第25話 みんなのキモチ【後編】

○市役所・外観(日替り)


○同・会議室


   中には蒼志、職員、啄三ら漁師、町の人が集まってる。

   (一華ら学生は不在)


職員(若)「今回は失敗って事ですかね…」

町の人「残念だけど、しょーがねえな」

蒼志「……」


   みな表情が暗く空気も重い。

   と、陣川が口を開く。


陣川「本当にそうなのかな?」


   みなの視線が陣川に集まる。


陣川「確かに一華ちゃんはまだビームが出る。土偶に能力を移動させる事は出来なかったのかもしれない。けど移ってないとも言い切れない。それは誰にもわからない」


   蒼志の方を見て。


陣川「確かに、最初この話を聞いた時は突拍子のない話だと思った。とても出来る訳がないと。だが一度動き出すと決めた後、町の雰囲気は変わった。どうにかしたいってみんなが思ってたって事だ。現に協力しようとしてくれた人は大勢いた」


   周りも頷いている。


陣川「私の記憶で、これだけ町が一つになった事はない」


   力強い視線で周りを見渡す陣川。周りも視線で答える。


陣川「あと、こんな言い方すると無責任だと言われるかもしれないが、幸い一華ちゃんはまだビームが出せる。例え土偶が反応しなかったとしても、それで倒せばいい」

蒼志「(顔付きが変わる)」

陣川「今見えてる少しの可能性に、もう少し掛けてみないか?」


   聞いていた周りからも声が上がる。


啄三「そうだ。やろう。まだ終わった訳じゃねえ。五稜郭まで引っぱり込んでみて、初めて結果がわかんだ」

町の人「んだな。せっかく町が一つになろうとしてんだ。この機械を逃す手はねえ」


   陣川の意見でみなが活気付き、蒼志の顔にも笑顔が戻る。

   そんな中、一人浮かない表情でいる一閃いっせん

   そんな一閃を戸倉が見ている。


○町中(夜)


   帰宅中の戸倉。

   と、一華のポスターの前に人影が。

   男が一華のポスターに手を掛けようとしている。


戸倉「ちょっと!」


   男の手が止まる。

   顔が見えて一閃だとわかる。気まずい沈黙。


    ×     ×     ×


   暗がりで話している戸倉と一閃。


一閃「軽蔑するならすりゃあいい。けどな、コレは光家のプライドでもあるんだ」

戸倉「……」

一閃「この町を守ってきたのは光家だ。なのに、一華の為に、光家の為に町を危険に晒すなんて……そんな事、絶対あっちゃならねえ」


   見下した視線を戸倉に向ける。


一閃「あんたにはわからん事だ……」


   吐き捨てるように言い放つ一閃。

   固く口を結んでいた戸倉。ゆっくりと話し出す。


戸倉「勿論、私にはわかりません。光家が背負って来た物の重さ、そのプライドも。到底検討も付きません」

一閃「(鼻で笑う)」

戸倉「ただ、娘を思う父親の気持ちなら、痛い程わかります」

一閃「……(顔色が変わる)」

戸倉「反対なら声を上げればいい。さっきの会議でも出来た筈です。何で何も言わないんですか?」


   一閃を見る戸倉。その視線は厳しい。


戸倉「わざわざあんな事しなくても、この計画に不安を持ってる人は他にもいる。その人達と一緒に言えばいいんだ。何でそうしないんですか?」

一閃「……」

戸倉「ずっと見て来たからじゃないんですか?」


   下を向き、目を合わせようとしない一閃。


戸倉「今、この町を守っているのはあなたじゃない」


   俯いている一閃。その肩が少し震えている。


戸倉「この町は変わろうとしている。人は変わっていくんです」


   戸倉の一閃に向けられた視線は厳しく。しかし優しい。


戸倉「普通の父親に、もうなってもいいんじゃないですか?」


   震えている一閃の肩。その肩に手をやる戸倉。

   夜道に小さな嗚咽おえつが響いている。

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