第13話 水の都でボートレース

いつの時代、どこの世界でも若者は愚かだ。

無知なくせに血の気だけは多く。自分は何でもできると信じている。


「何だ?お前びびって声も出ないのか?」

相変わらず、鼻ピアスの男はキースの胸倉を掴んで凄んでいた。

キースの強さを知っている私とシエルは鼻ピアスの男に同情の眼差しを送っていた。


1000以上の島が存在すると言われているマルタイには各々その島を守護する戦士の家系というものが存在する。キースは私達の故郷【ア・サブリデン・ヴェンタス・アインシュラ】を守護する一族、レギンレイヴ家の三男である。


島のほとんどの者が一人前の漁師になるための竿を中、キース・レギンレイヴは幼少のころから戦士になるために剣を振ってきたのである。


だから下町のチンピラ如きがキースに勝てるわけがないのだ。

私はキースではなく、鼻ピアスの男の心配をしなければならなかった。

キースが怒りに任せて愚かなことをしないように導いてやらなければならなかった。

前世の経験がある分、大人な判断ができる私が愚かな若者の喧嘩を止めるはずだった……

少なくとも、この時私はそう思っていた。


鼻ピアスの男の連れの金髪の男が私の船の船首を飾るマーメイドを指さして、

「てかそのマーメイド、ババァじゃねぇ?」と言うまでは。


覚えているだろうか?そのマーメイドは父が母に似せて彫ったマーメイドの彫刻であるというこを?


間接的にではあるが、母を馬鹿にされた私は切れた。


「誰の母親がババァだ。コラー」

気付けば私は金髪の男に飛び掛かっていた。

そこから先のことを私はあまり覚えていないが、キースがしきりに私に、

「お前の母さんはババァじゃねぇよ。」と言っていたのは耳に残っていた。


「覚えてろよ。これで終わりじゃねぇからな。お前ら。」悪者お決まりのセリフを吐いてチンピラ三人は去っていく。


全く、前世の記憶があろうとなかろうと若者は愚かである。

きっと人は何度生まれ変わっても、青春時代は馬鹿をやってしまう生き物なのだ。


そして青春時代の馬鹿には代償がつきものである。

次の日の朝起きて私達が船着き場に行くと私達の船は壊されていた。


船首のマーメイドが切り落とされ、竜骨を斧で割られた無残な船を前にして、

「クッソ。あいつら。」と言うキースの声は怒りで震えていた。


誰がどう考えても犯人は明らかに昨日の三人組だった。


「どうしよう?船がないと私達、大陸にはいけないわ。」

シエルが今にも泣きだしそうな声で言う。


船を壊されたこともショックだったが、私は私の愚かな行動に仲間を巻き込んでしまったことを悔いていた。


シエルが入学先に決めていた魔導士の学校の入学試験は2か月後である。

今から新しい船を造るにしろ買うにしろ、資金的にも時間的にも厳しかった。


私達が船着き場の前で途方に暮れていると、船着き場の管理人のフレッドさんが街の方から歩いてきた。

フレッドさんが私達の船を見ると目を丸くして、「何があったんだ?」と尋ねる。

私達は昨日の出来事をフレッドさんに話した。


「まったく、またあいつらか、すまんのう。あの悪ガキ共にはわしらも手を焼いていてのう。」

どうやら、昨日のチンピラをフレッドさんは知っているようだった。


「フレッドさんが謝ることではないですよ。」

私が申し訳なさそうにしているフレッドさんに言う。


「じゃが、お前さん達はこの船で大陸にいくつもりじゃったのだろう?」


「ええ。まぁ……」


「ベラルーシから大陸まで行く客船はあるにはあるが、運賃が高い。お前さんたちはうちの宿に泊まるくらいじゃからのう……そんな金はないじゃろう。」


フレッドさんはそう言って腕を組んでしばらく考え込む。


「おお、そうじゃ。お前さん達これに出てみるか?」

そう言ってフレッドさんはポケットからクシャクシャになった紙を取り出して、私に手渡す。


そこにはこう書かれていた


【ベラルーシ・ボートレース大会のお知らせ】

今年もこの季節がやってきた。

ベラルーシが誇る美しい水路の上で白熱するボートレース


参加資格なし


優勝賞品 マリーン社提供の最新式魔道具付きボート +1000ゴールド贈呈


「ボートレースですか?」私は呆気にとられた声で言う。


「そうじゃ。ベラルーシではボートがないと不便じゃ、だからボートをあげることはできんが、貸すことならできる。わしのボートでこの大会に出てみんか?」


フレッドさんは不敵な笑みを浮かべて私達を見据えていた。















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