第10話 獣人視点
「昨日の婚約パーティーでアドラー伯爵令嬢がウェルツナー子爵令嬢のドレスにワインをかけたらしい」
「婚約破棄の嫌がらせ?女って怖いなぁ」
「番が見つかったのにわざわざ他の女と結婚する必要はないよな。人族にはどうしてそれが分からないんだ」
「仕方がない。奴らはリアリズムだからな。『運命』が理解できないのさ」
そう言ってゲラゲラ笑っている一方で
「ウェルツナー子爵令嬢がアドラー伯爵令嬢のよからぬ噂を広めているらしい」
「ウェルツナー子爵令嬢は不安なんだろうな。番をとられるのではないかと。番に会えただけでも奇跡なのに、そいつは侯爵家。玉の輿じゃないか。本人もその家族も何としてでも番を繋ぎ止めようとしてるんだろう」
「だが彼女のやり方は気に入らない。彼女は子爵令嬢だ。彼女に賛同する奴らも含めて、獣人の品位が疑われる言動は慎んでもらいたい」
獣人の一人が不快げに眉を寄せる。
既に弊害が出ているのだ。
獣人の何人か、特にウェルツナー子爵令嬢の味方をした獣人は漏れなく婚約破棄を人族の方から言われているらしい。
婚約は家同士の問題なので全てが円満に解決するはずもなく、泥沼化している家もある。
あるいは親が許さず、お互いに微妙な距離のまま関係を続けている人もいる。
「私も婚約者に冷めた目で見られている」
深いため息をついた獣人の耳がいつもは上を向いているのに今は下を向いていた。
いつ婚約破棄を言い渡されるか気がきではないのだろう。
「アドラー伯爵令嬢の味方をしよう」
徐に獣人の一人が言った。
「彼女を援護して、ウェルツナー子爵令嬢から守っている所を見せて、自分は彼女たちとは違うということを示そう」
それを聞いた獣人たちは思案し、頷いた。
「あいつらと一括りにされるのは御免だ」
「こんなことで巻き添えを食いたくもないしな」
そしてセイレーンの知らないところで味方ができた。
それが吉と出るか凶と出るかは彼らの活躍次第だろう。
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