第1話ー5

 暴れ黒牛が土煙を上げながらカルマちゃんと女の子めがけてつ込んでくる。

 カルマちゃん1人ならば避けれただろうが、俺様のマスターであるカルマちゃんが女の子を見捨てるはずがない。

 カルマちゃんはペンダント状態の俺様を握り締めた。


「させるかああああああああああ!」

 そこにさっきの短足の怪しい男が、カルマちゃんと暴れ牛の間に割り込んできてバトルアックスを掲げた。

「ロッキーさん」

「男ロッキーただいま参上。任せておけ。暴れ牛など一捻りだ」

 さすがに正義の冒険者と言うだけはあってやることはやるようだ。

 俺様的にはうさん臭さが抜けないが。

「ロッキーさん気を付けてください」

「安心しな、今晩はビーフステーキだぜ」

 そう叫ぶとロッキーは先頭の暴れ牛の頭にバトルアックスを振り下ろす。

「ふっ、――――ッてなにぃいいいいい土煙の中からもう一頭の牛だとおおおおおおおおおおお!」

 そう、先頭の――――である。

 しかし、その二頭目の牛も何とか首を落として倒すことができたロッキー。

「まだです。ロッキーさん」

「なにぃぃぃぃぃぃぃ!三頭目だとおおおぉぉぉぉぉ!」

 ふみっ!

「うごぉお、俺を踏み台にしただと!」

 ロッキーの奮戦も悲しいかな、最後の一頭に抜けられてしまった。

 その暴れ牛の脅威の前に女の子は腰がすくんで座り込んでしまっていた。


 だが。


 だが女の子の前にはもう一人立ちふさがるモノが居た。

 その名はカルマ。

 俺様を生み出した天才少女だ。

 だが、彼女に何ができる。

 ウサギを狩るにもブラスターを玉切れにした彼女に。

 しかし、彼女は怯むひるむことも怯えるおびえることもなく立ちふさがる。

 その手には胸にぶら下がる俺様があった。

 おもちゃの俺様が何の役に立つのか分からないが、マスターの勇気には感服するものだ。

 こんな最後でもあなたは俺様が誇れるご主人様だったよ。

 

「ザックカリバアアアアアアアアアアア!」

 そんな風に思っていたらカルマちゃんは俺様をハルバートモードにして大上段から振り下ろした。

 その一撃は牛を頭からケツまで真っ二つにするだけじゃなく地面にもやすやす食い込んでいた。

 あれ?

 俺様っておもちゃだよね。その割には重すぎね?

 そう思いたいが、切り裂かれた牛はカルマちゃんと女の娘をすり抜けて背後に飛んでいく。

 もちろん、カルマちゃんにも女の子にもかすり傷一つ付いていない。どころか返り血すらついてはいなかった。

 俺様たちの背後にすべって行って初めて血しぶきを上げた牛から今の斬撃がどれほどのものか分かるだろ。

 俺様おもちゃじゃないじゃん。


「お母さん」

「あぁ、無事でよかった」

 人垣から女の子の母親が飛び出してきて女の子を抱きしめる。

「どこのどなたかは存じませんが娘を助けていただきありがとうございます」

「いえいえ、私一人の働きではないですよ。ロッキーさんの――って、ロッキーさん無事ですか」

 カルマちゃんが健気にも心配してやると、牛に顔をふまれて足形が付いたロッキーがやって来る。

「おう、当たり前よ。ちょっとオジサンのイケメンが崩れちまったがな」

 元から崩れていただろう。そう思ったが口にしないでおいた。

 意外といいやつではあるみたいだ。


「ところで嬢ちゃん」

「何ですか?」

「いい武器もってるじゃねーか」

 ぴくっ。

「そうでしょう。ザックカリバーていって、私の大切な家族なんです。」

「家族か。なるほどな。さっき喋っていたのはお前だな。インテリジェンスアームってやつか」

「…………」

「そう警戒しなさんなってえ。別に取って食おうなんてしないからよ」

「インテリジェンスアーム?」

「おう、意志をもってしゃべる武器のことだよ」

「なるほど、ならザックはそうなりま」

「へぇ、ザックか。ヨロシクな。」

「…………」

「こらザック、挨拶は?」

「よろしくな」

「かはははは、これは警戒されちまったかな。ところで嬢ちゃん」

「はい」

「さっきの見事な一撃といい、そんな御大層な武器を持っているところからして、実は冒険者だろ」


「冒険者?ですか」

 カルマちゃんが頭にはてなを浮かべながら答える。

「なんだ違うのか」

「はい。私は故郷を失って、こちらに来たばかりですから」

「そうなのかい」

 カルマちゃんの説明でばつが悪そうにうなづくロッキー。

「ソレはあれかい。星が降った日の厄災のせいかい」

「星が降った日の――厄災?」

「知らないのかい」

「知ってます。あれですよね、13の星が降った奴」

「ん?13じゃなくて14だったはずだぞ。実はこの辺りにも落ちたらしい」

 それってカルマちゃんの乗った脱出ポッド。

 つまり俺様のことじゃん。

「あれれ、13じゃなくて14だったっけ?」

 カルマちゃんは気づいていないのか。

 出来ればボロを出してほしくない。

「なにはともあれ、星が落ちた後から魔物は凶暴化するし天変地異が起きたとかも聞く。まぁ、星が落ちた時点で天変地異なんだけどな。それで嬢ちゃん。故郷を失ったっていうなら行く当てはあるのかい」

「いいえ。この辺りのことも詳しくなくて」

「ならば冒険者なろうぜ。嬢ちゃんならすぐ大活躍だ」

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