい! この人殺しぃっ!」

 その一言は、扉へ向かいかけた宗竜の、歩みを止めさせた。

「生徒会長、それは名誉棄損です。発言には……。」

 だが、僕の発言は、途中で遮られた。

「説明します。座りなさい。」

「……生徒会長、話しは、聞かせてもらいます。但し、座りません。このまま続けて下さい。」

「いいでしょう。実は……。」

 生徒会長の口から放たれた言葉は、衝撃だった。

 例えるのも、愚かしいが、耐衝撃閃光防御が欲しくなる程だった。

「おいっ! 生徒会長は、某宇宙戦艦主砲かよぉっ!」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

「今日の発言で、最も現実味の無い話に、最も真実味があるとは……『事実は小説より奇なり』ですか。」

 ここで僕は、A4メモ用紙と、ボールペンを取り出す。そして『ある』お願いをした。

「まだ、信じられませんか。」

「兎に角、書いて欲しい。」

「はい……。」

 書き終わった紙を一瞥してから、クリアファイルに収めて、鞄にしまう。

「生徒会長、明日、返事をします。」

 こうして、ようやく家路へと向かう事が出来たのだった。長い1日だった。だが、まだまだ忙しい。


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