第23話 <皇女と皇妃!>

 アドミオン帝国最大の町である、帝都フェルディア!

 国の中心というだけあってめちゃくちゃ広いし、見所もたくさん! あと景観がすっごく綺麗なのが特徴的ね。

 中心にでっかくお城があって、その周りに貴族街が広がっている。で、そこから外側を市場だとか学校だとか普通の人の家があって賑やか。自然溢れる公園なんかもいくつかある。

 帝都の全域に張り巡らされた運河。日々多くの小舟が人や品物を乗せて行き来しているとか。小さいときに乗ったことはあるけど、また乗りたいわね。

 町の道路は舗装されているからすごく歩きやすい。しかも汚物やゴミが落ちていなくて清潔だから心も清らかになるような気がする。

 さて、そんな帝都を私はイリヤを連れて歩いているわけです。まぁ、特にどこへ行こうなんて決めていないんだけどね。

 とりあえず学校がある区画へと向かう。屋敷と学校までの道筋と、付近にあるお店とか建物なんかは覚えておきましょうか。

 帝都の西に広がる広大な敷地。そこが国立学校だ。貴族の子どもは入学が義務、平民の子どもは入学自由の学校。

 複数の建物と木が並ぶ。まるで、日本でいうところの大学のキャンパスみたい。


「広いですね」

「うん。迷子になりそう」


 多分、入学してしばらくは教室の位置なんかは分からなくて困るだろうな。早め早めの行動を心がけよう。

 柵の外から学校を眺めてイリヤと話す。と、その時後ろに気配を感じた。


「誰?」


 振り返ると、町娘風の服を着た少女が立っている。でも、私にはこの人が誰なのかすぐに分かった。


「セレイナ殿下。こんなところで何してるんです?」

「あ、バレた? さすがはリリさんね」


 顔を隠す布を取る。

 セレイナの登場に、慌ててイリヤが跪く。でも、セレイナはそれを阻止してイリヤを立たせた。


「そんなことしなくても大丈夫だって」

「ですが……」

「周りに誰もいないんだから。普通に接してくれていいよ」


 一瞬イリヤは迷う素振りを見せるが、私と同じくらいセレイナのことを知っているから曖昧に笑って従うことにしたらしい。

 私も二人のやりとりを見て微笑ましく思うけど、一つ気になることがある。周りに誰もいないって……護衛は?


「ねぇ。セレイナの護衛はどこに?」

「そんなのいないけど? 黙ってお城を抜け出してきたんだもん」


 ……やりやがったよこの人!

 誕生日パーティーの時に偶然聞いたんだけど、セレイナは時々護衛も連れずにどこからか城を抜け出す時があるって。皇帝陛下が頭抱えてた。

 で、その度に騎士団を総動員して捜索に出るらしい。ご愁傷様。

 んで、この人それをまたやったのか!!


「大丈夫なの!?」

「平気平気。いつものことだから皆慣れてるでしょ」

「いや、慣れちゃダメでしょう……」


 イリヤのツッコミに私も賛成。本当にヤバいときどうするんだか。今度羊飼いの少年の話をしてあげようか。

 でも、そんなこと聞くはずがないから気にしたら負けよ。私とイリヤはセレイナに連れ出されて町へ。

 と、思ったのだけどそうはならなかった。表通りにさしかかると、騎士の方々が陣形を組んでお出迎えしている。


「あ、あれ……?」

「セレイナ殿下。これはきっとバレてますね」

「殿下付いてる! 諦めないで!」


 わーわー騒いでいると、騎士の間をすり抜けて一人の女性が現れる。

 気品と覇気を醸し出す若い女性。その人を見た瞬間、セレイナの動きが固まった。


「ご、ごきげんようお母様……」

「ごきげんようセレイナ。ええこんなところで会うのはおかしいことね」


 ローザ=ギャスティック=アドミオン皇妃。アドミオン帝国の財政を仕切る方で、ある意味この国で一番強くて権力がある方。

 私がお母さんに敵わないように、セレイナもローザ様には敵わないらしい。そういえば、先日パーティーに来た時も陛下がそんなこと言っていたっけ?


「セレイナ? 貴女、リリさんを連れ出してどうしようと?」

「や、やだなぁお母様! ちょっと帝都の案内を……」

「それはいい心がけですね。城から勝手に抜け出さなければ、の話ですが」


 セレイナはもう蛇に睨まれた蛙。一歩も動けずにローザ様に捕まった。


「まったく。……リリさん」

「はい。なんでしょうか?」

「うちの娘がごめんなさい。あと、イリヤさんもね。帝都の観光を楽しんで」


 あっという間にセレイナを連れて行ってしまう。まるで嵐のようなお人だった……。


「じゃ、じゃあ行きましょうか」

「はい、そうですね」


 ちょっとしたハプニングはあったけど、それはそれで面白かった。

 さぁ、帝都を回るぞー!

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