不雷英美と彼女目線
私の名前は
自分で言うのもなんだけど、容姿端麗の頭脳明晰で才色兼備とは私の為にある言葉かも。誰もがウインク一つでもうメロメロ! 例えそれが教師だろうと生徒だろうとも。
毎時間後の放課ともなれば保健室は波のように押し寄せる男子生徒達で大時化状態。そんな状況を歯ぎしりしながら眺めている他の女子生徒を見ていると、なぜだか胸がスッとする。
そんな中、ある生徒の噂が私の耳に届いてきたの。なんでも〝三河安成〟って名前で、目が合っただけで妊娠するとか、接触した女性は人間だろうと動物だろうと隔たり無く必ず虜にされてしまうとか。酷いのになると〝人間ハプニングバー〟とも。もし噂が本当ならば、インキュバスすら可愛く見えるわね。
ところが! 待てど暮らせど彼だけは一度もこの保健室を訪れることはなかったわ。それどころか、雄の臭いをプンプン振りまく男性達の介抱に明け暮れる毎日に、何時しか彼の存在すら忘れてしまっていたの! 元々会った事も無ければ顔も知らないし。
それから一年以上経過したある日、なんと彼が保健室へと運ばれてきたの! 〝性格難からの行き遅れ〟や〝鬼の魂が宿る教師〟などと陰で呼ばれているあの有松先生が涙ながらに当事者たちを叱っていたのが印象深かったわ。女の勘だけど、彼女もまたこの生徒に夢中なんだなってその時は他人事のように思ったのを覚えている。因みにこの時怒られた当事者たちは一生トラウマとなってしまうだろうなってぐらいの雷を落とされてたわよ。ウフ。
きっかけはこのように些細な出来事からだったけど、この時から三河君と過ごす時間が増えて、気付いた時にはもう手遅れ、ガッチリハートを握られていたわね。だって彼、かわいんだもん。
ところがよ! これまた敵が多くって、やたらと女達が彼に群がるの! しかも美人ばーっかり! 自分の美貌には相当自身があったけれど、ベッキベキに自尊心をへし折られた感じ。この私が下から数えた方が早いぐらいのパーフェクトボディの持ち主が多数を占めてたし……。
見てくれで敵わぬならば攻めて攻めて攻めまくれってな感じで押しまくったわ。他の女性達を出し抜きつつ、あわよくば彼の心を私に釘付けにとの野心を込めて始めたけれど……虜になったのはどうやら私のほう。
私も今年で27歳、これまで色々な男と付き合ったし、様々な恋も経験したつもりだったけど、どれも本気ではなかったようね。今回それを思い知らされたわ。初めて嫉妬心が芽生えたのもこの頃だったかしら? いつも余裕のある私優位な恋愛をしていたけれど、今回は違う。ライバルたちに加え、彼と10歳も違うこの年齢が重荷に感じられる。あぁ三河君……。
それからは、事あるごとに彼と一緒の時間を過ごしたわ。とはいっても、二人っきりになるのは本当に難しく、必ずオマケが傍にくっついてくるの。それは他の女性であったり、一部頭のおかしい女教師、それに彼の友人ね。本当に邪魔なんだから!
それがつい先日、最強の恋敵と出会ってしまった。彼(他にも数人)と一緒に海へ行った時の事、ついに幽霊までもがその心を捉えられてしまった。普通逆だと思うのだけれど、違う意味で彼へと憑りついたのよ。実体のない非科学的で得体のしれないモノに勝てるはずもなく、あの女には苦汁を飲まされてばかり。最終的に、あの幽霊は彼の一部と考えることにしたわ。敵にすれば最悪だけれど、味方に付ければ心強いしね。
海から帰った後、本当の意味での盆休みを満喫中、それを知ったのは偶然だったわ。朝食用にと近くのパン屋へ出かけた時の事。あ、このパン屋は我が校に通う女生徒の親が経営しているのよ。メロンパンがとっても美味しくって有名なんだから! いつも売り切れで中々食べられないけれどね。
レジにはその女生徒の姿があったわ。なんでも近所の店がお盆休みに入ってしまうため、普段以上に客が押し寄せるから手伝っているのだそうよ。偶々私が訪れた時はお客さんの少ない時間帯だったようで、色々話をしたの。その中で……
「今回先生は三河君と山登りしないんですね。本当にあのド変態と二人っきりでいったんだ。どうしてあんなキモオと仲が良いのかなぁ?」
山登り? いや、私そんなの聞いてないんだけど? 初耳なんだけど? 寧ろこの後彼の家へ押しかけようと思ってたんだけど?
