第7話 また扉ですか?

 どのくらい歩いただろう。

 もう、何日も飲まず食わずで進み続けている。


 な訳はなく、歩いたのはまだ1分くらいだ。何故か、閉じたはずの観音開きの扉は歩き出すとまた消えた。


「帰れないじゃな~い」


 ……うつったじゃありませんか、翡翠さん。


 外から見た感じだと、もうこの辺りは外のはずなんだけど、まだまだずーっと廊下が続いているところを見ると、アレだな、アレ。まあ、いいや、ご褒美だしな!……てコトで。


 歩いてりゃ分かるらしいので、とりあえず歩く!俺、結構ポジティブ!

 廊下はよく見ると、真っ直ぐではなく、それと気付かないくらいにゆる~く右側にカーブしていた。それに、何となく上り坂になっているような感じがする。

 両脇に並ぶ扉は、色々な形をしている。この図書館(?)のようにレトロな木の扉もあれば、トイレの扉みたいなのもあった。ドアノブ横の小さい穴が赤くて、扉の小窓が明るかったから、使用中だったのかな?俺?まだ大丈夫。


「これは……」


 はい、自動ドアでした。

 前に立っても開かないので、ここではないのが判明。先に進もう。


「おお♪」


『男湯』と書いてある。向かい側には『女湯』だ。明かりがついているし、中からザバ~ッて音も聞こえるのだが。


「開かない。残念」


 中には、どうしろと言うんだ?みたいな扉もあった。


「俺はアリスじゃないし」


 高さ15㎝程しかない扉。そして開かない。これでもないようだ。あ、不思議の国のアリスくらいは知ってるよ。


 障子もあった。やっぱり開かないので、穴を開けてやろうとしたが、突き指するかと思ったわ!障子紙のくせにびくともしなかった。


 そんなこんなで、寄り道しながら進むこと約20分。まだまだ廊下は続いていたが、中から漏れる明かりがひときわ強い扉が少し先に見えてきた。あれかも知れない。ちょっぴり小走りになり、廊下の右側にあるそこに向かった。


「ここで間違いないようだな」


 そこにあったのは、白く塗られた木の扉だった。目の高さより少し上に、小さな窓が付いている。そこや、扉下の隙間から強い光がもれている。

 何故、間違いないと言えたのか?

 だって、扉の横に立てられている、ホテルや旅館でよく見られる黒いボードに『熱烈歓迎! 水瀬 一樹様』なんて書かれているんだもん。


「恥ずかしいわー」


 見回しても誰もいないのだが、それでも恥ずかしい。無意識に声が出ていたんだろう。


「おや、やっと来られましたね」


 声がしたのは扉の方。

 に、向いたものの。


「はい……あれ?いない?」

「もう少し上を見てもらえますか」


 もう少し上と言うと、あの小窓か?


「そうですよ、こちらです」


 もう慣れたわ……


「え!?」


 想像していたのは、小窓から覗く人の顔。声が出てしまったのは、それを裏切る光景を見たからだ。だって、小窓に見えたのは。


「人形?」

「違います!」

「しゃべった!」

「そりゃ、しゃべりますよ」


 小窓から顔ではなく、小窓を開けて立っている……


「小人?」

「ムッ、まあ良いでしょう。あなたから見るとそうでしょうから」

「あ、スミマセン」

「大丈夫です。翡翠から連絡が来ています。水瀬様ですね?」


 つい、無言で頷いてしまった。子供か?

 それを見た小人さん(?)が、小窓の向こうに消えると、すぐに扉がゆっくりと開いた。

 扉の向こうから「どうぞ」と声がかけられたので、恐る恐る中に入った。





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