005
ボクはタタンとラグビーのステップを踏む。右へ躰を振り右足で地を蹴る。上がった左足は前方に着くはずだが、後方へ引き戻して着地。僅かに遅れる右足で左に切り返す。松永得意のグースステップ。
「松永のマネか。うまいじゃん」
「練習したんだ」
「なんで、そんなモン練習する?」
「なんかヤバイとき、振り切って逃げるのに役立ちそうだし。あんまり熱心にやってたら、松永がコーチしてくれた。才能あるって言われたぞ。大学行ったら、ラグビーしてみよっかな」
視界を何かが横切った。トンボみたいに。上空を旋回する県警のドローンだ。半年前から生活安全課が飛ばしている。防犯カメラのない地域をカバーして市民の安全を守るんだそうだ。左翼系団体が猛反発していたが、交通事故の救命が間に合ったり迷子を見つけたりで、なんとなく定着してしまった。空に目があるのは嫌な感じだが。
県警ドローンの愛称は公募で決まった。〈上空パトロールあおぞら号〉。でもボクらはそう呼ばない。オマワリやポリスを掛けて〈オマドロ〉とか〈ポリドロ〉とか呼んでいる。
カラスが不審な浮遊物を威嚇するように鳴き、迂回して飛び去った。
三階建ての細いビルの前にたどり着く。目指すは二階の喫茶〈メロ〉。一階空き店舗横に、狭くて急な階段が口を開けている。
一応空を見上げて、オマドロ不在を確認する。市民生活には不干渉と謳っているけど、撮った映像がどう利用されるかわかったもんじゃない。
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