黒海の入り口

浪子の持ち物は,剣とランタンだけだった。自分が親のネッシーと暮らす海から「黒海」まで移動するだけで,長い旅で,一日ほどかかった。


翌日の早朝には,ようやく辿り着いた。辺りが真っ暗で,何も見えない。本当に,太陽の光の全く届かない場所だった。


浪子は,剣とランタンを持って,慎重に「黒海」の中へと進んだ。「黒海」には,どの怪獣が暮らしているかは,詳しくは知らないが,猛々しくて,恐ろしい生き物に決まっている。そして,その怪獣のどれかが魔法の真珠を守っているのだ。早く真珠を探し出して,ネッシーに届けないと。


少し進んだところで,大きな生き物の気配がした。浪子は,反射的に,近くにあった大きな岩の後ろでうずくまり、隠れた。すると,恐ろしい声が聞こえて来た。海竜の声だった。


海竜の恐ろしい声を聞くと,浪子は,岩の影から出るのは,ためらったが,海竜に出会わないと,真珠を持っているかどうか,確認するのは,難しい。


浪子は,勇気を振り絞って,岩の影から出て,海竜の姿をランタンで照らした。


海竜は,20メートル近くの大きな体で,頭が三つもあった。三つの頭のそれぞれの口の中から,長い牙が伸び,蛇のような舌を出していた。手からも,長くて鋭い爪が伸び,ランタンの灯りに照らされ,ギラギラと光った。


浪子は,悪夢に出てくるような格好の海竜を見て,体が恐怖でおののいた。


海竜は,いきなりランタンの灯りに照らされて,一瞬驚いたが,浪子に気づくと,すぐに向かって来た。


浪子は,ランタンと剣を持って,しっかりと構えた。海竜の三つの頭が次々と襲ってくるのを,剣を必死で振り回し,自分の身を守った。海竜の動きが俊敏で,素早く動き回るから、自分を守るだけで精一杯で,こちらから攻める余裕が全くない。


しかし,海竜との決闘をしばらく続けていると,海竜の動きをある程度予測できるようになり,もう少し積極的に出る余裕ができて来た。体のおののきが武者振るいへと変わり,血がたぎった。

「やっぱり,私は怪獣の娘だった。」と生まれて初めて実感した。


浪子は,ついに,前へ出て,剣で海竜の頭を一つ切り落とした。海竜は,頭を切れられた痛みで,恐ろしい呻き声をあげた。


海竜の体が少し弱って来たと思いきや,頭を切り落とされた傷組から,新しい頭が2本も生え,みるみる大きくて,長く伸びて行った。おぞましい光景だった。


浪子は,ハッとした。海竜の頭を切っても,死なないのだ。それどころか,ますます強くなるだけではないか。やっぱり,勉強不足だ。海の怪獣について,ネッシーにもっと色々訊いておけばよかった。


どうしたら,殺せるのだろう?そう考える間もなく,海竜が4つの頭で,鋭い歯を剥き出しにしてまた向かって来た。


浪子は,必死で海竜の頭以外の部分を切りつけようとしていると,うっかりランタンを落としてしまった。


ランタンが,ちょうど海竜の目に直接当たる角度に,海底に落ちた。ランタンの灯りが目に入ると,海竜を苦しそうに,目を閉じ,体をよじらせた。


「そうか!こんな暗いところに暮らす怪獣だから,光に弱いのか!」

浪子は,海竜がよろめいている間に,慌ててランタンを拾い上げ,わざと海竜の目に向けた。


すると,海竜は,あまりの苦しさに耐え切れなくて,逃げて行った。


海竜が逃げた後,浪子は,海竜の洞窟の中を隈なく探したが,真珠が見つからなかった。諦めて,先に進むことにした。

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