第42話 カイナ村でお買い物

 カイナ村・・・織物の村、カイナ村にやっとの思いで着いた。

 そこは山間やまあいに出来た村で人口は500人程度が住み暮らしている。

 この世界ではこれでも大規模な村である。

 住んでいる住民の人種的には巨人族の末裔だという。

 巨人族は亜人種とはいうものの神の末裔と言う触れ込みだ。


 村に着いて驚いた流石に巨人族の末裔と言われるだけはある。

 人類の平均身長が150センチ程なのに対してこの村の住人の平均身長が2メートル程だ。

 カイナ村の家い家は巨人族の村と言われるだけあって、遠くからではわからなかったが近づくにつれて家の大きさがわかる。・・・と言っても、この世界の住人が小さいのだ!やっと俺が腰をかがめないで安心して家々の玄関をくぐることが出来そうだ。


 この村の特産品の織物は女性達の仕事で、男性は体が大きく力も強い事から樵や大工仕事を主にしている。

 そのうえ巨体の割には俊敏であり、狩人や戦士としても優秀で、傭兵や場合によってはアンドレのように騎士団に入団する者も多い。


 今まで何本もの巨木が

『メリメリメリ』

と言う音と共に倒され、その巨木が土煙をあげて倒されるたびにカイナ村に近づいてくるのが見えていたのだ。

 カイナ村側から当然何事かと樵や猟師をやっている者に自体把握のためにその方向に派遣した。・・・斥候のようなものだ。


 最初に彼等がもたらしてきたのは

「100頭以上にものぼる巨大牛の群れが3頭の地竜の赤子に追われるようにカイナ村に近づいてくる。」

というものだ。

 カイナ村ではそれを聞いて即座に臨戦態勢に入ったが次の斥候が

「100頭以上の巨大牛の群れの中でひときわ大きな巨大雌牛の背に小屋が載っており、その小屋の主が巨大牛の群れを統制しているようだ。

 また3頭の地竜の赤子の背にも小屋が載っており、巨大雌牛と同様に小屋の主があやつっているようだ。

 その群れの後ろに3台の馬車と替え馬か4頭の馬ががついて来ており、その馬車の馭者はエルフ族とドワーフ族の女性達だった。」

というものだ。


 次に報告が入ったのは

「巨大雌牛の背中の小屋の主は巨人族に負けない大男で、地竜の赤子の背の小屋の主の一人は黒髪の女性でアンドレが言っていた女性の勇者様とそのお付きの大男では無いか?」

と言うものでカイナ村では

「ホッ」

とした空気は流れたが、これだけの巨大魔獣が向かって来るのだ、臨戦態勢のままアンドレを中心に俺達が村道に出てくるところで待ち構えていた。


 カイナ村から地方領主の館へと続く村道に出るための最後の巨木をエルフ族の女性達が木魔法で

『メリメリメリ』

と倒される。

 倒された巨木の後ろから巨大牛の群れや見た目もおどろおどろしい3匹の地竜の赤子が姿を表した。

 アンドレによって地竜の赤子の背には召喚された女性勇者の真が乗り、巨大雌牛の上に俺が乗っているのが最終確認されたのだ。

 俺を確認した大男のアンドレがドタバタと俺に向かって駆け寄ってきた。


 大男のアンドレと言っても、アマエリヤ帝国で出会った人達の中では大男に分類されるが、この村では小柄な方だ。

 それでもアンドレの身長は170センチ程で嬉しそうに巨大雌牛から降りた俺に抱き付いてきた。・・・う~ん男に抱かれて喜ぶ趣味は俺には無いのだが。


 その樵のアンドレが開口一番

「来てくれたのは嬉しいが、この恐ろしい巨大なトカゲと小山なような牛たちを村へ連れて入るわけにはいかない。

 何とかならないか。」

と言うのだ。


 気持ちはわかる

「村はずれで俺達が今まで通り野宿する。

 地竜の赤子や巨大牛の群れは責任を持って管理する。」

と言うことで何とか他の村人達にも納得してもらえた。


 その後アンドレが

「俺の家族に会わせる。」

と言ってカイナ村の中でも一際ひときわ大きな家・・・屋敷に連れられてきた。

 屋敷にはアンドレより30センチも背の高い父親とアンドレと同じ背の高さの母親が待ち受けており、二人をアンドレが引き合わせてくれた。


 父親はこの村の村長で、母親は織物協会の会長だそうだ。

 体の大きな母親は俺に向かって

「織物協会の会長なので何かとこの村での買い物に便宜を図ってあげる。」

といってくれた。


 父親は

「村の村長だというが、普通村の村長は本来ならこの地方の領主、伯爵様が任命した代官(通常子爵か男爵)が村に来て統治を行うのだ。

 神の末裔だと言っても、亜人種に分類される巨人族の住むカイナ村なので、伯爵様配下の者が亜人蔑視あじんべっしの感情からこの村の代官の任官を嫌がり、もしも任官したとしても村に来ないのだ。