激しく動揺したものの、一切顔には出さず、事の詳細を彼女から聞き出すのに成功。どうやら〝吹雪山〟へ登山に出掛けたらしいの。しかも気持ち悪いあの〝五平〟って生徒と一緒に電車で。女が一緒でないことにホッとするも、逆にコレは大チャンスの予感! 虫唾の走るあの生徒を葬ってしまえば彼と二人きりでの山登りができるじゃない?
しかしなぜパン屋の娘は私にこんな話を? 彼女もまた彼にメロメロのはず。だとすれば非常に不可解な?
「先生の体力じゃきっと三河君に追いつけないでしょ。それどころか遭難するんじゃないの? ウフフ」
なんだと! なめるなよこのメスダヌキが! しかしこの女の言う事にも一理ある。どちらかと言えば私は体力バカとは正反対な存在で、ステータスを美貌に全振りしているし。
まてよ? たしかこの商店街にはあの生徒がいたはず。見るからに脳筋でヤツなら私を担いででも頂上へと辿り着けるのでは? 今なら車を飛ばせばギリギリ間に合いそう。善は急げ! 行動あるのみ!
私は魚屋へと猛ダッシュ! 店へと到着するも、シャッターが閉まっているから休みのようだけど……いた! 覗くと奥の母屋でその生徒を発見! なにやら大勢の人たちがワイワイやっているけど、そんなの私には関係ないし!
その後は強引に家から連れ出し、〝吹雪山〟へと借りたレンタカーをブッ飛ばしたわ。時間的には多分ギリギリで、もしかすると私の方が早く着くかも。助手席に座る魚屋の息子は〝海道君〟といって、途中までやれ親せきがどうのとか、墓参りがーとか家の手伝いがーなどと煩かったから、本心ではないけど彼の頬に軽くキスしてやったわよ。その後は真っ赤になって一切口をきかなくなったからとても効果的だったわ。まぁ、彼が私を好きなのは知ってたしぃ。海で告白されたしぃ。
そんなこんなで遂に〝吹雪山登山口〟へと到着。いた! 丁度登るところのようね! でもこちらはまず車を何とかしなきゃ。シーズンだからか近くには全く駐車場の空きがなくて、漸く見つけた場所はそこから数百メートルも離れていた。でもまぁ、海道君に頑張ってもらえばいっか!
停車後、速攻用意していざ登山へ! とは言ってもなにも持たずにやって来たんだけどね。エヘ。海道君なんて着のみ着のままだし。
この時点で三河君達から遅れること約10分、うまくいけば3合目辺りで追いつけそう。先程のキスが余程効いたのか、大興奮の海道君は私を背負ったまま大型排気量の重機より力強くグイグイと坂道を登って行く。私の睨んだ通り、彼をチョイスして正解だったわ。だけど、それ以上お尻をつかんだ指を動かすのは勘弁してほしいな。多少は仕方ないにしても、アンタはバカ力からだから痣になりそうなのよ。でも、言ってやる気を削ぐのもアレだし……イヤだけど三河君に追いつくまでガマンガマン!
登山口から山道に入ると多少スピードは落ちたものの、そこはやはり体力バカ。私が自分の足で登るよりもはるかに速い速度で一歩、また一歩と前へ進む。そして一合目も半分を超えた辺りで漸く彼を捉えた! やったわよ!
「おーい! みかわく……あっ!」
「あかん先生! あいつ等クマに襲われてるっ!」
「クマってなによ海道君!? バカね、あれはネコ……うわあぁぁぁぁぁっ!」
この直後、私は意識を失った。
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