ハンバーグの中身

tori tori

第1話 男

記憶というものは、実に曖昧なものである。


其れとは逆に、記録というものは確かなものである。


記憶という不確かなものを記録している記憶修理人という不確かな存在と、記憶を消された男の話。



夜の闇が訪れる。

暗い空に浮かぶものは何一つない。

寒々しい通りにぽつりぽつりと立っている街灯の灯りが、頼りなく辺りを照らしていた。

家も、店も灯りが消え、町中が寝静まった頃、とある一軒の小さなレストランにはまだ灯りがともっていた。


レストランの中には男以外、誰も居ない。

静まり返った店内の厨房から、男が玉葱を刻んでいる音だけが響いている。

ほんの数時間前までは、店内は客で溢れ、騒がしかったというのに、今は男の心音が聞こえてきそうな程、しんとしている。

男は玉葱を刻む手を止め、床に置いて有るシーツに包まれた其れに目線を落とす。

シーツの上からではあったが、其れの美しい曲線が妙に生々しかった。

「雨・・・」

雨音は少しずつ激しさを増していく。

男の頬につたう涙。

きっと玉葱のせいなのだろうと男は思った。


白いシーツの中の其れは、確かにほんの数時間前までは、男と話をしていた。

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