第5話 葛葉小路商店街の怪(1)

 ツヨと話して、一つ分かったことがある。ツヨは、この世界や第237霊界の規範については答えられるということだ……正直、何も手がかりがないまま歩きまわるのは酷だったので、これは助かる。

 私は、とりあえず樂満屋敷(らくまんやしき)を出て、零因子を探すことにした。


「……ツヨちゃん、これ」


 おにーちゃんが昼食の残り物をタッパーに詰めて、ツヨに渡していた。


「わぁ!これ全部食べていいんですか?」

「おうよ……、また、来いよな!」

「はい!」


 実際見えないけど、ツヨの耳と尻尾がブンブン振れている気がする……おにーちゃんの反応は……想像にお任せする。


*************************************


 とりあえず、私は自分のよく行く場所を回ってみることにした。さっきの樂満屋敷は、ツヨの反応があまりなかったから手がかりはないということだろう。


「次はどこに行くの?」

「うーん、商店街かな」


 ――私がよく行く、葛葉小路くずはこみち商店街は、地元でも賑わいのある商店街だ。大体60店舗が並び、空き店舗やシャッター店舗は1~2件程度だ。

 

「おう!あいちゃん!何か食べくか?」

「ううん、今は大丈夫~」

 

 肉屋の近くを通りかかると、店主のじいちゃんから声をかけられた。私は、ここでよくコロッケを買い食いする……ツヨは何かを感じるだろうか?

 ツヨは肉屋のカウンターに近づき、精肉された商品等を見ている。


「特には……」


 私の考えを読んだのか、ツヨは答えた。


「お、おう、可愛い嬢ちゃんだな。あいちゃんの友達か?」

「……うん、そう」


 本当は、肉屋のじいちゃんはツヨに答えて欲しかっただろう……だが、ツヨは零因子の感覚を探している。なので私が代わりに適当に答えた。何か?じいちゃんもツヨの色気にやられているのか?

 しかし、休日の午後の晴れた日は、ツヨの白髪に艶があってとても美しい……紫の瞳をみるとたまに深海の海にように揺らいでいる。まるで人魚のようだった。

 案の定、じいちゃんは、コロッケを無料で2つくれた。


「これ……」

「え? あ、ありがとうございます!」


 ツヨが笑顔でお礼を言う……おい、じいちゃん……なんでそう恍惚そうなんだ……そのまま天国に行くなよ。

 しかも、その雰囲気は、まわりのお店の主人達をも巻き込みそうだった。通行人も巻き込み兼ねない……なんだかツヨがパワーアップしている気がする。いつか、笑顔の使いどころをちゃんと教えなくてはならないな。


「……ツヨ、早く行こう」


 私はツヨの手を引っ張ると早歩きでその場を後にした。


************************************


 暫く、ツヨの手を引いて歩いた後、ツヨがコロッケの袋の中身を確認した。


「これ、何?」

「あぁ……、コロッケって、潰したジャガイモと、クリームソース、挽肉、野菜を混ぜて揚げたものだよ。食べてみたら?」

「うん……」


 ツヨは、袋からコロッケを1つ取り出し、口にする。


「――熱っ!……ふああああああああぁ」


 ツヨは、最初食べにくそうだったが、一口飲みこむと凄く幸せそうな声を出した。この顔はあまり人に見せないほうがいいだろう……肉屋のじいちゃんはもちろん、まわりの人も被害にあうかもしれない。

 ツヨは、1個目のコロッケはあっという間に食べ終わり、2個目のコロッケに手を付ようとしている。2個目のコロッケはじっくり噛みしめて食べるようだった。多分、私の考えを読んでいる暇はないだろう。


「……あれ?」


 暫くすると、ツヨが変な声を出した。

 その後、暫くの間、食べかけのコロッケを……くんくん……嗅いでいる?


「……なんか、零因子の雰囲気が僅かに…する?」

「――マジかっ?!」

 

 思わず、ツッコんでしまった。

 まさかそんなに展開になろうとは……。


「うん、ほんのかすかだから、食べないと、よく分からなかった」


 だとすると、食材に零因子があるってことか?


「はぁ……」

 

 また肉屋のじんちゃんのところに行くのは気が引けた。

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