第4話 恐るべきメガネの力

「ガキ、まさかその使いものにならないような剣で戦う気か? ……おい、実力差ってもんがわかってないのか? 」

「……あなたと対等に戦えると確信して、僕は強い言葉を使ったんです。いまさら引きませんし、この剣は僕にとっては十分強い剣です」


線で囲まれただけの闘技場、<バトルゾーン>。俺はここで、<新人狩り>こと剣士バーンと対峙している。通りすがりにぶつかってしまい、因縁をつけられ、そこに俺が強気で乗ってしまったがために、こういった状況になっている。


「……ヴィネット、お前のこと信じているからな」


俺は魔神にむけて小声で告ぐ。


(何を言っとるんじゃい、信じていいのは自分自身だけじゃ。言葉の威勢をそのままに、メガネの力を存分に発揮するといい)


俺はこくりと頷くと、剣を引いてバーンと同じように構えた。


「無様な構えだ。てっきり、他のゲームでもやっていたのかと思ったが、そうでもなさそううだな。なるほど、その自信は根拠がなさそうだな」

「根拠なんて、どうだっていいじゃないですか。僕は、自分を信じるだけです」

「若いな。若さゆえの過ちといったところか。初期装備は何かわからないが、大した問題ではない」


バーンは、こちらの方向へ突きつけていた剣をおろし、もう一度勢いよく突きつける。剣が力強く風を斬り、互いの髪を揺らす。


「宣言しよう、私は10秒でお前を倒す。攻撃するのは一回だけだ。その一発で決めよう」


辺りがざわめきはじめる。”10秒”という時間に、反応しているようだった。


「兄貴、10秒は長くないですか? こんなガキなんて、3秒あれば……」

「ふつうなら、そうかもしれない。だが、あいつはやはり妙だ。何か策があるかもしれない…… いや、本当は生意気なガキをより長い時間苦しめたいだけだがなッ!! 今に泣き喚かせてやろう!!」


一度目を閉じ、呼吸を整えるバーン。こちらも、気持ちを落ち着けさせていく。


「おい、カイム。お前がこの試合を取り持て。どちらかが降参するか、戦闘不能になった時点で戦いは終わりだ。安心しな、体力がゼロになっても3時間ログイン不能になるだけだからよ」

「兄貴、寸止めではないのですか?」


カイムと呼ばれた男は、はじめにみかけた取り巻きのひとりのように見えた。やせこけた体と、いかにも弱そうな顔、きっと間違いないだろう。


「私は、こいつがなんだか腹立たしいと思っている。だからこそ、タブーといわれるHP全損も、容赦なしだ…… 話が長くなったな。はじめるぞ」


俺は、震える手で剣を握る。足もガタガタしてまともに立っていられるかどうか怪しい。


対するバーンは、余裕そうだった。左手を前に差し出し、右腕をひねって剣を後ろで構えている。大型の剣ではあるが、体が一切ブレていない。


「<灼熱地獄バーニングインフェルノ>、燃えよ!!」


バーンがそういうと、剣から炎がひとりでに出てきた。紅い炎と青い炎が混じっている。かなり温度が高いものなのだろう。黒煙が風にたなびいて上へと伸びる。


「初心者であるお前には、これを使う前に終わってしまうかもしれないな。10秒たったら、最大火力で焼き払ってやろう」


ウォーリアーズ・オンラインでは血が出たりすることはないし、斬られた痛みもある程度は制限されている。とはいえ、あの炎に斬られれば少しは熱いだろう。


「では、両者構えて……はじめ!!」


一発目から、バーンは走り込み、剣を強く振るおうとする。胴体を切りつけようとする攻撃。剣のスピードが速すぎて、観衆にはまったく剣筋が見えない。


「このスピードの攻撃に、10秒間耐えられるかな?」


攻撃が、見えない。避けようにも、どうすれば……?