 それで巨人族の代表者の私を村長に任命して、正式な爵位ではないが名誉職の騎士爵に叙爵(爵位を与えること)されているのだ。


 名誉職の騎士爵の叙爵式などは無い!

 地方領主が推薦状と任命書をアマエリヤ帝国に送り、アマエリヤ帝国の皇帝から紙切れ一枚が送りつけられるだけだ。・・・その紙切れも誰かが代書したものだかわからない代物だ。

 村長の仕事と言っても領主の代わりに税金の徴収をするだけが主な仕事なのだ。」

自嘲的じちょうてきに語ってくれた。


 ついでに大男のアンドレは兄弟達を引き合わせてくれた。

 アンドレの一家は子宝に恵まれており、5男3女でアンドレは男兄弟の末子で男兄弟の中でも一番背が低かった。

 女の子達は年子で一番上が10歳になるかならないかだ。・・・アンドレ一家も巨人族の末裔だそうだ。

 巨人族の特徴は俺達よりも肌の色が少し茶色が濃くて、女の子は成人すると顔の両頬に白い痣のような線が入り、男の子は黒い線が入る。

 一番上の女の子には薄らと白い線が入り始めている。


 巨人族の村での最初の一日は顔合わせの宴会だった。・・・宴会の前にカイナ村の村長達重鎮に渡したドワーフ族の鍛冶師達が造った土産の鉄製の斧は好評であった。

 このカイナ村も石器時代の石斧が主であり鉄製の斧は無い。

 カイナ村の重鎮以外の男性の村人が鉄製の斧の購入に家からなけなしのアマエリヤ帝国の金貨を持ち出して来た。


 一方女性用にと持ってきた大量の台所用品の鉄製の鍋や釜、包丁もまた好評であった。

 今までは料理と言っても焼くことが主であり、鉄製の鍋や釜を手に入れたことから煮るという料理のレパートリーが増えたのだ。


 男性陣は鉄製の斧しか目がいかず、台所用品にまで気がまわらずにいたため、何組もの夫婦の間で、アマエリヤ帝国の金貨を巡って女性陣が手に鉄製の包丁を片手にすごまれていた!

 何処の世界でも女性は強い!

 昔の方が子を産む女性が尊重されて地位も高かったのだ。


 何はともあれ鉄製品を持ち込んだ俺達は歓待され、彼等に招かれた宴会の席で俺は良く飲まされた。


 俺の酒の弱さを知らないか!

 翌日また裸の真が俺のベットに寝ていた。

 また真がニッと口角を上げて笑った。・・・しまった酒で寝落ちしていた。

 まだ朝早い!そう思って真に抱き付いたら頭を叩かれた。

「酒の勢いを借りないと出来ないの!」

と言って泣かれた。・・・本当は今回も抱き付いただけで何も出来なかった。もう酒は抜けているのだが・・・。


 翌日は真達、女性陣の念願の衣類の買い物に付き合わされた。

 アマエリヤ帝国の王都にある商品とまでは言わないが、かなり材質のよい衣類が揃っている。

 出来上がった布製品の大半がこの村の税として物納されるのだ。

 アンドレの母親の織物協会の会長さんがカイナ村の中央にある店を案内してくれた。・・・と言っても村内には織物協会専属の店しかないが、2階建てで下手な小学校の体育館程の広さの店内に古くなった機織り機や反物が山ずみされ、試着用の衣類が置かれている。

 

