幕間13.5話 有名ごぶすれ的な話☆



 ※





 迷宮の階段を昇りながらゼンは、つくづくこの迷宮(ダンジョン)という不思議空間について考える。


 見え上げる程の大岩だからといって、このように広い迷宮が内部にあるのはそもそもおかしい。


 広さもそうだが高さも。


 十階という高さは、あの外から見た大岩の大きさを当たり前に越えている。


 前にアリシアに講義してもらった、中が別空間だというのは本当に納得の理不尽さだ。


 それに、そもそも広いとはいえ、こんな密閉空間に魔物が常に一定数いるのも明らかにおかしい。彼等は何を食料として生きているのか。


 仮に、倒した冒険者の肉を食っているとしても、このロックゲート 岩の門は稼ぎの少ない、フェルズの冒険者からは避けられ気味の不人気迷宮だ。


 今現在、ここを攻略しているのは、西風旅団を除くと、わずかに2パーティーしか探索に来ていないと、前に素材や魔石の買い取りをしてくれたギルド職員が言っていた。


 実際、その2パーティーと遭遇した事は一度もないのだが、仮にそのパーティーに数人の被害者がいて、魔物に食料としての肉を提供していたとしても、このそれなりに広大な(他の迷宮はもっと広いらしい)迷宮(ダンジョン)をまかなえる量の食料とならないのは明白だ。


 それとも、魔物は共食いしたり、あるいは違う種の魔物を捕食している?


 ギルドでは、そんな話聞いた事もない。


 飲み水だって、どうしているというのか。


 スラムで飲料水の確保に苦労していたゼンとしては、とても気になる話なのだ。


 いつものように安全地帯で休憩に入った仲間達(この単語が使える様になったのをゼンは密かに喜んでいた)に尋ねると、何故か笑われた。


 馬鹿にしている訳ではなく、微笑ましい、といった様子だ。


「ゼンは面白い事気にするんだな。学者肌というか……」


「まあ、常識とは違う場所だから、常識的な知識を持っている人には気になってもおかしくないでしょ」


「探求心を持つのはいい事だ。冒険者を目指してるんだから、それはそれでいいのさ」


「うんうん。ゼン君は今や冒険者見習いだからね。色々講義していかないと」


 と、一通りの感想が出た後で、ゼンの疑問への授業が始まる。


 教師役は今回、冒険者養成所卒業生のラルクスだ。


「つまり、迷宮内の魔物は、正しい意味ではもう生き物じゃないのさ。


 外にいる魔物とは見た目同じでも、まったく別物。


 攻撃方法とかは同じだが、形と中身が同じ実体のある影、とでも表現するのが正しいのか、だから食事も排泄もなし。それに交尾して、子供を産んで増える訳でもない」


「ふむう……」


 ゼンはその意味を頭の中でよく考え、理解しようとしている。


「ちょっと、そういう話はまだ早いんじゃない?」


「?オレ、分かるよ。スラムはひどい所だから、女の人は基本、住居している廃屋の外にはなるべく出ない出さない。別に詳しく描写しないけど、基本ひどい目に合うからね」


 聞いたサリサリサや、顔を赤くしてうつむいているアリシアよりも、余程ゼンの方が大人であった。


「そういう話のついでだ。女の冒険者は、外での冒険よりも迷宮(ダンジョン)の探索の方を好む。何故か分かるか?」


「……素材の剥ぎ取りとかで血を見ないで済むし、面倒な作業がないからじゃなかった?」


「それは、基本男も女も一緒だ。理由は、ゴブリンやオークなんかが代表的な例かな」


「……?」


「ゼンは知らないか。オークやゴブリンには男……オスしか生まれない。


 そういう種族の魔物なんだ。


 それが自分の一族を増やすのにどうするかと言うと、他種族のメスの腹を借りる……いや、こんな生ぬるい表現じゃダメか。


 つまり、他の人種族のメス……女をさらって巣に持ち帰り監禁して、……で増やすのさ」


 ラルクスも女性陣の目が怖い。直接的な描写は避けた。


 ゼンは普通に感心して頷いている。


「だから、人種(ひとしゅ)族はどこの者でも、このての魔物を見つけたら絶対殲滅対象だ。


 洞窟に巣を作ったり、集落を作っていたりしたら最悪だ。


 見つけ次第、ギルドに連絡が行って、大規模な討伐隊が組まれる。


 俺達も最初……この話はいいか。


 ともかく、そうして殲滅して、その巣なり村なりを調べると、そこにはほぼ絶対、女が何人か捕まっている”養殖所”がある。


 当然救助するが、大抵正気じゃなくなっている。


 これは、教会で記憶消去や改変をしてなんとか癒すんだが、それはそれとして」


 余り気分のいい話ではない。早々に切り上げる。


「で、迷宮(ダンジョン)の話に戻ると、ここみたいな『試練』の迷宮(ダンジョン)内にいる、オークやコボルドは……このロックゲート 岩の門に丁度2種族ともいるが……は、女を襲ったりさらったりもしない。