(<攻撃予測>じゃ。それを使うのじゃ)


ヴィネットの声だ。


「使うって、どうやって」


(詠唱は必要ない。とにかく、そのメガネを通じてみようとすればいいのじゃ。その意思が、<攻撃予測>を稼働させる)


後ろに下がっていったが、もうそろそ限界に近い。


「使おうとする、意思……」


俺は、もう一度しっかりと攻撃を見ていく。

すると、なんとも不思議なことがおこった。


相手の動きが、どんどんスローになっていく。

そして、軌道が読める。


赤いレーザーのようなものの軌道によって、次の剣の動きがわかる。いわば細い糸によって、剣の動きは張り巡らされているようなものだ。


「これなら……!!」


体をうまくそらし、剣の軌道の隙をついて、相手の後ろをとる。相手の動きはスローだが、どうやらこちらは通常の速さで動けるらしい。


「な、馬鹿な?」


俺は、ブライを蹴り、低くなった頭に一発、左の拳を入れてやった。

無様に、ブライは倒れる。すかさず彼は<灼熱地獄バーニングインフェルノ>の炎を自らの意思で消す。


「どういうことだ…… 今何が起こった…… わからない、おまえが何をしたのか、一切理解できなかった」


よもや、このメガネの能力だとはわからないだろう。ただのファッションとして彼は捉えているはずだ。


理解できないであろう力を目の当たりにして、バーンから徐々に威勢が消えていったように感じた。あいつは、倒せる相手なのかもしれない。


「5秒経過しました。あと半分しか時間は残っていませんよ?」

「ガキが…… 得体のしれないものを使いやがって…… もういい、さっさとくたばりやがれ!!」


バーンは片手で反動をつけ、一瞬にして体勢を立て直す。もう一度剣に炎を宿し、こちらに斬りかかろうとしてきた。


すかさず、<攻撃予測>を使う。避けられるルートは、なかった。あの重量からは想像し難いスピードで、逃げ道を塞ぐらしい。


今度こそ、負けてしまうかもしれない……


(お主はまだ、<魔法のコピー>と<相手の行動停止>という能力があるじゃろう。一か八か、使ってみるのじゃ!!)


そうだ。まだチートと呼べるような力は残っている。


「<時間停止タイムストップ>!!」


時が、止まる。とはいっても、相手の動きがさらに遅くなった程度だ。持続時間は、のこり数秒というところ。


複製コピー!!」


俺はすかさず、相手の<灼熱地獄バーニングインフェルノ>をコピーする。


コピー先は、<はじまりの剣>。


耐久が持つかわからないが、ここに賭けるしかない。


炎をまとった剣を、彼の首元を狙って。


「<灼熱地獄バーニングインフェルノ!!>」


それを打ち込むと、時は動き出した。


「何ッ!!」


彼は、己の首に剣技が入ったことを自覚した。剣が手から離れ、大きく後ろに体が飛ばされる。


「なぜ、なぜ私の力が」


彼の体力ゲージを確認する。残り数ミリといったところだ。こちらも、同等に体力はないに等しい。


「では、バーンさん。負けを認めてもらえますか?」

「この俺が、こんな初心者のガキに負けただと? 断じてありえない。こんな勝負、無効だ!!」

「みなさんはこの勝負、どう思いますかね」


俺は観衆に問いかける。バーンを擁護するものは、誰ひとりいなかった。


「そんなはずは……」

「大人として、一流の剣士としてその態度は恥ずかしくないんですか?」


そういうと、バーンは諦めたらしい。


「本当に、申し訳ありませんでした……」

「いいんですよ、わかれば。なので今すぐ、奪ったものをすべて返してください。それがあなたのなすべきことだと思いますから」

「すみませんでした、すみませんでした」


力の差を目の当たりにしたバーンは、うってかわって下手したてに出ていた。


「わかればいいんです。じゃあ、審判の方、これで戦いは終わったので」

「しょ、勝者。駆け出しのプレイヤー!!」


観衆たちは、歓声ではなく、今見たものが信じられないかのような反応を示していた。


















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