 女性達の目が爛々と輝いている。

 金はある!・・・ドワーフ族の里から金がいくらでも産出されるのだ。店の商品を全部買ってやると言いたいところだが金の出所を知られるのは不味いかもしれない。


 しかし、女性の買い物には時間がかかる。

 それに元伯爵令嬢のジュオンが試着した自分の姿を見る為に、天使族の双子のアンソワーとアンドリューと額を合わせている。

 天使族の双子は接触テレパスで自分の見たものを見せることが出来るからだ。

 これで更に時間がかかっているのだ。


 真達、女性陣に俺は女性用の下着売り場の一角にまで引きずられてきた。

 真どころかアリアナまで紐のようなエロい下着を見せようとする、それで下着売り場から逃げ出した。・・・俺の後ろから女性陣の笑い声が聞こえる・・・。


 逃げ出して近くにいた男性の店員さんに

「兵士の服装を俺の着ている学生服のようなものに統一したいと思います。」

と伝えたら驚かれた。

 この世界ではほとんどがオーダーメイドなので、既製服や制服を統一するという考えが無かったのだ。


 今彼女達の着ている服は試着用で、気に入ったデザインがあったら、それをもとに体形に合わせてアレンジしながらオーダーメイドで服をつくるそうだ。

 偉そうに全部買ってやる等と思ったが、こ、これでは天文学的な金がかかってしまう!

 砦の住人達の衣服が獣の腰巻や貫頭衣だった理由が良く分かった。


 制服のこと等について俺が悩んでいたら、店を案内してくれたアンドレの母親が声を掛けてくれた。

「餅は餅屋」

だ、金銭的なことも含めて相談することにした。


 基本的には物々交換が主なので、好評だった鉄製品で物々交換でも良いのだが、俺としては出来れば通貨を経済の中心としたい。

 今のところアマエリヤ帝国の金貨が通貨の基本なので、基本的には金本位制の通貨が流通されている事になるのだ。

 俺はポケットに入れてある金塊の入った魔法の袋を思わず握りしめた。


 俺とアンドレの母親の間で商談がはじまった。

 その前に俺の城塞都市とカイナ村との商談についてである。

 問題恬としては、この地方の領主様に俺達の住む城塞都市が税金を払っておらず、俺達と恒常的に売買を続けるのはカイナ村の立場として反乱をうかがわれるのではないかと懸念していかがかという事だ。


 アンドレの母親は笑い飛ばした。・・・う~ん本当に大丈夫か?


 懸念は残るが俺は

「機織り機の購入と機織りの技術者の派遣、それに砦に集まっている浮浪者のような少年兵に統一した制服の製作と、そうだ水着の作製も忘れずにお願いしたい!」

とアンドレの母親と商談の口火を切った。


 今回の目的の一つが今後の事もあるので機織り機の購入だ。

 店内にあった古い機織り機も売り物だと言うので、この古い機織り機を大量購入することにした。

 それとは別に支度金は払うので、カイナ村の住人の中で機織りの技術指導として、機織り職人が城塞都市にこれないか聞いて見たのだ。

 アンドレの母親は

「機織り職人の派遣に心当たりがあるのでしばらく待ってくれ。」

と言って乗り気のようだ。


 次に制服だが、制服と言えば俺の着ている学生服が基本だ。

 アンドレの母親が俺の制服をジッと見つめるといきなり脱がせようとする。

「あ~れ!襲われる!」

貞操の危機だ!

「ちょっと、ちょっと待て、着替えにもう1着学生服を持っている。」

と言って魔法の袋から取り出した学生服をアンドレの母親に渡した。


 今度は俺が描いた水着のデザインをアンドレの母親に見せる。

 男性はボクサータイプで統一だが、女性の水着は色々とエロイデザインが描かれている。・・・ムフフ真やエロフいやエルフのお嬢さんや天使族の二人に着させてみたいムフフフ。・・・いかん!鼻の下が伸びた!


 俺のデザインを見てアンドレの母親が喰いついた。

 男性は越中褌えっちゅうふんどしか六尺褌のようなものしかない。

 下着の革命だ。

 女性の下着も先ほど見た紐のような物程度で、これについては俺はあまり詳しくないので真を呼んできた。


 し、しまった女性用の水着のデッサンを机に残したままだ!

 真に尻を抓られた。・・・う~んそれでも頬を赤らめている。

 女性用の下着も真がチラリとアンドレの母親に見せたら裸に剥かれそうになっていた。

 アンドレの母親は流石織物協会の会長と言うだけあって洋服や下着に凄まじい喰いつき方だ。


 しかしこれで良い買い物ができた。

 しかし後で今販売している紐のようなエロイ下着よりも扇情的なエロイ下着が出来た。・・・今回の同行者の女性達に少し恨まれたが、レパートリーが増えたと喜ぶ声も多かった。

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