第13話 新たな火種

 王城の前に有る広場に僕たちは集められ、王宮のバルコニーから王様や新しい王太子が見守る中で論功行賞が行われた。

 とは言っても、集められた殆どの人達が、言われた内容に絶句し、文句を言おうとしたら、周りを囲む王国軍の兵士に槍を突きつけられる事態に成ったけれど。


「以上である!!」


 文章を読んでいた某大臣が、口を閉じると同時に僕は声を出す。


「あの!ちょっと良いですか!!」


「「「ちっ!!」」」


 国軍の兵士が僕の周りに来て、槍を向けてくる。僕は、思わず笑みを浮かべてしまった。


「良いの?そんな事して?」


「何を言う小僧が、えぇ!?」


 何か言おうとして兵士は、自分達の槍の穂先が無くなっている様を見て、驚愕の声を上げる。


 手に持つ、七本の穂先を見せびらかしながら微笑みかける。


「次は、腕ごと取るよ!」


「「「ひっ!!」」」


 兵士達は、槍だった棒を投げ捨てると、僕から距離を取る。


「さてと、改めて、ちょっと良いですか?」


「貴様!!下賤な土民風情が王族に声を掛けて良いと思っているのか!!兵士たちよ!!引っ捕えろ!!」


「「「………」」」


 王太子の命を受けた兵士達は、お互いに目配せし合う。おそらく彼らは戦での僕たちの話を聴いているのだろう。

 僕の周りには既に仲間たちも集まってきている。


「ど、どうした!?何故動かん?早く捕らえよ!!」


 まだ、大声を上げる王太子。意を決した兵士が剣を抜いて、此方に近づくが、すぐにその剣は真っ二つに成って中を舞い、兵士は尻餅を突く。やったのは、ヤン君だ。


「ひっ!!」


「………」


 勇敢な仲間に続こうとしていた兵士たちの動きが止まる。


「よっと!!」


 その場で、脚にオドを集中させて、跳躍し、飛び上がった空中で、空気を蹴って、また跳躍、一気にお城のバルコニーの上まで飛び、王太子の前に着地する。


「ひぃぃぃぃ!!!」


 僕が目の前に降り立つと、王太子は悲鳴を上げて尻餅を突き、後ずさる。


「騎士達よ!!何をしている!!不届き者を捕らえよ!!」


「「はっ!!」」


「よい!動くな!!」


 王太子の命で動こうといした兵士を、王様が止める。


「何か言いたいことが有るのであろう?」


「うん。さっきからそう言ってるのに、全然そこの人と話が通じないから、声が聞こえてないのかと思って近くまで来たの!」


「なっ!!貴様!!ぶれ「オスヴァルト。黙れ!」ぐぅぅ!!」


 王太子が忌々しげに口を噤むと、王様は僕を見据える。無表情だけど、瞳の奥に様々な感情が渦巻いている。僕に向けられているのは何だろう?期待と恐怖?


「それで、何が言いたい?」


「うん。あのね!」


「貴様!!陛下に向かってその様な口を!「大臣!!静まれ!!」はっ!」


「何だ?」


「僕は第3王子と右将軍を捕まえました!殺してません。生け捕りです。だから、その2人を捕まえた分のご褒美をください!!」


 僕の言葉に、すぐさま王太子が反応する。


「危害を加えたのは事実ではないか!!危害を加えているのならば罪だ!!「それは妙ですな」なっ!?」


 王太子が大声で叫ぶ中、静かな声が、辺りに響く。


「右将軍か?」


「は!」


 声の主は今話題に出していた右将軍その人だ。


「陛下!畏れながら、発言をお許し頂きたい」


「申してみよ!」


「はっ!!」


 右将軍はもう1度深々とお辞儀すると、顔を上げて話し始める。


「先ず、王太子殿下の、今回の件に対するお沙汰ですが。聡明な殿下は、全ての件を国法と先例に則って決めているものと愚考いたします。相違ございませんか?」


「う、うむ!その通りだ!!私の決定は何も自分の都合で行っている物ではない!全て、国法と膨大な先例を紐解き、決定したもの。無知な者共が避難する謂れなど無い!」


 最初、たじろぎながら言葉を発していた王太子だったが、徐々に声の調子が強くなり、やがて胸を張って持論を言い放つ。


「では、今、かの少年が申し上げた事に一考の余地が有ることもお気づきでは?」


「何?」


「三百年を超える王国の歴史の中で、国内での貴族間紛争は数え切れぬほどございます。そして、そうした紛争で、敵方の貴族を捕らえた幸運な平民の話は多々ございます。

 中には油断している所を、後ろから殴りつけて気絶させ、荒縄で縛って自軍に連れ帰ったと言う話もございますが、そういった者たちは1人も罰されずに、莫大な褒美を受け取っております。

