第21話 <帝都への移動!>
持っていく荷物はこれでよしっ。準備ができたから後はお迎えを待つだけだね。
ベッドでのんびりだらけていると、部屋の扉がノックされてお父さんが顔を出した。寝転ぶ私にため息を漏らしている。
「お前……。向こうではそんな風にだらけるんじゃないぞ?」
「大丈夫。家でしかやらないから!」
「――へぇ~? どこでやるって?」
冷たい声が聞こえて思わず小さく飛び上がってしまう。
お父さんの後ろから現れたのはお母さん。すごく綺麗な笑顔だけど、目は全然笑っていない。
「これは、少しお話かしらね?」
「そんな!? お慈悲を!!」
「イリヤちゃんが荷物を纏めるまでで勘弁してあげる。さぁ、そこに正座しなさい!」
「イリヤ? イリヤー!! 荷物の整理終わった!? 終わったよね!?」
「申し訳ありません。ルフレンさんと長く話していて、今から素早く纏めます」
「イリヤーー!!」
非情にもイリヤの目の前で貴族の心構えやら令嬢に相応しい態度やらをみっちり説かれる。でもさぁ、私だってオンオフの切り替えくらいできるんだからそこまで言うことないでしょうに!
チラリと横目でイリヤを見ると、少し肩を震わせているように見えた。もしかして……笑ってる? え、ひどい!
グヌヌと恨めしくイリヤを睨むと、両頬が掴まれた。顔を前に向けられお母さんと視線が合う。
「聞いているのですか?」
「き、聞いています!」
「では、今言ったことをはい復唱」
聞いてないからわかんない。ヤバ……どうしよう。
困って冷や汗を流していると、イリヤが鞄を閉じた。どうやら整理が終わったみたい!
「お待たせしました。準備できましたよ」
「イリヤー!」
「はぁ……。……イリヤちゃん。このおバカの面倒を見るのは大変だと思うけど、よろしくね。あと、しっかり学園生活を楽しむのよ」
「お任せください」
丁寧なお辞儀を見せる。
その後、庭に止めてある馬車に向かった。お母さんが乗ってきたやつで、結構上等なものだね。
使われている馬も、ジークコーンっていう名馬ね。東部に領土を持つ公爵家が飼育を管理していて、辺境伯以上の家が使うことを許されている。
他の貴族が使っている馬とは段違いの速度を出すことができるのが特徴。ここから帝都まで普通の馬だと五日くらいはかかるけど、ジークコーンなら二日あれば到着するわ。
それに、このジークコーンって戦闘もできるのがすごいところなのよね。ちょっとした風魔法程度なら使うことができるから、そこら辺の雑魚なら問題なく蹴散らしてくれる。
荷物を載せて御者さんに挨拶する。そうして私とイリヤも乗り込んだ。
お父さんたちが見送りに出てきてくれる。
「静かになるなぁ」
「リリ様。イリヤのことよろしく頼みます」
「リリ。イリヤちゃんに迷惑かけないように」
「お嬢様! こちらをお持ちください」
ルフレンさんがクッキーの入った小包をくれた。二日はティータイムができないから、これは非常にありがたい。
と、よく見ると近くの村の人たちも見送りに来てくれていた。これはすっごく嬉しい!
「リリ様がいなくなると、しばらく寂しくなりますなぁ」
「静かが一番ですよ。今までうちの娘が本当に申し訳ない」
「謝らんでくだされ領主様。リリ様のおかげでいろいろと助かりましたから」
領民にも愛される令嬢だから、何も心配ないよ。
皆に挨拶して馬車に乗り込む。すぐに動き始めた。
加速までの時間は短い。さっすがジークコーン! それに、御者さんも相当な腕前だからか馬も苦労なく走ることができそうだ。
イリヤの肩を貸してもらってゆったりと帝都へと向かう。と、ここで大事なことを忘れてた! しまった!
「あっ! リリス置いてきちゃった!」
「えっ!? 本当ですか!?」
しまった!! 今から引き返すのは無理だし……どうしよう……!
慌てていると、馬車の天井に何かが当たる音がした。木の枝とかじゃなくて、ノックするみたいな。
「失礼、お嬢様」
うわっ、びっくりした。御者さんが話しかけてくれるとは思わなくてつい……。
「その、リリスというのは猫のことでしょうか?」
「え? あ、うん。そうだよ」
「でしたらご安心を。馬車の上でくつろいでいらっしゃいます」
「はへ?」
ジークコーンの馬車から身を乗り出すのは危険すぎるから、遠見の魔法で天井を確認する。
そこには、呑気にあくびを漏らして丸くなるリリスの姿があった。よかった。置いてきちゃったわけじゃなくて……。
「いや、危なすぎない!?」
振り落とされたら大変だ。どうにかしなくては。
「リリス聞こえるー? 馬車の中に入ってこれるかな?」
そう言ってみると、次の瞬間にはイリヤの膝の上にリリスが現れていた。転移魔法を使ったのね。それ、普通の人でも使うの難しいのに。
イリヤがにこやかにリリスを撫でている。くぅ……! 羨ましい!
まぁ、そんなこんなで私たちは帝都への道を進んでいく。
そして二日後。
なだらかな丘を越えると、荘厳な城壁が見えてくる。
あれが帝都。私たちがしばらく過ごすことになる町だ。
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