第5話 11月 第1週~


 昼休み、社員食堂で食べていると、田中先輩が工場内の希望者の情報を教えてくれた。


「おい、及川、太田。課長に聞いたが、お前ら含めて10人ほど企業ダイバーの希望を出したらしいぞ!」

「えっ! 俺達入れて10人って、少ないですね。もっといるかと思っていましたよ」

「そうですよね。及川さん、僕たちが選ばれそうですよね!」


 太田さんは、ポジティブだ……乗っかっておこう。


「企業枠でうちの工場が通ったら、及川さんも太田さんも選ばれそうですよね」

「家庭持ちは希望しないだろうし、パート・アルバイトは論外。希望したのは、独身社員だけだろうな。あっ、女子も数人希望したって聞いたな」


 へぇ~、女子にもダイバー志望者がいるんだ。って、いうか田中先輩の情報網は凄いな。


「お~、太田! 俺達が選ばれる確率が上がったぞ!」

「及川さん! やりましたね」


 イヤイヤ、まだうちの工場が選ばれるって決まってないですよ……


「お前ら、まだ決まってないんだぞ。浮かれすぎだよ!」

「「決まりますよ!」」

「あはは。及川さんと太田さんが決まったら、お祝いですね!」


 近くで、僕達の話を聞いている人がいた。及川さんと同期の長谷川さんと、僕と同期の山田君だ。あの様子からすると、2人も企業ダイバーに申し込んだのかな。




 今月もステータス上げを頑張るつもりだ。攻撃力を60近くまで上げたいしね。それと、10階のワープを取るのも目標だな。


 寝屋川DWA支部の受付に行くと、初心者講習の時に、実践の講師をしたJDAの哀川さんがいた。目が合ったので、頭を下げる。


「確か君は東山君だったね」


 あれ? 何故、僕を知っているんだろう?


「こんにちは、哀川さん。どうして僕の名前を知っているんですか? もしかして、第一回の30名全員を覚えているんですか?」

「ああ、書類選考で選んだのは私だからね。君は……お母さんの件で選んだんだよ」


 哀川さんの言葉に驚いた。


「えっ! 母の事故を知っているんですか!?」

「ああ、君はダンジョンに歯痒い思いを持っているだろうと思ってね」

「あぁ……それで僕だけ他のみなさんと違うタイプだったんですね。哀川さん、ありがとうございます」


 選ばれた他の人は、みんな体格の良い人たちばかりだった。それに、僕は母さんの件でダンジョンに思うところがあるのは確かだ。


「礼は要らないよ。無茶をしないで、1匹でも多く魔物を倒してくれればいい」

「はい。母の仇じゃないですが、そうします」


 哀川さんて、良い人だな。受付のいつものお姉さんが、話に割って入る。


「哀川さん、東山様は既に魔石を150個以上換金されているんですよ。ポーションまで売ってくれるんです!」

「ほお~、それは凄いね。ポーションはありがたい。東山君は、ダンジョンCの開放を希望したのかい?」

「いえ、ステータス値が足りないので、当分先になりますよ。ははは」


 僕は弱いからなぁ~、強い魔物を狩るのは先になりそうですよ。いや、ステータスを上げたら、強い魔物を狩ることが出来るんだろうか……?


「君は、無茶をしないようだから許可を出しておく。白石君、手続きを頼む」

「はい。東山様、登録カードを出してください。直ぐに手続きしますね」

「ええ? 哀川さん、良いんですか?」


 ステータスが足りないのに良いのか? 申し込みもしていないのに……


「ああ、構わないよ。制限するのは、無茶をするヤツを止める為だからね。君みたいなタイプは、Aまで許可しても問題ないんだよ」


 確かに、例えダンジョンAに入って良いと言われても行かないな。


「はぁ、評価して頂いてありがとうございます。でも僕は、強くないのでゆっくり進みますよ」

「フフ。東山君、良い心がけだ。じゃぁ、失礼するよ」


 哀川さんは、奥の部屋へ入っていった。


 受付のお姉さんが、哀川さんがDWAのJDA統括責任者だと教えてくれた。


 何だか、ダイバーとして認めて貰えたようで嬉しいな。受付のお姉さんが、手早く登録カードの手続きをしてくれて、僕はダンジョンCまで入れるようになった。いつもの受付のお姉さんは、白石さんと言うそうだ。ふんわりウェーブの可愛い感じのお姉さん、覚えておこう。


 その日は、7階まで進んで狩りをした。5階までの魔物が、一振りで倒せるようになったので、移動する時間も短くなって来た。今日の換金額は、21,600円。1日、2万も稼げたら十分だよな。今日は、駅前でラーメンと餃子だ!