 賊軍の貴族を討ち取った功と貴族殺しの罪が相殺されるのなら、騙されて賊軍に協力してしまった私と、第3王子を捕らえた褒美は与えるのが筋かと」


「ぐぅぅ。それは…」


 反論できず、口をパクパクさせる王太子に、王様は、冷ややかな視線を向ける。


「どうだ?王太子?」


「こ、今回、王国軍にも、多くの犠牲が出ております。損害の補填のためにも、国庫の財は節約するべきで「愚か者!!!」ひっ!!」


 王太子の言葉を、王様の怒声がかき消す。


「国庫の節約だと!?その様な理由で功績に報いぬつもりか!!大体国庫の財など!十分過ぎる程あろう!!それを、あろうことか王族が守銭奴な悪徳商人の様な理由を並べるとは!!恥を知れ!!!」


「も、申し訳ございません!!」


 立ち上がり、顔を真っ赤にして怒鳴る国王に、王太子は縮こまって謝罪する。


「もう良い!で、少年よ。貴殿への褒美だが、すまぬが、事前に考えられて居らぬ。欲しいものが有れば言ってみよ」


「では、お願いがあります!」


「うむ」


 席に戻り、鷹揚に頷く王様に、笑顔を浮かべて頼む。


「さっき、犯罪奴隷だった人達は、王太子様が立太子する恩赦で10年の強制労働刑に減刑されると聞きました」


「うむ。その通りだ」


「僕たちと一緒に戦った犯罪奴隷約五千人。全員の罪を更に減刑して無罪放免にしてください」


「な、何!?」


「なっ!!」


「マジかよ!!」


 言い終えると、王様が一瞬驚愕の表情をし、広場に集まった人々からも驚きの声が漏れる。


「良かろう!お主らと共に戦った犯罪奴隷は全員無罪放免としよう」


「おおお!!」


「ほ、本当に!!」


 王様の言葉と同時に、広場の皆から、喜びの声が上がる。


「さて、右将軍を捕らえた褒美はそれとして、第3王子を捕らえた褒美も有る。好きなものを言うが良い」


 王様の瞳の奥に悔しさの様な物が見える。どうしてだろう?感覚の鋭いザシャ君なら解るのかな?まあ、良いか!

 でも、もう一つねぇ?


 僕が考え込んでいると、王様が一つの提案をしてくれる。


「すぐに思いつかぬのなら金はどうじゃ?第3王子は此度の主犯。大金貨百枚は硬いぞ」


「「「おおお!!」」」


「なっ!!陛下!!」


 王様が提案した金額に広場から驚愕の声が漏れ、王太子が何か言いたげに王様に呼びかける。


「どうじゃ?」


 大金貨百枚か!それだけ有れば…


「解りました!では、お金を頂きます。でも、大金貨百枚じゃなくて、大銀貨1万枚で頂けませんか?」


「ん?まあ、価値は同じだ。構わぬが、何故?まあ、確かに平民には大金貨や金貨は使いづらいか」


 王様は訝しげな顔をしたが、自分で納得すると、側に居た大臣に声を掛ける。


「大銀貨を1万枚すぐに用意できるか?」


「可能です。大金貨や金貨だけでなく、大銀貨も出入りの商人への支払いで用いますので」


「では、すぐに用意せよ」


 王様の命令を受けた大臣がその場を去り、少しして、本当に大銀貨を1万枚を入れた木箱が、僕の下に運ばれてくる。


「受け取るが良い。そなたへの褒美だ」


「ありがとうございます!!」


 木箱を持ち上げた僕はバルコニーから飛び降り、広場に戻る。


「よいしょ!と!」


 木箱を置くと、犯罪奴隷だった皆に声を掛ける。


「1人2枚ずつ持って行って」


「「「え!?」」」


 驚いた表情をする元犯罪奴隷達に僕は笑いかける。


「傭兵達は雇われる時にマクシミリアン王子から前金を貰ったけど、皆は何もなかったでしょ?

 せっかく自由に成っても全く何も無しじゃまた、犯罪を犯す以外生きる道が無いじゃない。

 だから1人に2枚づつ上げる。丁度それぐらいの量だしね。

 2枚じゃ1月生活するのが限界だろうけど、その間に何かお仕事を見つけて」


 彼らが恐る恐る木箱に近づいてくる。先頭の1人が2枚手に取る。僕が頷くと、彼は、そのまま大銀貨を持って後ろに下がる。その様子を見ていた後ろの者も大銀貨を2枚取り、次々に大銀貨を取っていく。

 やがて、全員に大銀貨が行き渡り、箱の中には数百枚の大銀貨が余る。


「あれ?まだ取ってない人は居ない?」


 全員が大銀貨を持っていると答える中、ゲルト、フーゴ、バッソンが前に出て、口を開く。


「戦死した連中の分だと思います」


「元の数が五千人ですから」


「ご厚意、感謝します。残りはカイル様がお持ちください」


「あ!」


 そうだよね。戦死した者たちも多いもんね。


「解った!ありがとう!良く戦ってくれた」


「「「はっ!我らもお役に立てて光栄でした!!」」」


 涙を流しながら3人が後ろに下がる。論功行賞が終わり、皆が徐々に帰路につき始める。


 しかし、貴族や傭兵達の顔にはありありと不満の色が浮かんでいた。

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