第3話日課の特訓

 ルシウスは一歩カイルの間合いに踏み込み横に一閃する。その後も切り返しながらテンポ良く上へ下へと次々に木刀を叩き込むがカイルはその一つ一つを苦も無く往なす。


「単調過ぎるぞ! もっと色んなテンポや動きで翻弄してみろ!」


 カイルはルシウスに向けて檄を飛ばすが、ルシウスとカイルの間にはとてつもない差があるので酷な話だ。それでもルシウスはめげる事無く足を使い右に左に動きながら叩き込んだりカイルがカウンターを出す素振りをしたら後ろへ下がる等激しい動きを繰り返していた。


「流石俺の息子だけはあるな、中々良い動きだ。 俺からも行くぞっっ!」


 今度は打って変わってルシウスが凌ぐ番だ。カイルは手加減をしているだろうが体格差等もありルシウスは押されている、父は単調ながらも時折緩急を織り交ぜながらルシウスを翻弄しルシウスの腕や足へ木刀を叩き込むがその際当たる寸前の所で力を抜いているのだが当たれば当然痛い。


ルシウスはぐっと歯を噛み締めお返しとばかりに股間を蹴りあげる、だがその挙動にさえカイルは反応しルシウスの足を持つとそのまま足を捻りルシウスを転ばせた。


「いってぇ……父さんは汚いぞ! こんなに痛め付けて、息子が可愛く無いのかっ!」


 ルシウスの悪態にもカイルは笑顔だ。


「痛みの分かる人間は強くなれる、まぁ弱いうちはしょうがないだろ。俺も昔はそうだったんだから、それにだ……自分の親父の股間を蹴りあげるとは何事だ。もっと可愛がって欲しいんだな?父さんはルシウスの事ならなんでも分かるんだからな?」


「いや、そんな事無いよ!俺はもうお腹一杯かな」


 カイルの邪悪な笑みを見てルシウスは身震いした。何故ならカイルに火がつくと過酷を極めるからだ。


「そんな怯えた顔をするもんじゃないぞ? まるで父さんが苛めてるみたいじゃないか取り敢えず休憩だ」


 取り敢えず休憩と言う響きに疑わしさはあったが体も疲れて居たので安堵の表情を浮かべる。


「次は体力作りだ。 何時ものメニューをやってこい、明日は試験だから今日は大目にみてやるよ」


「分かった行ってくるよっっっ!」


 ルシウスは直ぐ様立ち上がると、走り込みを始めるべく現場から逃亡した。それを見たカイルはルシウスが産まれてから今までそして練習を始めた頃から今日迄の出来事を懐かしみながら家に戻って行った。


 ルシウスは日課である走り込みをしていた。最初の頃は村の周りを十週程だったが今では三十週程走っている、これをほぼ毎日続けている為ルシウスの体は同年代と比べても引き締まっており中々良い体をしていた。


 村人達は頑張ってるルシウスを見ると口々に「頑張れよ」「自分に負けるなよ!」と励ましの言葉をかけ、また一人この村から少年が巣だって行くのだと寂しさ半分嬉しさ半分と言った所だ。ルシウスはその応援の声を背に今日も今日とていつものメニューをひたすらにこなす。その一つ一つの言葉に律儀に手を振り走り込みを続けた。


 村の外周は今のルシウスなら一週十分程で走る事の出来る距離だろう後半は時間が掛かるので大体六時間半程掛かる予定だ。明日が試験なので今日は半分の十五週程で辞める、明日の為に今日は早く寝て明日に備える為だ。


一時間、二時間と走り込みを始めやっと十五週終わった時メアリーがルシウスを待ち構えていた。


「ルシウスお疲れ様!」


 今日は半分程で切り上げるので息もさほど上がっておらず余裕の表情を浮かべている


「おう! こんな所でなにしてんだ?」


「貴方を待ってたに決まってるでしょ?ふぅっん!もうルシウスったらぁ」


 練習終わりに自分が居る事を察してくれよと思いメアリーはぷいっとヘソを曲げてしまった。


「悪かった、悪かった。恥ずかしかったから照れ隠しだよ!それで俺になんか用なのか?」


 メアリーは顔を赤くして俯きながら小さい皿に入ったクッキーをルシウスに手渡した。


「練習キツそうだったからさぁ……甘いもの食べたくなるかなぁって思ってクッキー焼いてみたの……良かったら食べて」


 メアリーを見て恥ずかしくなったルシウスは下を向きながらも皿を受け取った。その際僅かに温かいクッキーを手に取り心が満たされる感覚に陥った。


「おっ、おう!ありがとなっ!」


「明日美味しかったか感想聞かせてね? 明日の試験頑張らなかったら許さないんだからっっ!」


 ルシウスの返答も聞かずにメアリーは走り去った。村人達数人はルシウスとメアリーを見て仲が良いのは良いことだと言わんばかりに二人の関係性に微笑ましい眼差しを向ける。


 ルシウスもそんな村人達の視線に恥ずかしくなり一目散に家へと走り去った。


(もっとこっそり渡してくれても良かったじゃないか……)


 家に着く頃には恥ずかしさよりも嬉しさの方が上回り家に入る前に一つ口に運んだ。


(うまい……うまいぞコレ)


 ルシウスはそのまま家に入りコップに牛乳を注ぐと牛乳とクッキーを交互に食べ、ものの数秒で平らげてしまった。


「もう無くなっちゃった……」


「メアリーちゃんにちゃんと御礼言うのよ!」


「分かってるよ」


 メルザはルシウスとメアリーの関係を自分と旦那との若い頃と重ねており懐かしみながらも自分の息子がこんなに大きく成長出来た事に嬉しい気持ちだった。


「またメアリーちゃんから何か貰ったのか、たまには俺にも少しお裾分けがあっても良いと俺は思うぞ」


「父さんには母さんが居るじゃないか、母さんに作って貰えば良いよ」


「そんなに食べたいなら明日はクッキー焼いて待ってるわねっ!」


 メルザはヤル気を出しそれを見てカイルは爆笑した。そんメルザとカイルを見て若干ルシウスが呆れるという一幕があった。

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