第13話 また帽子ですか?

 翌日は土曜日。


「おはようございます」


 誰に言ってるんだか。

 軽くシャワーして、普段着に着替えた。今日は図書館までウォーキングだ。


「あ、いや、もしかして夢だったり?」


 気になったのだが、昨夜脱いで放り出していた服を拾った際に、ポケットからしっとり湿った財布と蝋で封をした小瓶、それから一切れ残していたパウンドケーキが出てきたので、現実だったことが判明した。


 パウンドケーキは冷蔵庫に入れ、代わりに食パンと牛乳を出して、軽い朝食にした。

 図書館までは徒歩で一時間程の距離だ。電車内の人混みが苦手なので、健康のためと言う理由をグイッと付けて歩き出した。


 図書館に着いたのは10時頃。昨夜の雨はすっかり止んでいたので、快適に歩くことができた。駐輪場では、俺の自転車が待っていてくれたが、その前にそこを通り過ぎて裏に向かう。

 あの図書館は、もう跡形もなかった。裏通り沿いの生け垣と、木のベンチがいつものようにあるだけだ。


「でも、実際にあったんだよなぁ」


 人には言えないな。うん、言えない。あの異世界好きな友人にも、言ったら後が大変そうだしな。

 そして、表に回ると図書館に入り、おじさんに挨拶に行った。自動ドアが開くと、すぐに気付いたようで、ニッコリすると、手招きしてきた。


「おはようございます」

「おはようございます。早いお越しですね」

「昨日はお世話になりました。自動ドア、直ったんですね」

「いいえ、ご迷惑をお掛けしたのはこちらですから、お気遣いなく。自動ドアは、開館前に修理して貰いましたので、もう大丈夫ですよ」


 挨拶を終えると、ちょっと気になっていた二階の例の閲覧席を目指す。俺のお気に入りの部屋の向かい側だ。翡翠さんお気に入りの。


「あ、失礼しました!」


 別の人がいた。小さな男の子ととお母さん。こちら側の閲覧席は、少し広くて、二人座れるようになっている。

 そこから離れようと歩き出したのだが、後ろからパタパタと軽い足音が近付いて来る。


「お兄さん、お兄さん、落とし物だよ!」


 先程の男の子が、何かを手に走って来るところだった。しゃがんで受け取ったが、驚きで止まってしまった。出した手に乗せられたのは、あの帽子だったからだ。


「あ、ありがとう」


 受け取ると、男の子は「バイバ~イ」と手を降って閲覧席に戻って行った。


「これを、どーしろと?」

「持っていてくれても良いそうですよ」

「わっ!驚いたぁ~」


 すぐ後ろにおじさんが立っていた。本を積んだワゴンを押している。本を戻しているところのようだ。

 おじさんに帽子を渡そうとする手を、グイ~ッと俺の方に押し戻してくる。


 まあ、良いか。またいつか会えるだろうと、何故か思い、それをウエストポーチに入れた。そして、その日は図書館を出て、自転車を回収して、スーパーマーケットで食材を買い込み帰宅した。


 帽子は、昨日と同じく淡く光っていた。これ、エルブさんのだよな?いくつ持ってるんだろう?これも予備のかな?


 その夜、じいちゃんからのメールで驚くことになる。

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