 翌週の土曜日も、狼に慣れる為に7階メインで狩りをした。朝8時にダンジョンに入って、出て来たのは夜の7時だった。


「東山様、お待たせしました。換金額は、34,000円になります。いつものように、登録カードへの入金で宜しいですか?」

「はい、お願いします」



 駅から寮への帰り道にある、全国チェーン店の中華店に入る。ここの餃子が好きで、外食する時は毎回ここに来る。


「おっ! 東山じゃないか。今アレの帰りか?」

「あっ、田中先輩! はい、そうです」


 偶然、田中先輩も食べに来たらしく、カウンターに並んで座った。


「お前、疲れた顔しているぞ~?」

「そうですか? 今日、頑張ったんですよ~。尻カッチンなんで……」

「どういう意味だ? 自由に出来るんじゃないのか?」

「はい、そうなんですけどね。僕のいつもの狩場が初心者エリアで、第2回のメンバーに開けないといけないかなと思って……少し狩場を上げようと頑張っているんですよ」


 別に気にしなくても良いことなんだけどな……。


「へぇ~、なるほどな。追いつかれてもいいんじゃないのか?」

「もちろん! 僕が弱いのは分かっているんで、どんどん追い越してもらって構わないですよ。ただ、今回人数が多いので、初心者エリアに1人でも人が少ない方がいいんじゃないかと思って、頑張っているんです」

「東山、そんなの気にしなくてもいいんじゃないか? それとも、それは言い訳かぁ?」


 厳しいツッコミだなぁ、先輩。


「さすが、田中先輩! 言い訳しないと、目標がないと頑張れないので……」

「ははは! お前らしいな。けど、無理はするなよ~」

「はい、ありがとうございます」


 寮への帰り道、田中先輩に誰か女の子を紹介してくれと五月蠅く絡まれた。僕が紹介して欲しいですよ……。



 第3土曜日、今日は10階のワープを目指す! ポーションを確認して、おにぎりをいつもより多めに買って、朝の7時前に受付を済ませた。DWA支部が24時間体制なのが助かるなぁ。


 ダンジョンに入って、最短距離で進んで行く。7階までは約2時間で来られた。いつも通りだ、問題はここから……


 階数が増えるにつれて、出て来る魔物の数も増えてくる。だから、途中でポーションが必要になるはずだ。持っている3本とさっき出た1本で何とかなるかな……無理そうだったら、直ぐに引き返す。


 7階へ降りる階段で今のHPを確認しておく。階段は、魔物が発生しない安全な場所だと教わった。休憩する時は、階段を使うようにと言われている。


「ステータス・オープン」


名前 東山 智明

年齢   20歳

HP   94/100

MP  14/14 

攻撃力  57

防御力  54

速度   61

知力   63

幸運   67

スキル

・片手剣D ・盾D


 受付の白石さんにもらった地図を確認しながら進んだ。7階は1時間に6~8体程度の魔物が出て来る。8階に向かう階段まで1時間で着いた。ここでステータスのHPを確認する。


名前 東山 智明

年齢   20歳

HP   89/100

MP  14/14 


 まだまだ余裕があるな。丁寧に確認しながら進んでいるよな~、自分のヘタレスキルを再確認したよ。


 そして、初めて8階のフロアーに降りた。


 うわっ! 熱っ、マジか! 魔法を撃ってくるゴブリンだ。DWAの資料室で魔物の確認をしたけど……本当にいるんだ。魔法を撃つ魔物に手間取って、この階層を通過するのに2時間もかかった。9階へ向かう階段で休憩を取る。コンビニで買ったおにぎりを食べながら地図の確認をする。そして、HPをチェックする。


「ステータス・オープン」


名前 東山 智明

年齢   20歳

HP   64/100

MP  14/14 


 うわ~、HP減ったな~、魔法のせいだな……盾で防いだけど、これはダメージ受けているな。ポーションを飲んでおこう。


 ショルダーバッグから、ポーションを出して飲んでみた。ん~、薄い水色の液体で水のようにサラッとしている。味は……ぶっ! 不味い。余り飲みたくない味だよ。


名前 東山 智明

年齢   20歳

HP  100/100

MP  14/14 


 おお! 全快になった。ポーション1個でHP36以上回復するってことだな。メモしておこう。一時間ほど休憩して、9階のフロアーを進んだ。


 9階は魔物が多く、フロアー自体も少し広い気がする。魔法使いのゴブリンに出くわすと、魔法を撃つ前に突っ込んで行く。強さは初心者エリアのゴブリンと変わらないので、一太刀で倒せることが分かったからだ。


 10階への階段前に現れたゴブリンが、何か巻物? みたいな物を落とした。拾い上げてみると、これは? もしかして……魔法のスクロールか!?


「えー! 魔法!?」


 思わず声が出てしまった……これって、魔法を覚える事が出来るのか? 講習の座学で出るとは聞いたが、こんな低い階層で出るとは言ってなかったけどな……確か、覚えられる人とそうでない人がいるって言っていた……どういう仕組みだろう。


 魔法のスクロールには、魔法陣のような模様と火の模様が書いてあった。




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