ソウルトメアー始まりの話ー
蓮草 悠さ
第0章:騙る者
−ベッドで眠り、夢を見ると徐々に狂いやがて死に至る−
精神が削られた人間は目を見開いたまま死んだように動かなくなるか、発狂しながら自殺することが多く、悪魔の仕業だという声もあって、初代女王が亡くなった後、ルフニアにはたくさんの教会が建てられた。今でも素晴らしい明日を迎えられるようにと人々は神に祈る日々を送っている。
状況が変わったのは少し前のことだった。ある日荒廃していたルフニアに聖協会と名乗る組織がやってきたのだ。組織は
そのおかげで精神悪夢によって苦しむ人々が少なくなってきたのだが、聖協会曰く、精神悪夢は現象ではなく人の絶望を糧にしている一種の魔物で、人の心に闇がある限り存在がなくなることはない。……らしい。自我を失った人間の、闇に染まりきった魂を悪魔や別の魔物が奪うことで人間は死に向かって行ってしまうのだと言う。
初めは聖協会の話を信じられなかった宰相や女王だったが、目の前で精神悪夢を出してみせるとその存在を認め、ソウルナイトメアという魔物の存在を国中に公表した。その存在が世界で認められたのはこれがきっかけだと言ってもいいだろう。
呼び名は皆が認知している「ソウルトメア」として再び固定し、『死を招く悪夢は魔物の仕業である』という事実が世間に広まったことで、人々は最初より睡眠の恐怖に怯えることはなくなった。
・・・
聖協会で精神悪夢本体を取り出せるのは責任者のアレン・ベイカーだけだった。他の職員たちは精神の治療や診察、保護した子供たちの世話をメインに働いているため、ソウルトメアと唯一対峙できるアレンは毎日が大忙しだった。どんなに軽い症状でも放っておけばいつ重症化するかわからない。それがソウルトメアという”魔物”の怖いところだった。
この日も精神悪夢に侵された少女を見て欲しいと相談があり、治療を始めていたのだが、そこでアレンは妙な違和感を感じたのだった。
ジェシー・カペラ:5歳 女の子。三ヶ月ほど前から悪夢に魘されるようになり、無意識の内に髪の毛を抜く、知らない傷が増える、夢遊症などの行為が目立つようになる。母親キムから毎日助けを求める頼りが来ていたが、忙しくて時間が取れなかったことをアレンは申し訳なく感じていた。
アレンは早速ジェシーを診察しようとジェシーをベッドに寝かせた。診察室にはリラックスを目的に和国から取り寄せたお香が炊いてあり、ジェシーもウトウトし始める。治療はソウルトメアに取り憑かれている患者が眠っていないと始めることができない。夢を共有しアレンの魂を患者の中に送り込まなければ、ソウルトメア本体を見つけ出すことができないのだ。しかし異変に気付いたのは夢の共有を開始してすぐのことだった。
「三ヶ月前から兆候があったとのことですが、お嬢さんの魂はあまり穢れていません。ソウルトメアもいないです」
「ほんとうですか!」
「普通三ヶ月もソウルトメアに取り憑かれていれば魂は穢れるんです。なにか……お嬢さんの周りでありましたか?」
アレンがそう尋ねるとキムは嬉々として「はい! 協会に行かずとも家で治療しましょう。って小さい男の子の職員さんが払ってくれましたの! あんなに小さい子まで魔物を払えるだなんて、聖協会の皆様には頭が上がりませんわ……」と返したのだ。
「小さい男の子の職員……ですか?」
「なにか、問題がありまして……?」
「いえ……なんでもありません。精神の回復だけ行えばお嬢さんは大丈夫でしょう。またなにかあれば連絡ください」
治療が終わる頃には辺りはすっかり暗くなっていた。アレンは回復したジェシーとキムを聖協会の入り口まで見送ると、そのまま神妙な顔で資料室へ向かった。
資料室には職員の名簿があり、今まで治療を受けた患者のカルテなどが置いてある。アレンは名簿一枚一枚を丁寧に確認するが、やはり男の子の職員など存在していなかった。
(聖協会を騙る者がいるのか……? しかしソウルトメアは確かにいなかった。どうなっているんだ……)
ルフニア王国でソウルトメアと対峙できるのはアレンだけだった筈。それが否定された。ルフニア王国に聖協会以外でソウルトメアと戦える人間がいること、それはソウルトメアが流行るのと同じぐらい重大な問題だった。
アレンは深くため息をつくと責任者代理人兼幼馴染のリィドを呼びつけた。
「珍しい。アレンから俺を呼ぶなんて。急用か?」
「リィド、お前に少し頼みたいことがある。この国に聖協会の名を騙り無断でソウルトメアと対峙している奴がいるらしい。そいつを探し出して欲しいんだ」
「お前以外の救世者がいるっていうのか!?」
「確認したい。だから速やかに見つけてくれ」
アレンはリィドに冷たくそう言うと背を向け次の診察に向かった。リィドはそんなアレンの後ろ姿を見て「了解。救世者様」と言うと街に出る仕度を始めたのだった。
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