【短編】キスから始まるラブコメはいかがですか?

午後のカフェオレ

前編 

「ピピピ!ピピピ!ピピピ!」


 目覚ましが鳴っている。今から俺の一日が始まる。


 俺の名前は村上鳴海。どこにでもいる普通の男子高校生だ。ルックス、コミュ力、運動神経、学力、その全てにおいてザ・フツーを貫いている。クラスの人に俺のことを聞いたら、十中八九


「あー、あのパッとしない人ねー」

「良くもなく、悪くもなくって感じ」

「嫌いではないけど、好きでもないかなー」


そんな風に答えが返ってくるだろう。


「あっ、お兄ちゃん!おはよー!」


 そんな可愛らしい彼女は俺の妹の村上蕾。パッチリとした目で、可愛らしい笑顔が魅力的な女子中学生だ。年は俺の一つ下。中学校では大人気らしく、告白されたことも何度もあるそうだ。


「お兄ちゃん!朝ごはん私と一緒でいい?」


 純粋無垢な瞳をこちらに向けてそんなことを聞いてくるんだ。妹よ。マジ天使!


「ああ。それでよろしく」


「アイアイサー!」


「鳴海!朝の洗濯手伝うって言ったでしょ‼︎何で起きてこないの?早くしてよ!」


 そんな風に叫んでいるのは俺の姉の村上凛。俺の6つ年上の現役JDだ。妹と同じでパッチリとした瞳。サラサラの黒髪で、年上感のある笑顔が大学でも大人気らしい。この前、姉の友達が言ってた。


「ごめんごめん」

「いや、ごめんで済むなら警察要らないから。今度はあんたに倍の洗濯物やってもらうから。」


 鬼だ。一回寝坊しただけなのに。どうしてこんなのが大学では女神なんて言われているんだよな?わけが分からない。


「お兄ちゃん、お姉ちゃんご飯できたよ!」

「蕾ありがとう」

「ああ、ありがとう」


「「「頂きます」」」


 これが俺のいつも通りの朝だ。


「行ってきます」


「お兄ちゃん行ってらっしゃーい!」


 姉は大学の授業が始まるのが遅く、妹は中学が近いため俺が一番最初に家を出ている。


 家から駅まで歩いてゆく。


「おっす!鳴海!おはよう!」


「健人、おはよ」


 こいつの名前は立花健人。クラスでモテモテのイケメン野郎だ。こいつとは小学生の頃からの腐れ縁だ。こいつはもっとイケメンのやつとか可愛いやつとかと仲良くできるのに、どうして俺なんかとつるんでいるのか?謎だ。


「健人、お前あの噂知ってるか?」


「あの噂とは?」


「教室の花子さん」


「トイレの花子さんじゃなくて?」


「ああ」


「それどんな噂なんだ」


 そう聞くと健人は話始めた、"さもありそうな怪談"の話を。


「これは、俺たちが通う三重県立中央高校の男子生徒が体験した話だ。その日、その男子生徒は先生に頼まれた用事があって暗くなるまで学校で作業をしていたんだ。その作業が終わって帰ろうとした時、忘れ物に気づいて自分のクラスに戻って忘れ物をリュックに入れて教室から出ようとしたその時…」





「「ねえ」そう呼ばれる。振り返ってみると女の子のようなシルエットをした『何か』がいた。息ができない、そんな錯覚にその男子生徒はとらわれた。そんな空気に耐えきれなくなった男子生徒はその『何か』に背を向け、全速力で走り出した。止まっているとその『何か』に引きずり込まれそうな気がして。彼は昇降口から飛び出した。昇降口までどのような通路を通って行ったかは分からない。振り返ってみると、背後には誰もいない。やはり人間は怖いものを見たいと思ってしまうようだ。その『何か』がいた教室を目を凝らして見てみる。そこには黒い影が動いていた」


「っていうものだ!」


「なんかどこにでもあるような話だな」


「まあ、噂話だからな」


「それにしても、噂話にしてはやけに詳しいな。比喩とかも使われていた気がするし」


「そうだろー!」


 そう言う健人は、いつもの噂話をするような感じではなく、何か誇るような?鼻にかけるような?そんな気がした。


「まさか、この噂話の発端って…」


「ご名答!体験したのも噂話を流したのも俺でしたー!」


「だからそんな鼻にかけた様な言い方をしていたのか」


 この男、自分の話が噂とか話題とかになるのが大好きなのだ。


「お前、本当にそんな怖かったのか?」


「少し盛ったっちゃ盛ったかなー」


「おいおい、ほどほどにしとけよー」


「へいへい!まあでも怖かったのは事実だから。鳴海も気を付けろよ!」


「はいはい。そんな怪談もどきに俺が関わるはずが無いから大丈夫ですよー」


 そんな軽口を交わしながら俺たちは電車に乗り込んだ。

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