第13話 ストレスフル



 午後からの敦盛は、誰から見ても挙動不審だった。

 うーんうーんと唸ったと思えば、瑠璃姫を見て震えそして机に頭を打ち付ける。

 竜胆や円が心配しても上の空、尊敬する恩師の言葉も素通り。

 帰りのホームルームが終わるや否や、彼はダッシュで教室から逃げ去り。


「ちょっと敦盛っ!? 帰るならアタシも――ってもう居ないしっ、もうっ、歩いて帰れって言うのまったく……」


「ふふっ、ごめんなさいね瑠璃ちゃん。ちょっと突っつき過ぎたみたい」


「…………アンタ、敦盛に何を言ったワケ?」


「早乙女君が無自覚だった事を、少しね」


 微笑ましそうに困ったように微笑む奏に、竜胆はジトっとした視線を送り。


「チッ、やっぱ警告でもするべきだったか。だから言ったんだ女狐には気をつけろと」


「ああ、そういえば言ってたね。でも敦盛はガンスルーしてたから無意味じゃない?」


「まったく、敦盛の好きな奴がお前でお前が女だっら俺も素直に応援したんだが」


「残念ながらもしもに過ぎないお話だね、オレは正真正銘の男だからなぁ」


「…………今からでも遅くないんじゃないか? 外国で性転換手術してくるか?」


「それやったら火澄ちゃんが激オコで、敦盛の方を殺そうとするから」


「お前も難儀な女に捕まってるな」


「そう? 確かにオレの女装は火澄の趣味だけど。自分で言うのもアレだけど似合ってるからしてる訳だし」


「ベタ惚れ?」


「うん、婚約者だからって口説いたのオレだし」


 幸せそうな親友の片割れに、竜胆は思わずキメ顔と斜め四十五度で。


「――――俺も、アイツが生きてたらなァ」


「そのちょいちょい悲劇の過去アピール止めてくんない? 例の彼女さんも草葉の陰で迷惑してない?」


「それがな? 遺言で未練がある限り、悲しんでるアピールしろって」


「重ぉいっ!? 何その遺言っ!? ちょっと会ってみたかったよ!?」


「まぁ端的に言えば、……女版敦盛?」


「なんでそんな気になる事を言うのっ!? 敦盛をオレの総力を上げて女装させるよっ!?」


「マジで止めろよフリじゃないぞ円っ!? ちょっと敦盛に重ねて見ちゃう時がまだあるんだからなっ!?」


「………………ごめん、ちょっと引いた。今度敦盛を女装させておくな?」


「謝るな実行するんじゃねぇっ!? 鬼か貴様っ!?」


 男二人の会話を奏は呆れたように、瑠璃姫は悪い顔をして眺め。


「あ、そうだ! どう? これからウチに来ない皆で、まぁウチって言っても敦盛の方なんだけど。晩ご飯も出すわよ敦盛が」


「ですってよ竜胆、樹野君もどうする?」


「敦盛の家? うん行く行く! 今日は火澄ちゃんが来る日じゃないから予定は開いてるぜ!」


「そうだな、アイツのメシは美味いからな。――久々に泊まって徹夜でゲームするか」


 という事で、四人は敦盛の家へ向かったのだが。

 一方で当の本人はと言えば、スーパーでしこたま食材を買って。


(いやいやいや? 無いって、ぜってェ無いって!! 俺がアイツを好き? それも奏さん以上に? あり得ないだろあり得ないんだってッ!!)


 もはや、自分で何を買っているか意識すらしていない。

 本能の赴くまま、大量の食材と共に家へと猛ダッシュ。

 その勢いのまま調理を開始して、――そう彼はストレスを料理を作る事で発散するタイプなのだ。


(そりゃ確かにアイツは綺麗だし体エロいし、外から見れば明るい性格で天才で優良物件だぜ?)


 トントントン、ザクザクジュージューと手際よく。


(でもお互いオネショした数まで知ってるし、お腹がぷにぷにしてるし、なんならアイツの生理とか便秘かどうかまで把握したくないけど把握してる仲だぜ? もはやオカンの領域、そんな恋とか愛とかぜったいねェ!! 百歩譲って父性本能とかそんなんだってッ!!)


 テレビで見たありとあらゆる時短テクを駆使し、常備菜も容赦なく投入。

 明日以降の食材だとか、そもそも本来は食事の用意は二人分でいいとか当然の様に気づかずに。


(何であんな事を言うんだよ奏さんッ!? これじゃあ俺が瑠璃姫の事を気にしてるみたいじゃないかッ!!)


 メインが終われば次はデザートだ、彼はフルーツの缶詰やホットケーキミックス、実は昨日から用意していた作りかけのプリンも流用し。


(――考えるな、アイツの何処が好きかなんて考えるんじゃないッ!! 確かにアイツのおっぱいはヤベェけど! きっと奏でさんの方が大きいしエロい筈だ!! おっぱいを思えッ、大きいおっぱいを考えろッ! おっぱいこそが世界を救うんだッ! その大きさに貴賤は無し!! ビバおっぱいッ!!)


 本人に言えば否定するだろうが、年頃の高校生としては平均よりおっぱい好きで欲望に素直。

 その情熱が、料理に加わって。


(燃えろ俺の料理魂ッ!! ちょっと作り過ぎちゃったが、何か変なの作っちゃったが、どーせ食うのは俺とアイツのみッ!!)


 最後の一品が完成した頃、瑠璃姫達も到着して。

 彼女はまるで自分の家に招き入れる様に、躊躇無く奏達を中へと誘い。


「帰ったわよバカの特盛、みんな呼んだから――」


「お帰り瑠璃姫、丁度よかったぜメシ作りすぎたからな」


「…………? ちょっとアンタ、なんで顔を背けてるの?」


「いやちょっと、今手が離せなくてな」


「何も持ってないし、作り終わって…………――――っ!?」


「よぉ敦盛、遊びに来たぜってもう晩飯か? 一時間ぐらい早いぞ、ゲーム大会でもしようぜ!!」


「またえらく作ったね敦盛、どれも美味しそう!! でもちょっと早いのには同意かな、スマブラとコントローラー持ってきたから遊ぶよ!!」


「お言葉に甘えてお邪魔するわね、……あら、用意が良いのね。いつの間に連絡してたの瑠璃ちゃん。……瑠璃ちゃん?」


(不味い……これは不味いわよっ!? え? そんなにストレス溜め込んでたワケっ!? ヤバイヤバイヤバイってコレはっ!?)


 瑠璃姫は戦慄した、付き合いが長い故に理解してしまう。

 彼が料理を作りすぎる時は、ストレスが発露した時だ。

 そして今回はそれだけじゃない、彼女は見てしまった。

 まだ食卓に出されていないデザート、即ち――――おっぱいプリンを。


(なんでおっぱいプリンっ!? しかも等身大で妙に見覚えがある……――やっぱアタシのサイズじゃないご丁寧に黒子の位置まで再現してっ!? え? ええっ!? ペットの事がそんなにストレスだったワケっ!?)


 以前にも覚えがある、それは彼の大事にしていたアイアンマンのフィギュアを魔改造に失敗して壊してしまった時。

 その時の敦盛はとても悲しい顔をして溜息を吐き出し、――その晩に出てきたのは等身大アイアンマンケーキ。

 あの時の顛末は思い出したくもない。


(ああもうっ、あっくんのストレスは完璧に管理してた筈なのにぃ!! どーしてこうなるのよっ!!)


 瑠璃姫は戦々恐々としながら、ゲーム大会に加わるしか術は無かった。

 

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