突如として極限状態に追い込まれた人々

 航行中の旅客機内、突然発生したおかしな事故と、それに巻き込まれた乗客たちのお話。
 災害パニックもの、あるいはいわゆるシチュエーションスリラーと呼ばれる種類の作品です。舞台は航行中の旅客機に限定され、そこで生じた事故の顛末を書いた物語。極限状態での人々の行動を描き出しているのですが、独特なのはそれがただの事故ではなく、明らかに人知を超えた〝何か〟によるものであること。怪異か、それとも超常現象と呼ぶべきか、少なくとも物理法則や常識に反しているのは間違いなくて、しかしその正体はまったく判然としない。そういう意味で、ある種の不条理ホラーに通じる側面もあるかもしれません。
 タイトルが好きです。わかりやすく、ぱっと見の印象も鮮烈で、なにより興味を引きつける力がものすごく強い。事実、内容のうちの最もキャッチーな部分をシンプルに要約していて、つまり本編ではちゃんと欲しかったものが出てくるという、堅実な満足感がありました。最初から期待感の膨らんだ状態で読ませてくれるお話は、それだけで魅力的なものだと思います。
 以下はネタバレ、というには少しニュアンスが違うのですけれど、でもできれば未読時には見ないほうがいい内容を含みますのでご注意ください。
 事故そのものの醸す恐ろしさが印象的でした。この点に関してはもう完全にホラーとしての味わい。主翼が折れ、推進力すらも失った状態で、でも延々跳び続ける旅客機。恐ろしいのはその「延々」が本当に延々であるところで、もともと二時間のフライトだったはずが、でも六時間、十二時間と、いつまでもずっと続いてしまう。いっそ墜落すれば一瞬で済むはずのところ、でもまったく理解不能な状況に、終わりが見えないままずっと置かれることの恐怖。なんだかじっとりと体にまとわりつくかのような、重い圧力にも似た恐ろしさを感じました。
 その上で、というか、だからこそ映えるのが、主人公の性格。作品紹介から引くならば、この状況をして「かくのごとき理不尽は誰の身にでも降りかかるものではある」と言えてしまう男性。肝が座っているというか神経が太いというか、とまれこの彼だからこその端的な描写が楽しい、ハードながらもまとまりの良い小品でした。