 そういう意味で、女性には安全なのは迷宮(ダンジョン)なのさ。と言っても、攻撃して来ない訳じゃないが」


 ラルクスはわざとらしく肩をすくめてみせる。


「だがそれは、迷宮(ダンジョン)では種族的特徴を使っての戦略、作戦は使えない、と言う事にもなる。


 外でなら、女の匂いをオトリにして罠に追い込んだり、とか色々手があるんだが、迷宮(ダンジョン)ではもう正攻法で戦うしかない、と、こっちは余談か」


「そうなんだ。全然知らなかった」


 ゼンはただただ感心するばかりだ。


「覚えておいて損はないどころじゃない……冒険者の必須知識だな。


 外でこういう特徴の魔物を見つけたら、そいつが子供で可哀想、とかいう無意味で頭からっぽな感情論で見逃したりしたら駄目だ。


 赤子だろうと卵だろうと全部つぶす。これは冒険者の絶対義務だな……。


 これぐらいでこの話はやめるから、そんなににらむなよ。リーダー何か言ってくれ……」


「ああ、うん。二人とも仕方ないだろう。


 これ本当に必須条件だぞ。


 J級……最下級から始めるなら、筆記の試験で必ず出る問題だ」


「でも、ねぇ……」


 顔を見合わせて嫌な顔をする二人。


 二人は美人であるだけに、こういう話には過敏なのかもしれない。


「アリシアだっていつか、リュウさんの子供産むんでしょ?二人の家族計画に口出す人はいないんだろうけど……」


 ゼンがポロっととんでもない話を口にする。


「な、なななななな何言ってるのかな、ゼン君は!」


 アリシアは真っ赤な顔をして立ち上がると、普段ほとんど使わない金属製の棍棒(メイス)を取り出し、ゼンに対して、鋭い突きを繰り出し始めた。


 もうどうやら完全に我を忘れている(笑)。


 ゼンも立ち上がり、素早く避けているが、かなりの速度で身体の近くをかすめていく、魔物を殺傷する為につくられた凶器に珍しく冷や汗を隠せないでいる。


「…あの……オレ、何か…怒らせ…る事、言った?」


「ももももっもう、この子ってば、オマセさんなんだから!」


 アリシは、基本神術による回復、補助がメインの役をになっているが、それは決して、武器による近接戦闘が出来ないわけではない。


 むしろそちらも成績優秀で、そこら辺をうろつく雑魚モンスター程度なら軽く撲殺出来る実力の持ち主だった。


「誰か、そろそろ止めないと、あの子に殺人の前科がつく事になるわよ……」


 サリサリサは普通に腕力のない魔術師なので、下手に止めに入って親友に殺されたくはない。


 ゼンだからこそ躱(かわ)せているが、普通ならよくて重症コースだ。


「あ、ああ……、そうか、ちょっといきなり過ぎて、呆気にとられてしまった……」


 やっとリュウエンとラルクスが、ジリジリと背後からアリシアを止めようと動き出したが、その二人もかなり冷や汗が止まらない見事な連続突きだ。


「あの娘(こ)って、恋愛事でからかうの、NGなのよね。


 すぐに頭に血が昇って、とんでもない事やらかすから。


 そういえば、ゼンに話していなかったわね……」


 サリサさん、事前に話してやって下さい。


 主人公最大の危機です……。



 そんなこんなで、西風旅団とゼンの迷宮探索は楽しく(?)進むのであった。











*******

オマケ

リ「な、なんとか止められた……」

ラ「なんでお前の彼女は、攻撃面まで優秀なんだよ、やめてくれ……」

サ「さ、落ち着いた?水でも飲んで、深呼吸して」

ア「う、うん~。もしかして、なんか変な事した?カアっとすると、記憶飛ぶ時あって、困る~~」


(困るのはアリシア以外の全員だ!と心の中で3人は激しくツッコんだ)


ゼ「……」(黙って、顔にある擦り傷を拭いている)

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